第8話 雪舞うクリスマスイブに、猫二匹相対す。あ、フライドチキンを作ります 中

 クリスマスケーキを首尾よく回収し、俺達は自宅へ辿り着いた。

 鍵を出し、玄関を開けようとし――止まる。

 中には妹の幸雪がいる。つまるところ。

 隣の四月一日が小首を傾げた


「? どしたの、雪継?? 寒いから、早く入ろうよっ!」

「……お前は一旦、自分の家に帰って、荷物を置いて着替えて来い」

「え~めんどくさい~。別に、着替えこっちにあるもん~」

「そもそも、それがおかしいんだっ! いい機会だ。着替えは持って、お、おいっ!」


 大エース様は俺の言葉を無視。

 合鍵で扉を開けた。

 すぐさま、軽やかに駆ける音。


「お兄ぃ♪ おかえりな――……あ、新聞の勧誘とか間に合っているので」

「私みたいな恰好の新聞勧誘する人はいないわよっ!」

「え? いるじゃないですか。今、此処に。……兄さん、どうして、この人と一緒なんですか? 説明を求めます」


 玄関へやって来たのは、俺の白猫エプロンを身に着けた、肩までの黒髪で、均整がとれた身体付の女子校生だった。

 俺の年の離れた妹である、篠原幸雪だ。四月一日もいるせいか、余所行きの言葉遣いになっている。

 ビニール傘を傘立てへ差す。


「あ~……説明し難いんだが……」

「むっ! 雪継、どうして説明出来ないのよ! この、高校生にもなって兄離れ出来ない妹さんへ現実を突きつけるのもお兄ちゃんの大事な務めでしょう!?」

「……まだいたんですか、泥棒猫さん。私は今から兄さんとクリスマスイブを過ごすんです。貴女は帰って、一人寂しく過ごしてください。ああ、そうだ。ビスケットを焼いたので、それは恵んであげます」

「「っ!!」」


 四月一日と幸雪が睨み合う。

 この二人、俺が高校生だった時分から顔見知りなのだが、毎回、こうなのだ。

 ……それでいて、パーティゲーム等をやらせると、息の合った連携を見せる。女の子は分からん。

 クリスマスケーキの箱を妹に差し出す。


「幸雪、取り合えずこれを冷蔵庫に仕舞ってくれ。後で、詳しく説明するが……端的に言うとだ、四月一日はお隣さんなんだ。因みに偶然だ」 

「!?!! お、兄ぃ!?!!!!」


 妹が激しく動揺。なお、会社の同僚になったことは話していた。

 四月一日幸は、髪をわざとらしくかきあげ、勝ち誇る。


「……ふっふっふっ。長い戦いだったわ。でも、篠原幸雪さん、これで分かったでしょう? 私の勝ちよっ! 諦めなさいっ!!」

「くっ! だ、誰が、貴女なんかにっ!!」

「あ~ほらほら。玄関で争うな。まずは――美味い物を?」

「「……食べる」」

「よろしい。入った、入った」


 俺は二人の背中を押し、玄関を閉めた。

 ……何か、大変なクリスマスイブになりそうだわな。


※※※


 鳥もも肉にラップをかけ、棒でまずは叩き、ぺったんこに。

 次いで、フォークで全体を突き刺し、三等分。余分な脂を切る。

 今回は三枚、9ピース分買ってきているんだが……


「そのじゃがいももっと綺麗に切ってください。兄さんが揚げにくいです。……ふっ」

「! い、今、笑ったでしょう!? 笑ったわよね!?!!」

「笑っていません。私、何処かの泥棒猫さんみたいに、心が狭くないので。兄さんが優しいからって、上がり込むなんてっ! 恥をしるべきです」

「か、可愛くない……雪継っ! 貴方の妹さん、ますます可愛くなくなってるんだけど!?」

「残念だが……俺の妹は可愛いんだ。フライドチキンは」

「「いっぱい食べられる!!」」

「…………了解」


 幸雪が持って来た小さなクリスマスツリーが揺れる、テーブルでジャガイモを切っている四月一日と幸雪が、同時に声をあげた。

 ……何だかんだ、仲良いんじゃ?

 流石に鶏もも肉三枚、9ピースは多いので、一枚は冷凍庫へ仕舞い、もう一枚も同様に処理する。

 ボウルの中に、オールスパイス、ナツメグ、ガーリックパウダー、コンソメ、塩、醤油を入れ、もみ込む。

 このまま常温で30分。

 次に、フライドチキンの衣を作る。

 卵、薄力粉、ここにもコンソメ。そして、醤油。コンソメが溶けるまで混ぜ合わせる。

 手を洗って、次は――黒猫のエプロンを着けた四月一日が駄々をこねる。


「ゆきつぐ~、おなかへったぁ……カボチャのポタージュ、作るぱわ~がないぃ……」

「ったく……先にフライドポテト揚げるか?」

「やった~☆ うん~♪」

「その代わり、サラダなー」

「は~い」


 子供みたいに四月一日がはしゃぎ、冷蔵庫の中から、野菜を取り出し、てきぱきとサラダを作り始めた。

 切り終えたジャガイモを水にさらし終え、キッチンペーパーで拭いていた幸雪が頬を少しだけ膨らました。


「……兄さん、甘やかしは禁止です! それと、どうして四月一日さんが、野菜の場所を――」

「幸雪もグラタン焼いていいぞ~。付け込むの30分くらいかかるしな。先に食べてりゃいいさ。あ、ビスケットはフライドチキンと一緒に食べような。楽しみだ」

「――……はい」

「! 妖気っ! 雪継、ブラコン猫が近くにいるわよ、気を付けてっ!」

「私、ブラコンじゃありません。普通です」

「なっ!?」


 四月一日と幸雪がじゃれ合うのに、くすり、としつつ、切ったジャガイモをジップロックへ。

 その中に、片栗粉、薄力粉を入れ混ぜる。別で、カレー粉と塩も合わせておく。

 鍋に3センチ程、オリーブオイルを入れ、180℃で揚げ。

 サラダを作り終えた四月一日が、ワインセラーへ。背を向けたまま、聞いてきた。


「今晩は白~?」

「ん~どっちも」

「やた~♪」

「飲み過ぎるなよ?」

「明日はお休みだも~ん☆」

「お前なぁ……」


 俺はジャガイモを揚げながら、気を抜き返答。

 四月一日へ軽口を叩こうとし、


「…………『今晩は』? お兄ぃ??」


 ……トースターへグラタン皿を入れた、幸雪が俺を睨んでいるのが分かる。しまった! 油断したっ!!

 失言を悟るも……ここで、見たら負けだ。

 油の音をBGMに無心で、フライドポテト作りに没頭する。

 ポン、という音と共がし、直後、ワインを注ぐ音。

 行儀悪く白ワインを飲みながら、四月一日が揚げたてのポテトを摘まむ。


「あ、こらっ!」

「あつっ! でも、美味しいっ!」

「……俺にもワイン寄越せよ。幸雪、冷蔵庫に烏龍茶があるからな? 良し、第一陣は完成、っと」


 依然としてジト目な妹へ声を、揚げたて、山盛りのフライドポテトへ先程、合わせておいた塩とカレー粉をかけ、完成。

 テーブル上には、カレー風味のフライドポテト。簡単なサラダ。そして、幸雪が作ってくれた、ぐつぐつしているマカロニグラタン。美味そうだ!

 自分でグラスへ白ワインを注ぎ「……う~」と拗ね唸っている、妹の頭をぽん。視線を合わせる。


「何にもねーって。――幸雪、温かい物は?」

「……温かい内に食べる」

「よし。何飲む?」

「……ジュース。絞ったの」

「ほい」


 可愛い妹の為、冷蔵庫から林檎、この前取り寄せた静岡産の味まる蜜柑を使って、フレッシュジュースを作る。

 作りたてを硝子のグラスへ注ぎ、座った幸雪の前へ置く。


「ありがとうございます、兄さん。大好きです♪」

「………………」

 

 機嫌を直した妹に対し、四月一日幸はフライドポテトをむしゃむしゃ食べ、俺を睨んでくる。な、何だよ。

 幸雪が耳元で、荒ぶる大エース様へ何事かを囁いた。


「(――良かったです。安心しました。未だに『堀』しか埋めてないんですね★)」

「(!?!! そ、そ、そそそ、そんなことないし。わ、私はぁ、あ、貴女と違って、大人だし? ゆ、雪継にえ、エッチな目で見られることだってあるしぃ?)」

「(嘘ですね)」 

「(う、嘘じゃないもんっ! ほんとだもんっ!!)」

「…………」


 四月一日幸と篠原幸雪は、二人で内緒話。

 ……まぁ、何を話しているか知らんが、楽しそうで何よりだ。

 俺は、ワインを飲み、揚げたてのフライドポテトを口へ放り込むのだった。

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