第6話 ギルド会議
翌日。
新たに手に入れたマヨソースを使ってどんな料理を作ろうかと考えながら、いつものようにハンターギルドに着いた俺は、突然ギルマスであるグリンガルにギルド二階の会議室に来るようにと呼び出された。
「もしかしてまたパーティを組めとか言われないよね?」
受付でグリンガルからの伝言を告げられた俺は、おちゃらけ気味にシャーリーにそう聞いて見た。
だけど彼女は何も答えず、複雑な表情で「ギルマスがお待ちですのでお早く」とだけ告げて奥の部屋に引っ込んでしまった。
「どうしたんだろ。いつも朝は笑顔で出迎えてくれるのに」
首を捻りながら階段を上る。
二階の会議室は階段を上って右側すぐに入り口がある。
俺は入る前に扉を軽くノックした。
コンコン。
コンコン。
「ユーリスか?」
「はい。何か御用だと聞いて来たんですが」
「入れ」
端的に扉の向こうからグリンガルがそう答える。
「失礼します」
俺はグリンガルの声に少し不安を覚え、なるべく丁寧に対応しようとそう告げて扉を開いた。
「!!!???」
そして一歩会議室の中に踏み入れた瞬間、突き刺さるような視線を一身に浴びて、俺の足が固まった。
なぜなら会議室の中にいたのはグリンガルだけでは無く――
「とりあえず一番向こうに座れ」
そう言ってグリンガルが指し示した下座までの間、ずらりと机に居並ぶ面々に、俺はただ事で無いと感じた。
なぜなら底に座っているのはバゴンを始めとする、このカダス町のハンターギルド高ランクパーティリーダーが雁首を揃えていたからである。
「はい……でも、これっていったい……」
俺の問いかけを、腕を組んだまま聞き流すグリンガルと一同。
どうやら彼らは俺は席に着くまではなにも話さないつもりらしい。
仕方なく俺は一番下座の席に座る。
そこから前を見ると、ギルマスを中心として5人の屈強な男女と目が合った。
「……」
このメンバーに睨み付けられると、さすがに俺も萎縮してしまいそうになる。
だが、呼ばれた理由がわからないことにはどうにも出来ない。
「朝は新しい依頼や狩りの準備で皆忙しい。だから単刀直入に言わせてもらう」
グリンガルは俺が座ったのを確認すると、目を見開いて用件を告げた。
「Fランクハンター・ユーリス。お前をこのギルドから追放することに決定した」
「えっ――」
突然告げられた言葉に、俺の頭は全く着いていけなくて言葉が出てこない。
俺がギルドから追放……?
「これはギルドの規約にある【ギルドの指示に従わない者に関してはギルドマスターとメンバーの代表の三分の二の同意を持って追放することが出来る】という部分によるものだ」
「ギルドの指示って、俺何もそんなことしてませんよね?」
「何を白々しい。お前はギルマスから何度もザコ狩りを辞めてEランクに上がれと言われただろう?」
ハンターの一人が俺を睨み付けながらそう声を上げる。
たしかにこの半年は特に何度もグリンガルやシャーリーにまでパーティを組むように言われていた。
「でもそれは俺がパーティを組めないから無理だって――」
「お前がザコ魔物を狩りすぎているおかげで、新人ハンターの教育に支障が出てるんだよ」
グリンガルの隣に座ったバゴンより巨体の――たしかBランクハンターの男が机をドンと叩いて怒鳴る。
最近ゴブリンだけじゃなく他のFランク依頼で倒せる魔物の数は確かに少なく感じた。
前は森に入って少し歩けば出会えたが、今はかなり奥まで行かないと見つからないことも多い。
昨日、帰りが門限ギリギリになった理由もそこにあった。
「そんな。一人のハンターがザコを狩ったとして、魔物がそんなに減るわけないじゃ無いですか」
「現に減ってるから困ってんだよ」
「無茶苦茶な」
どうやら昨日バゴンがグリンガルに呼ばれたのはこの話をするためだったと今更ながらに気がついた。
そして、昨日のうちに目障りな俺を、ハンターギルドから追放すると彼らは決めていたのだと。
「とは言っても、ハンターの資格を取り上げるのは俺たちの本意では無い」
「えっ」
「だから今回の処理は、追放処分の中で一番緩いこの町のギルドのみからの追放処分とする」
「どういうことですか?」
俺は意味がわからずそう問いかけると、別の男が笑いながら教えてくれた。
「わからんのか? この町以外出て他の町のハンターギルドに移れって遠回しに言ってんだよ」
「町を……出て行けってことですか」
「……」
グリンガルは何も答えない。
ギルドマスターという立場からは口に出来ないと言うことなのだろう。
「わかったよ……出て行けば良いんだろ」
「……期限は三日だ」
それだけ言い残すとグリンガルは立ち上がり、一人会議室を出て行く。
続いて他の面々も次々に会議室を後にし、最後に残ったのは俺とバゴンだけになった。
「せいぜい他の町でも問題起すんじゃ無いぞ」
バゴンは溜息をついてそう言うと立ち上がり出口に向かう。
そして外に出る直前にこう言い残したのだった。
「次は俺ももうお前を庇うことは出来ないんだからな」
と。
「えっ!?」
俺はその言葉の真意を聞こうと立ち上がる。
だが、その目の前で勢いよく扉が閉められてしまった。
それは「話はここまでだ」というバゴンの意思の表れのように感じて。
「ってく。なんなんだよ……追放って……俺が何したってんだよ」
ドサッと椅子にもう一度腰掛けて天井を見上げる。
年季の入った天井には所々雨漏りの跡らしき染みがあって、なんだか侘しさを感じた。
その染みの数を数えながら、俺はしばし呆けるしかなかったのだった。
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