第25話 冬のアイスクリームin四月一日家 下

「「「御馳走様でした!」」」


 四月一日姉妹と幸雪が、手を合わせた。

 鍋の中身は見事に空。

 途中から、胡麻豆乳で味変したこともあってか、見事に食べ切った。

 鮭ハラスのおにぎりも完売。良く食べる女の子って、いいわな。

 俺は土鍋を掴み、シンクへ運ぶ。静さんがグラスを掲げた。

 ……黒龍石田屋は空になり、黒龍垂れ口も半分以上空いている。

 し、酒豪か。


「篠原君~♪ ありがと~☆ 洗うのは、大丈夫だからぁ」

「はい」


 戦慄しつつも、すっかり満足した様子の四月一日へ指示を出す。


「ほら、食器運べ」

「は~い。ねーねー、雪継~」

「?」


 トレイの上に食器を置き四月一日がキッチンへやって来た。

 シンク前に俺と並ぶ。


「アイスが食べたい! 高いのっ!!」

「菓子ではなく?」

「アイス! 珈琲かけるやつっ!!」

「アフォガードか」


 確かに何となく甘い物を食べたくはある。近くにコンビニもあった。

 ……が、時刻は既に夜7時半。

 そろそろ帰るつもりだったんだが。

 静さんがニコニコ。


「篠原君♪ 私、バニラがいいわぁ。もうちょっと、お喋りしていって。さっちゃんの普段の様子も聞きたいし☆」

「は、はぁ」

「ママ! ……雪継、喋らなくていいから。さ、行こっ」

「ちょっと待ってくださいっ!」

「!」


 話を聞いていた幸雪が猛った。

 布巾でテーブルを拭いている妹さんが驚き、硬直している。

 幸雪は四月一日へ叫んだ。


「どうして、貴女と兄さんが一緒に行く前提なんですかっ!」

「え? 女子高生を夜遅くに出歩かせるのはまずいかなって★」

「くっ! 心にも思っていないことを……兄さん」

「――……みんなで行けばいいだろ」

「! 雪継!? 私を裏切るのっ!?!!」

「ふっふ~ん。流石、お兄ぃ。しぃちゃんも行くよね?」

「え? あ……う、うん……行きたい……」


 話を振られた妹さんが、おずおず、と頷いた。ちょっと意外だ。

 四月一日と静さんも少しだけ驚いている。

 俺は軽く手を叩いた。


「取りあえず、寒くない恰好をして玄関集合! 幸雪、21時には帰るからな? 各自、買うアイスは決めておくよーに」


※※※


 四月一日家を出て、四人でコンビニへ向かう。

 ……う~む。

 この集団。傍目にはどう見えるのやら。あんまり考えたくはないな。

 隣を歩く四月一日がニヤニヤ。


「雪継、三人も女の子を侍らして~。やらしいんだー」

「……お前、それは酷いだろうが?」

「そうです。酷いのは四月一日幸さんです。だから、とっとと帰ってください。泥棒猫退散!」

「はい、効かなーい」

「ぐっ! …………私より、胸ないくせに」

「! あ、あるもんっ!」

「私はまだ高校生。まだまだ成長期です。対して――貴女はどうですか? 勝利は私としぃちゃんの手にありっ! ……あれ? 確か、貴女がお姉さんですよねぇ?」

「ギギギ……雪継っ!」

「俺に振るな、俺に。あと、妹さんを巻き込むな」


 何時ものくだらない話だ。

 その間、妹さんは微笑むばかり。

 ……どうやら、嫌々着いてきたわけではないらしい。

 コンビニに到着した途端、四月一日と幸雪はアイス売り場へ。

 残されたのは俺と妹さんだけ。

 取り合えず、謝っておく。


「あ~ごめんね。連れ出してしまって」

「い、いえ……」


 困った。会話が続かない。

 頬を掻きながら、軽くお願いする。


「これからも妹と仲良くしてくれると嬉しい。ああ見えて人見知りだからさ」

「――はい」


 妹さんは今日初めて、はっきりと頷いてくれた。いい子だ。

 アイス売り場では、二人が某高級アイスを物色していた。


「バニラ……でも、ラムレーズンも捨てがたいわね……」

「マガデミアナッツ……チョコチップ……」

「……お前等、決めてないのかよ。アフォガードにするなら、バニラ系しか無理だぞ」

「だ、だって」「どれも、美味しそうなので」

「はぁ……」


 俺は溜め息を吐き、バニラを三つ、少し考えショコラトリュフを籠へ。

 そして、妹さんへ尋ねた。


「どれがいい? 二つでもいいよ」

「…………ストロベリーとリッチミルクがいいです」

「OK」

「「!」」


 妹さんのアイスを手に取りレジへ。賢い子だ。

 すぐさま四月一日と幸雪も、アイス二個ずつを籠へ入れてきた。


「アイス二個、食べていいの?」「いいんですか?」

「自己責任なー」


 ひらひら、手を振りお会計。

 コンビニを出ると、妹さんが慌てた様子で話しかけてきた。


「あ、あの……お金を……」

「大丈夫だよ」

「で、でも……」

「雫、私達、一応社会人なのよ」

「…………姉さん」


 やや緊張感。

 幸雪がちらりと俺を見た。淡々と四月一日へ突っ込む。


「お前は払ってないけどな」

「明日、払いますぅぅぅ! 南部鉄器の薬缶、買いますぅぅぅ!」

「…………それは悪手だろうが、四月一日幸」


 迂闊な一言を発した、大エース様に嘆息する。

 そんなこと言ったら……。

 幸雪が微笑んだ。


「……兄さん。四月一日さん。明日、お出かけされるんですね。御二人で」

「「…………」」

「私としぃちゃん、明日、何も予定ないんです。一緒に連れて行ってくれませんか?」

「だ、ダメよっ! 明日は二人きりで――あ」

「…………幸雪、そんなに面白くないぞ? あと、妹さんまで」

「い、行きたい、です」


 再び失言した四月一日を見捨て、俺は詰問者たる幸雪の説得を試みたが、妹さんが援護してきた。

 俺は四月一日へ目配せ。これ、無理だぞ?

 頬を膨らませた、大エース様は一言。


「……アフォガードとブランデーアイス!」

「はいはい」


 バニラアイスは全部消費される運命のようだ。

 幸雪と妹さんは手を合わせ、はしゃいでいる。

 後で予約していた天ぷら屋へ、電話しておかねば。


 ――明日、どうなることやら。

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