第48話 シショウの力
海底神殿の入り口は、元々はさぞ立派だっただろうことがうかがえる。
しかし今は大ウミヘビ――あとでシーサーペントという名前の魔物だと知ったあいつのせいでボロボロに崩されていた。
瓦礫を避けるように元は美麗だったかもしれないロビーを抜け、さらに奥へ進む。
中央の一番大きな通路は完全に瓦礫に埋まっていて水中で取り除くのも大変そうだったので、そこを避けていったん他の通路を進む。
どこかに魚人はいないものかと探りながら奥へ奥へ進む。
途中にある部屋を一つ一つ覗いていくが魚人の姿は見えない。
しかたないのでそのまま先へ進んでいくと、先ほど崩れていた大きな通路の先らしき場所へ通路はつながっていた。
「でっかいな」
そこには入り口近くで崩れていたロビーよりさらに大きな空間が広がっていた。
横を向くと先ほど瓦礫で塞がれていた大きな通路があり、ほとんど崩れ去っている。
あのときまっすぐに瓦礫を取り除きながら進んでいたらかなり大変だったろう。
『ゴシュジン。おいシそうな匂いスる』
「おいしそう?」
『魚のにオいスる』
ということはこの近くに魚人が居るのだろうか。
しかしシショウの鼻はよく効くものだ。
なんせ今は俺の作った空気の泡の中に居るわけで、水から伝わってくる香りなんてほとんど無いはず。
現に俺の鼻には潮の香りすら感じない。
「見つけても食べるなよ?」
『でもお腹減っタゾ、ゴシュジン』
「それじゃあこれでも食べてな」
俺は
このフィッシュサンドパンはナーントの町に来てから開発した新作料理の一つだ。
薄切りにしたパンの間に、焼いた魚をほぐして骨を取り除いた身を敷き、その上に目玉焼き、葉野菜を重ねて更に薄切りパンで挟んだもので、味付けはもちろんマヨソースである。
魚が挟まっているため、その手の匂いが苦手な人も居るかもしれないが、漁師町であるナーントの人々には好評だった。
『ウマウマ』
皿いっぱいのサンドパンにシショウがかじりついている間に、俺はその部屋の様子を詳しく確認する。
どうやら無理矢理シーサーペントがここまで頭を突っ込んでいたらしく、半分くらいはロビーと同じように破壊されていた。
それでも半分は無事で、天井一面に描かれた美麗な絵や壁面を飾る色鮮やかな貝殻などは残され、シーサーペントに荒らされる前の姿を想像出来る。
「ここには壊される前に来てみたかったな」
きっと一日中この部屋の中を眺めていても苦にならないだろう。
それほど部屋を飾る数々の品々は俺からすると興味深いものばかりだった。
「でもここにもやっぱり魚人はいなさそうだ」
『ゴシュジン』
皿に山盛りだったはずのフィッシュサンドパンをもう食べ終えたのか、一通り部屋を調べ終わった俺にシショウが話しかけてくる。
髭にマヨソースをつけたシショウは『あっチかラ匂いスる』と部屋の一角を指さす。
「あっちって、壁敷かないけど。こっちの通路じゃないの?」
『間違いナい。あっチ』
「お、おいシショウ! 危ないっ」
シショウがとことこと勝手に歩き出して壁の方へ向かおうとする。
だがもちろんそんなことをすれば――
『ガボガバゴボガババ』
慌てて俺がシショウの尻尾を掴んで
「冷たいっ」
『死ヌかト思っタゾ』
「体は無事かい?」
『大丈夫。ぬレただケ』
海底神殿はそれほど深い場所にない。
おかげで水圧の心配はあまりしなくて良いが、それでも地上と同じように調整してある泡の中と外ではその差は無視できないほどだ。
だから一応俺とシショウの体には強化系の魔法は掛けてあるが、実際に海底深くまで潜ったのは今回が初めてなのでいろいろ心配はある。
「そっか。それで本当にあの壁の方から魚人の匂いがするんだな?」
『間違イなイ』
俺はシショウが示していた壁をじっと見つめる。
しかしどれだけ見てもそこに何かあるとは思えなかった。
だがシショウがここまで自信たっぷりに言うのなら何かがあるのは間違いないだろう。
だとすれば何らかの魔法的手段で隠蔽されているのだろう。
「それじゃあやってみるか」
俺は杖を取り出すとその壁に向け、呪文を放つ。
「
その呪文が発動したとたん、目の前の壁がぐんにょりと歪む。
そしてその歪みがどんどん強くなって行き、突然ぱんっと何かがはじけるような感覚が伝わってきたと同時にそれは現れたのである。
「隠し通路……か?」
『言っタ通りダ、ゴシュジン』
胸を張って自慢そうに鼻を俺に向けて突き出してくるシショウ。
シショウが自慢するのもわかる。
先ほどまで壁のあった場所にぽっかりと半円形の穴が開いていて、それはかなり強力な隠蔽がされていたためシショウが居なければ気がつけなかったかもしれない。
「階段ってことはこの下に隠し部屋でもあるのかな?」
穴の先には下へ続く階段が伸びていて、明かりも無いため先は見えない。
ちなみに海底神殿内は光を放つ魔導具が天井や壁に埋め込まれているため予想以上に明るいのだが、その隠し階段には一切の明かりが取り付けられていないのだ。
多分隠蔽の効果を上げるためだろう。
『こノ先ダ、ゴシュジン』
「ああ、わかってる。
俺は杖の先の光の魔法で明かりを灯すと一歩階段へ踏み出したのだった。
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