第14話 フェリスのフレーバーウォーター
「寂しくなるね」
フェリスの店はちょうど客が全員捌けていて誰も居なかった。
俺は初めてカウンター席という場所に座って、今フェリスと彼女の父親の二人に別れの挨拶を告げた。
「しかしなんだな。ハンターギルドって所はそんなに厳しいのかい?」
「どうなんだろう。俺にも悪い所があった気がしないでも無いし……」
サービスだと出されたフレーバーウォーターを飲みながら答える。
淡い柑橘系の香りが、すっと喉を通り過ぎていく。
「これ、美味しいですね」
「そうだろ? フェリスのアイデアで作ったんだけどよ。暑い日は結構出るんだぞ」
「それね、果物食べながら水を飲んでて思いついたの」
自慢げなフェリスだったが、突然表情を曇らす。
「でもね。最近真似する店も一杯出て来てね……作り方も簡単だし、止めろとも言えないしさ」
「……難しい問題だな」
「しかも大きい店みたいにうちには
その上、注文が少ないからと半分だけ使って保存というのも難しい。
そうぼやく二人を見て、俺は自分が選んだ餞別に間違いは無かったとホッとした。
「ちょうどよかった」
「ん? 何がだ?」
「ちょっとそこのテーブル、使って良いかな?」
俺はカウンターの椅子から下りると、店の中で一番大きなテーブルを指さし尋ねた。
「別にかまわねぇが。何をするつもりだ?」
「壊さないでね」
「別に何かするつもりは無いよ。ただお別れの前に今まで世話になったお礼に餞別を渡そうと思って」
俺がテーブルの方に歩いて行くと、背後から二人の声が聞こえる。
「餞別だなんて。むしろ私たちの方がユーリスには感謝してる位だよ」
「そうだぞ。お前さんが毎回毎回珍しいもんを取り寄せてくれって言うからよ。おかげで俺たちも知らない調味料や食い物のことを知れたんだぜ」
「この店のメニューもどんどん増えて、今もマヨソースを使った料理も研究中なんだ」
マヨソースの新メニューか。
食べたかったな。
「そう言ってもらえると嬉しいよ。でも他の店みたいに門前払いしないで俺の注文を仕入れてくれたのはこの店だけだったんだ」
俺はテーブルの前に立つと、
「だから、本当に感謝してる。これは俺からの餞別だ」
その言葉と同時に、テーブルの上に小さな子供ほどの扉付きの箱が現れた。
二人からすると何も無い所に突然そんなものが現れたのだから驚きだろう。
「ああ、ごめん。俺、
「ユーリス、あなた
「だったらどうしていつも野菜とか、手で持って帰ってたんだよ」
そこまで言ってから二人は気がついたらしい。
「いや、わかった。お前さんが
「ありがとう。まぁ、もう町を出て行くから言ってもかまわないけど。それよりも――」
僕は目の前の四角い縦長の箱をポンポンと叩きながら二人に振り返る。
「これ、餞別の特製
「えっ……嘘でしょ」
「おいおい、
二人は慌てたようにカウンターの中からユーリスの元へ駆け寄ると、口々にそう言った。
「気にせずもらって欲しいんだ。それにこれは買った物じゃ無い」
「盗んだの?」
「フェリス! なんてこと言うんだ」
フェリスの反応は至極当然だ。
俺はフェリスの頭をはたいた親父さんを笑いながら止めると、説明を続ける。
「さすがに盗んだものを人に餞別で渡すわけにはいかないよ。これはね、俺が作ったんだ」
「ユーリスが……作った?」
「ああ。昔、生まれ育った村にいた魔道具師の爺さんに色々教えて貰ってさ」
そう言いながら、肩から提げた
信じられないという顔をした二人の表情を俺は観察する。
「そっか……すごいねユーリスは」
「ただ者じゃねぇとは思ってたが。こいつは驚きだ」
二人の表情には、ただ単に驚きと賞賛の色しか無く。
前に住んでいた町で向けられた欲望に満ちたまなざしはそこには無かった。
俺は心の底でホッとしながら、今回は間違わなかったと安堵して魔道具の説明を始めた。
「この
「
「そう。見かけよりも何倍、何十倍もこの中にものが入るのさ。しかも安全性を考慮して、微生物以上の生き物は中に入れない様になってるのさ」
昔、微生物まで排除する
その失敗が今に生きている。
それから暫くの間、二人に特製
「さて、次は……ギリウスか。今日は遅番じゃ無かったはずだし門の所にいるな」
俺はそう呟きながら、足をいつもギリウスが担当している門の方へ向けたのだった。
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