第26話 【 死 闘 】
「魔法や遠距離攻撃が出来るやつは塀の上から門を襲ってくる魔物を狙え!」
「他の奴らは空から来るものの迎撃と補給っ!」
「魔力回復ポーションと矢と投げられる石っ!! 他にも投げつけられるモンならなんでもいいっ、壁の上に上げてくれ!!」
俺が門にたどり着いた時には、既に現場は戦場になっていた。
詰め所で役割分担を聞いて、俺は門の監視と連絡役、そして現場指示の補助役に決まった。
なんせろくに喧嘩でも勝てない俺は、魔物相手の戦力には数えられないからである。
だが、脳筋どもに比べれば臨機応変に立ち回れる頭があると評価されたのだろう。
俺はとりあえずいつもの職場である門の詰め所へ向かった。
「おい、状況はどうだ」
「やっと援軍が来たか……ってお前かよ」
「俺で悪かったな。それよりも現状を教えろ!」
「見ての通り門は一番も二番もきっちり閉まってる。スタンピードが夜で助かったぜ」
ダンジョンや魔物の発生場所に近いこの町は、もしもの時のために特にダンジョンを正面としている側の門は二重門になっていた。
外側と内側の二つの門は分厚い木と鋼鉄で出来ていて、ちょっとやそっとの攻撃では壊れないと言われている。
「でも魔物は夜の方が凶暴性も力も上がるんだろ?」
「こちらからの攻撃のしやすさなら昼間の方が良かっただろうけど、逆に昼間だったらハンターや商人にも少なからず被害も出ていたろうさ」
「たしかにそうだ。けが人は?」
「今のところはまだ出てないな。張り切りすぎて魔力を使い果たして昏倒した若い魔法使いが数人いるくらいだ」
発生が夜だったおかげで、外に出ていたハンターのほとんどはすでに町に帰ってきていた。
それと偶然だろうが今日はハンターギルドで大規模討伐の成功うちあげ会が行われていたおかげで、泊まりがけの遠征隊も居ない。
「……そうか。大規模討伐」
「どうしたギリウス?」
「いや、ハンターギルドが大規模討伐をやった理由が、最近この辺りでほとんど見かけない高ランクの魔物が出没していたからって言ってたろ」
「まさか、あれはスタンピードの前兆だったってことか」
「そう考えると辻褄が合う。ちっ、やっぱりユーリスがどうとか関係なかったんじゃねぇか!」
俺は怒りのあまりに開いたままの扉を拳で殴りつける。
だが、その音は門外から鳴り響いた轟音によってかき消されてしまう。
「な、なんだ!? 今の音は」
「わからんが、門に何かがぶつかったような……まただ」
どがん。
どごん。
連続で響く轟音と、門から伝わる振動に顔に冷や汗が浮かぶ。
「確認してくる!」
「ああ、頼む」
俺は慌てて門兵の詰め所を飛び出すと、町を囲む分厚い壁の上に向かう階段を駆け上った。
その間にも何度か轟音が響き、強固なはずの壁が揺れて足を取られそうになる。
壁の上への補給に走っていた人たちも、揺れの度に足を止めて不安そうな表情を浮かべていた。
俺はそんな人たちをかき分けるように一気に塀の上に上がると、近くで周りに指示を飛ばしていた男へ声を掛けた。
「この音と振動は一体何が起こってるんだ!?」
「兵隊さんか。もしかするとこのスタンピード、防げねぇかもしれねぇ」
「なんだって?」
「最悪、表の門扉が破壊されたら町の人たちを反対側の門から逃がしてやってくれ」
「だからどうして? この町の壁も門もスタンピードには十分耐えられる強度じゃなかったのか? それに今日はハンターも兵も全員揃っているんだ。戦力も十分で――」
俺は塀の上で必死に攻撃を続けている人たちを見回しながらそう叫んだ。
だが男の顔には余裕では無く悲壮感が浮かんでいて。
ドドドドッ。
何かが打ち付けられる音は止まず、俺は黙り込んだ男との会話を中断して塀の外が見える場所まで駆け寄った。
眼下には次から次に押し寄せる魔物の群れ。
そして先に壁に取り付いた魔物が、後続の魔物に押しつぶされたり門の上から放たれる魔法や弓で次々倒れていく姿が目に入る。
だが、突然その視界に巨大な岩が遠方から飛んでくる姿が目に入った。
「うわっ」
その巨岩は俺の数倍はあるだろう大きさで、続けて何個も飛んできては壁や門にぶち当たり砕けていく。
砕け落ちた破片で他の魔物たちが潰されるがお構いなしだ。
そしてそのうちの一個が塀の上へ向かって飛んできた。
「いくぞ! いっせーのせっ
「
「
塀の上に並んだ魔法使いがタイミングを合わせその巨岩に向けて
狙い違わず放たれた魔法は、猛スピードで飛んできた巨岩を爆裂四散させることに成功した。
「あぶねぇ。あんなのが町に落ちたら……」
俺は町の方を振り返って声を震わせた。
町の中でも各所で空を飛んで侵入してきた魔物との戦いが始まっていて、何カ所かで火の手も上がっていた。
だが、今の巨岩が落ちればその程度の被害では済まないことは明白だ。
「大丈夫か?」
俺は
だがその魔力回復ポーションもあと数本程度しかそこには無い。
こんなことが起こるとは予想もしてなかった以上、町にある在庫は限られている。
魔物たちが魔素切れを起し、スタンピードが治まるまにはまだ時間がかかりそうだ。
本来なら壁と門で十分その時間が稼げるはずだったが――
「あの岩はどこから飛んできているんだ?」
魔法使いの顔色が回復するのを待って、俺は門の上で大声を上げ続けているもう一人の男――ギルドマスターのグリンガルに駆け寄り問いかけた。
「これを使え」
グリンガルは俺に自分が使っていた双眼鏡を投げて寄越す。
慌てて受け取った俺は、それを使って巨岩が飛んできた方向へ向け――言葉を失ったのだった。
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