第10話 朝寝坊なクリスマス。外は銀世界なので引き籠り贅沢クリームシチュー 上
翌朝、起きた時には9時を回っていた。
携帯にも連絡はなし。四月一日と幸雪も寝てるんだろう。
欠伸を噛み殺しながら、ベッドから出ると、
「さむっ」
思わず声が漏れた。
近くに置いておいたフリースを羽織り、カーテンを開ける。
曇っている窓から冷気。
――外は一面の銀世界になっていた。
未だ、雪がしんしんと降っている。
「随分と積もったな……こりゃ」
幸雪を送りがてら、イルミネーションでも見に行って、帰りにトレーディングカードの福袋でも物色してくるか、と思っていたんだが止めておいた方が良さそうだ。
携帯をフリースのポケットへ入れ、洗面台へ。
恐ろしく冷たい水で顔を洗うと、覚醒してきた。
どうせ、四月一日達が起きてきたら『お腹へったぁ』と言ってくるだろうから、何か簡単な物を作っておくか。
歯を磨き、髭を剃って、着替え。
もう、出かける気はないので、外見は気にせず、厚手のフード付きトレーナーとジャージだ。
キッチンへ行き、珈琲メーカーをまずは動かし、エアコンを点ける。
次に冷蔵庫をあけ、材料を物色。
「ん~……鶏もも肉が一枚残り。玉ねぎ、人参、じゃがい。牛乳、とろけるチーズ、あり。幸雪が作ったビスケットも何個か残ってる、か」
珈琲を入れ、飲みながら献立を考える。
昨日、グラタン食べたが……材料的にクリームシチューだな、これは。
あっつい豚汁も捨てがたいが……やっぱり、豚肉、こんにゃく、ごぼうを入れたい。また、今度のお楽しみ。
白猫のエプロンを身に着け、材料を取り出す。
珈琲を飲み干し、携帯で四月一日へメッセージを送っておく。
『雪、積もった。今日は引き籠る』
玉ねぎをまずは薄切り。次いで鶏肉は一口大に。
人参、じゃがいもは洗った後、適当な大きさなに切り、ラップをして電子レンジへ。
その間に塩胡椒した鶏肉を、バターを入れた鍋に入れ焼き目をつけるよう焼いていく。焦げはうま味なのだ。
適度に焼き目がついたら、玉ねぎを投入。
玉ねぎがしんなりしてきたら、温めたじゃがいも、にんじんをぶち込み、炒めていく。ここに、カレールーを入れても美味いわな。携帯が震えた。
炒めながら確認すると写真だ。幸雪が猫の人形を抱えて、幸せそうに寝ている。どうやら、無理矢理抱えさせたらしい。
『ふっ……他愛ないにゃ』
『クリームシチュー作ってる。まだ、時間かかるから起こすなよ』
若干、呆れつつ返信。
野菜に火が通ったので、薄力粉。まぶすイメージ。
そうしたら、白ワインを入れ混ぜ、火は強火。焦げもこそぎ落とす。
冷蔵庫から牛乳を取り出し、一本全部。そこへコンソメと溶けるチーズ。
弱火にし30分、煮込む。このやり方、簡単で美味いのだ。
後はビスケットでいいか……少し考える。
「この間にプリンでも作るか」
俺は呟き、準備を始めた。
四月一日のことだ。丁度良い時間になったら、乗り込んで来るだろ、うん。
※※※
「雪継、おっはよ~」「……おはよぉ、おあにぃ……」
「おはよう。幸雪、四月一日は大丈夫だったか?」
二人がやって来たのは、予想通り30分後だった。出来立てのカラメルを硝子の容器へ入れ、挨拶。
俺は未だ寝ぼけ、寝癖もつけたままの妹を労わる。
すると、大エース様はわざとらしく腕を組んだ。
「はぁ!? 私が何をするっていうのよぉ」
「……五月蠅いぞ。うちの妹は朝が弱いんだ。なのに、人形を無理矢理抱かせやがって! 後でどうなっても知らん――お?」
「えへへ……おにぃ。」「!」
幸雪が俺に抱き着いてきて、頭をこすりつけてきた。
……あ~、昔から朝はこうなんだよな。まだ、直らんか。
四月一日はそんな妹を凝視して、硬直。
「ギギギ……説明をしてくれるかしら、篠原雪継君?」
「自分で、ギギギ、って言う奴を初めて見たぞ……?」
「せ・つ・め・い!」
「チビの頃からこうなんだよ。もうちょいしたら起きるだろ。さて、ビスケットを焼いてくれ」
「…………シスコン」
「そーだなー」
「くっ……な、何よっ! 結局、女子高生がいいわけっ!? 高校時代、そんなそぶり見せなかったじゃないっ!!! わ、私だって、まだ制服着られるんだからねっ!」
「語弊があるし、そもそも、お前は何を言っているんだ……」
四月一日の悪態を受け流し、幸雪の寝癖を手で梳いて直してやる。
再び大エース様がそんな俺を見て凝視。何だよ?
突如、自分の頭を抱えた。
「……しまった。雪継が『なでなで』属性持ちだったなんて。リサーチ不足だったわ。今度から、私も寝癖をつけたままにしないと!」
「予めて言っておくが……お前の寝癖は直さんからな? そんな趣味は俺にはない」
「なっ!? こんな可愛くて綺麗な女の子の髪に触りたくないわけっ!?」
「こんぷらいあんす、こんぷらいあんす、です、四月一日幸係長」
「ぶっーぶっー。今度の春で課長になりますぅ~」
「な、んだ、と……」
「くくく……私ってば、それなりに仕事出来るのよね? さぁ、たくさん崇め奉りなさい!」
「――……朝も夜も五月蠅いです。兄さん、おはようございます♪」
覚醒した幸雪が、花を咲かせたような笑みを浮かべた。俺の妹は可愛いのだ。
頭をぽん、とし、お願いする。
「幸雪、四月一日課長(仮)は何やら錯乱しているみたいだから、ビスケットを温めてくれるか?」
「はい、わかりました」
「き~! 別に錯乱なんかしてないわよっ! ……サラダ作る」
むすっとした四月一日が、黒猫のエプロンを身に着け、トマトとレタスを取り出し、サラダを作り始めた。高校の時と変わらんなぁ、こいつ。
……制服わなぁ。散々、高校時代に見たしな。
俺はプリンを蒸していた鍋の火を止め、軍手を装着。
金属バットにプリンを取り出し、作っておいたカラメルを上からかけ、冷蔵庫へ。
二人が目を輝かせる。
「プリン?」「兄さんのお菓子、大好きです」
「後で食べようぜ」
「「わ~い♪」」
四月一日と幸雪が子供のようにはしゃぐ。まぁ……作った甲斐はあったな。
俺は、くすりとし、シチューの鍋を温め始めた。
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