【ピッコマにて連載中】ひとりぼっちの異世界放浪~最強無敵だけどゆっくり美味しいものを食べて暮らしたい~

長尾隆生

第1話 最強のザコ専

火魔法ブレシングティンダー


 俺の指先から頭ほどの火球が放たれる。

 目標は目の前に立ち塞がる巨体の魔物だ。


「グギャ」


 魔物は油断していた。

 この程度の火球なら腕を一振りで消し去れると。


「体は大きくても頭の中身はからっきしだな」


 振り払おうと横薙ぎに振るわれた腕に火球が当たった瞬間。


 ゴッ!


  ゴッ!!


   ゴゴゴゴッ!!!



    ゴォォォォォォォォ!!!!


 消し去られるはずの火球がその大きさを変えたのだ。


「グギャアアアアオオオオオゥゥウゥ」


 そして巨体の魔物よりもさらに大きくなった火球は、そのまま魔物をその炎の中に閉じ込めた。

 響き渡る断末魔に、森の木々が揺れる。


「暴れられると面倒だな。土魔法ブレシングアース



 俺は炎に包まれている魔物の周りに、魔法で土の壁を造り出しその周りを取り囲んだ。

 これで下手に暴れて周りの森や『俺の大事な得物』を傷つけることはないはずだ。



「ったく。俺の狩りの邪魔するからそうなるんだ」


 ズズゥゥゥン。


 しばらく壁の中で激しく暴れる音がしていたが、やがてそんな地響きと共に消える。

 どうやら息絶えたらしい。


土魔法ブレシングアースっと。ありゃりゃ、わかっていたけど真っ黒焦げだな。これじゃ素材も取れやしない」


 俺はもう一度土魔法ブレシングアースを唱え、黒焦げの巨体を土の中に埋める。

 これで邪魔は居なくなった。


「さて、討伐部位を切り取るか」


 既に何事も無かったかのような平地になっている森の一角。

 そこには無数のゴブリンの死体が転がっていた。


「ああっ、あの野郎。何匹か踏み潰してやがる」


 死体の数は31匹。

 そのうちの5匹ほどが、先ほどの魔物によって踏み潰されてしまっていた。


「部位ごとすりつぶされてやがる……諦めるしか無いな」


 俺は諦めて他の死体の右耳だけを収納魔道具マジックバッグから取り出したナイフで切り落としていく。

 その後、ゴブリンたちの死体を一カ所に集めてから火魔法ブレシングティンダーで焼却し、土魔法ブレシングアースで巨体魔物と同じように地面に埋める。

 そして最後に地面に残った血を清浄魔法クリーニングで綺麗に消して後始末は完璧だ。


「まさかギルドに登録して教えられるのが魔物の死体の処理方法だとはね」


 といっても実際魔物の死体を放置しておくと、別の魔物を引き寄せたりする。

 さらに酷くなると濁った魔素溜りとなって周囲が汚染されることもあるとか。

 そうなると高位の神官を呼んで『浄化』して貰わなければならないらしい。


 なので最低でも、地上では燃やすか浄化して埋めるというのがマナーとなっている。


「ダンジョンみたいに勝手に吸収してくれれば楽なのにな」


 ダンジョン内で倒した魔物は、そのまま置いていても数日でダンジョンに吸収されてしまう。

 理由としてダンジョン自体が生き物なのでは無いかという説もあるが、未だ証明されてはいない。


「まぁ血の臭いで寄ってくるから処理できればしとけって言われたけどね」


 ダンジョンは閉鎖空間なので、炎を使うのは推奨されていない。

 最悪酸欠などで命を落とす危険があるからだ。

 なので大抵はパーティメンバーの中に一人はいる聖属性の回復魔法使いが浄化を行う。


「パーティなんて組んだこと無いけどさ」


 結局今日のゴブリン討伐の成果は26匹まで減ってしまった。


 俺は腕に巻いた小型の時計魔道具マジッククロックを確認する。

 町の門が閉まるまであと2時間。

 今からなら十分まにあう時間だが。


「そういえば昼飯食い忘れてた……腹が減ったな」


 俺は収納魔道具マジックバッグから調理道具を取り出すと、昼飯件夕飯を作ることにした。


 どうせ町に帰っても一人で騒がしい酒場か食堂で食事をすることになる。

 そこには依頼をこなして帰ってきたハンターパーティも沢山やってくるわけで。

 パーティを組んでない独り身の俺にとっては肩身が狭い空間だ。


「部屋で料理できれば楽なのにな」


 住んでいるボロ長屋は木製で火気厳禁なため、部屋で料理を作ることは出来ない。

 魔法で防火結界を作るから大丈夫と言っても、あの糞大家は「規則ですので」と言って聞き入れてくれなかった。


 なので俺はいつも町の外に出てから自分で食事を作って一人で食べていたのだ。


「時間も無いから凝ったものは作れないな」


 俺は手早く半分調理済みの野菜や肉を取り出すと鍋に放り込む。

 収納魔道具マジックバッグの中は時間の進みが極端に遅く、長期間で無ければこう言ったものの保存も可能である。


 火魔法ブレシングティンダーでコンロに火を付け、煮立った所で買いだめしている調味料で味付けする。


「こんなもんだろ」


 俺は味見をして、出来を確認した。

 即席で作った割には十分満足できる味に仕上がっている。


 火を通しておいた作り置きの野菜と肉を使った、簡単具だくさんスープの完成だ。


「いただきます」


 大きめのお椀に目一杯注ぎ、手にしたスプーンフォークを浮かんでいる肉に突き刺す。

 このスプーンフォークというのは俺が自分で鍛冶をして作った画期的な発明品だ。

 半分スプーン、半分フォークの形をしていて、いちいちスプーンとフォークの二つを用意しなくても一個でいいので、こういったスープを食べる時に非常に便利なのである。


「美味いっ。我ながら料理の腕がどんどん上がってる気がするな」


 ほふほふと熱い野菜を口の中で転がしながら自画自賛。


「……まぁ、他の人に食べさせる訳でもないんだが」


 一人でずっと居るせいか、独り言が多くなってしまう。

 だが、黙って黙々と食事をするというのも味気ないし寂しいのだからしかたない。


「はぁ――ごちそうさまでした」


 まだ鍋の中には少しスープは残っている。

 なぜ全部食べないのかというと――――


 ガサガサッ。


 何かが背後の森の中近寄ってくる音が聞こえた。


「来たか」


 俺は大きく深めの皿を収納魔道具マジックバッグから取り出し、鍋を持ち上げて中身を全部その中に注ぎ込む。

 そして空になった鍋をコンロに戻してうしろを振り向く。


『わふんっ』


 魔物が徘徊する森の中。


 だというのに、そんな甘えるような鳴き声を上げて雑草の中から現れたのは、なんと1匹の犬だったのである。



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