閑話:魔人戦争 中編
基本的に魔族種というのは個人主義者が多い。
それは人種と違い個体で強力な力を持っているため外敵が少なく、基本的には空間に存在する魔素をエネルギーとするため群れとなって行動する必要が無いからである。
なので一族や種族ごとの小さな集落はあれど国は存在しなかったために、最初の頃の戦いは散発的なものだった。
しかしそれに対して人種が集団で、武力で対抗するようになると境界域近くの集落まで攻め入るようになっていった。
なにせ一人一人は強力だと言っても人種が何人、何十人もかかって襲って来れば勝てるわけが無い。
そして数が増えた人種は一体の魔族の素材の分け前では満足できない。
自然と次の獲物を探すことになる。
そんな人種にとって、境界域外の魔族集落はまさに格好の獲物だったのだ。
さらに魔族種側にとってやっかいだったのは、人種がそうやって狩りによって素材を手に入れれば手に入れるほど、人種は強く狡猾になっていくことである。
強さにかまけて真っ向勝負しかしてこなかった魔族種と、弱いが故に群れを成し、相手を研究し弱点を突く人種の戦いは一方的なものとなっていったのは必然。
魔族種はみるみるうちに生存域を奪われて行き、やがて戦いが始まる前の五分の一の地を守るのが精一杯となった。
いや、正確には人種の進行がそこで止まったと言う方が正しい。
人種は魔族種が考えるよりも狡猾で欲深かった。
彼らはこのまま魔族種という『素材』を滅ぼすのはもったいないと考えたのだ。
そして人種による魔族種の管理が始まった。
魔族種の生活域の中で魔族種が増えると、間引きと称して人族は軍隊を送り込み素材を得る。
ある程度間引きを行ったら引く。
それを繰り返すのだ。
魔族種の中にも人種の企みに気付いた者もいた。
だが元々個で行動することが多い種族である。
たとえそのことを訴えても人族のようにまとまることは無かった。
――魔王という存在がその地に生まれるまでは。
世界中の文献をどれだけ調べても、魔王の出自はわからない。
だが確実にわかることは魔王という存在が人種では到底かなわないほどの力を持ち、バラバラであった魔族種のほぼ全てをたちまちのうちに一つにまとめていったと言うことだけである。
そしてここに世に言う魔人戦争――つまり魔王軍と連合軍との戦いが本格的に始まった。
魔王軍の力は圧倒的だった。
元々個の力では人種を凌駕する魔族種が力を合わせ、さらに人族の知恵をも上回る戦術を使い始めたのである。
もちろん戦略もしっかりと機能し、ただでさえ強い魔族種たちを支える道筋がはっきりと定まっていた。
魔人戦争で魔王自身が戦場に出て来たのは数度ほどと記録されている。
だが、その全ての局面で圧倒的な力で劣勢に陥っていた魔王軍を救った。
いや……全てでは無い。
一度だけ。
そう、魔王が戦場に現れた一番最後の記録。
その戦いで魔王は初めて人種が送り込んだ『勇者たち』に敗北したのだった。
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