第14話 炬燵・蜜柑・ほうじ茶。これ、三種の神器なり。あと、お汁粉も美味しい

「ねーねー雪継ー」

「あん?」


 蜜柑をむきながら答える。

 最終出勤日を終え翌日。

 俺は自宅の炬燵で、まったり過ごしていた。

 ……何故か、朝から四月一日もいやがるが。

 大エース様はテーブルに顔を乗せ、ぼそり。 


「何日から、実家に帰るのー?」

「明日だなー」

「ええ~! 30日までじゃないのぉぉ」

「五月蠅い。暴れるな」

「…………」


 注意すると、無言で大口を開けた。

 仕方なく、むいたばかりの蜜柑を放り込む。


「甘いねー、これ」

「静岡のブランド品だからな。で、何だっけ?」

「大晦日の夜に、帰れば、いいのにぃ~」

「幸雪が駄々をこねていてな、それは無理な相談だ」

「なっ!? よ、よりにもよって……こ、このシスコンっ! 私は大晦日に帰るのよっ!? 30日まで雪継がいなかったら、私のご飯はどうなっちゃうのっ!? まだ、日にちは残ってる。此処で、踏み止まれば、私の好感度が微量に上がるんだがらっ!」

「次回、篠原雪継、30日から3日までは実家で過ごし、その間、携帯の電源もOFF!」

「ちーがーうぅぅぅ!!!」


 四月一日がジタバタ。……子供か。

 俺は立ち上がり、キッチンへ。

 薬缶に水を入れ、沸かし始める。すると、四月一日も炬燵から這い出て、とてとて、と俺の隣へ。

 棚からほうじ茶の袋を取り出し、急須に叩きこむ。


「こら。ほうじ茶に当たるな。冬場の神様だぞ」

「…………雪継が悪いっ! 私、悪くないっ!! 何よ、ちょっと、本間さんに気に入られたからって、デレデレしちゃってっ! 結局、胸? 胸なわけっ!? それとも、眼鏡!? 私に眼鏡をかけさせて、最後には高校の制服を着させるつもりなの!?!! この変態っ!」

「お前は何を言っているんだ!?」


 錯乱した様子の四月一日へ反論。

 ……つーか、何故に本間さんの名前が??

 疑問に思いつつ、隣の小鍋も火にかける。中身は親父が送ってきた餡子だ。あの人、マメなんだよなぁ。

 むくれている大エース様へお尋ねする。


「お汁粉」

「…………食べる。お餅三個!」

「夕飯、食えなくなるぞ? 蕎麦のつもりだったのに」

「い・い・のっ! ……ふんだっ!」


 四月一日は、ぷいっ、と顔を背け急須を差し出して来た。

 受け取ると、炬燵へと帰還し、埋まり、テーブルに頭を乗せ、ぶつぶつ。


「…………お蕎麦って、年越しに一緒ならいいけど……いいけどっ! 雪継のバカ……女心が分かってないんだからぁぁぁ……どうしてくれようかしら……」


 当然、聞こえんが……おそらく、俺を罵っているものと思われる。四月一日幸の生態は分かるようで、分からんな、ほんと。

 俺は肩を竦め、トースターに餅を入れた。


※※※


「ほれ、出来たぞー」


 温めた餡子の中に焼きたての餅を入れた、お汁粉とほうじ茶入りの急須を持って、俺は炬燵へと帰還。

 未だ、不貞腐れている四月一日の前にお椀と箸、湯飲みを置く。


「……ありがと。ねぇ。雪継」

「あん?」


 湯飲みにほうじ茶を注ぎ、一口。

 はぁ……落ち着く。

 テレビは大晦日の天気を報じている。どうやら、雪になるようだ。

 起き上がった四月一日が続けた。


「初詣はー?」

「地元に行くくらいだな」

「…………神宮はー?」

「混むだろうが」


 箸を取り、お汁粉を食べ始める。

 篠原家の餡子は、砂糖控え目。レシピの半分以下しが入っていない。

 けれど、小豆は結構良いのを使っているせいなのかか、こうして食べてみるとちゃんと上品な甘さを感じる。不思議なもんだわな。

 新潟産の餅を食べていると、四月一日がジト目。


「…………雪継は」

「ん?」

「その……わ、私と、初詣に行きたくないんですか! 今なら着物も着ちゃうけど!!」

「暇なら行くか? お前、痩せてるし着物、似合うと思うぞ」

「っ! ――……う~~~!!!!!」

「な。何だよ」


 突然、四月一日がテーブルに突っ伏し、手をバンバンし始める。き、奇怪な。こいつ、今日、何か情緒不安定だな。

 ピタリ、と動きが止まった。顔をあげ、ギロリ。


「……ねぇ、痩せてるって、それ、私が胸無しだっていいたいわけ?」


 うぜぇ。

 ほうじ茶を飲み、携帯を弄る。

 四月一日がもぞもぞ。


「は~い、詰めて、詰めて!」

「お、おいっ!」


 突然、此方側に入って来た。

 それなりに大きい炬燵を買ったものの、肩と肩がぶつかる。

 若干動揺するこちらに構わず、四月一日は俺に指をつきつけてくる。


「元旦は初詣! 2日は福袋! 3日はぶらぶら。4日はこっちへ戻る!! OK?」

「……2日の福袋は勘弁」

「なら、必要な物を買いに行くっ!」

「食器乾燥機とかか?」

「あ、それは却下」

「はぁ? お前、この前まで」

「い・い・の! 二人分なら、二人で洗った方が早いでしょう?」

「……いやまぁ、それはそうだが」


 釈然とせん。

 すると、携帯が鳴った。


「はい、もしもし」

『お兄ぃ~。ねーねー、何時、こっちに来るの? 今日?? 今日???』

「明日だな」

『わ~い♪ あ、初詣、一緒に行こうねっ!』

「おー」

「おー、じゃないでしょぉぉぉ!!!!!」

『! この声……お兄ぃ、泥棒猫さんが近くにいるの?』

「あ~……」


 諸々、面倒になった俺は四月一日へ携帯を差し出した。

 すると、大エース様は躊躇なく出た。


「私、泥棒猫じゃないですよ? 篠原幸雪さん?」

『! 悪霊退散っ!! 兄さんに近づかないでくださいっ!!!』

「え~でもぉ……篠原君と私、初詣に行く約束をしたので♪」

『!?!! そ、そんなの、う、嘘だもんっ! お兄ぃは優しいから、貴女が一人で過ごすには可哀想だなぁ、って思ってるだけだもんっ!!』

「! ……そ、そうなの? 雪継?」


 不安そうな表所で四月一日が俺に聞いてくる。……いや、どうしろ、と。

 曖昧に笑い、俺はお汁粉攻略を再開するのだった。

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