第6話 買い出し忘れのぱらぱらしっとりネギ炒飯 下

「「いただきます」」


 四月一日と手を合わせ、まずは中華風スープに手をつける。

 目の前に座る大エース様がじー。

 俺は文句を言う。


「……食べにくいんだが?」

「どうかな~、って」


 もう何度も作っているというのに、未だ気になるらしい。

 ――トマトの程よい酸味が良い感じだ。

 素直に褒める。


「美味い」

「そう? ……えへへ♪ ありがと☆ 雪継の炒飯も食べるね~」

「おう。食べろ、食べろ」


 ぽわぽわ笑う四月一日を促し、俺も一見、店で出て来るような炒飯をれんげですくう。

 油多め、かつ最後の日本酒効果、覿面。だまもなしのパラパラしっとり。

 後から加えた卵もしっかり存在を主張している。


「うんうん。やっぱり、この作り方だね~。私も実家で作ったらママに――……こほん。お母さんに褒められたし!」

「……今更、言い直さんでも。高校時代にも聞いたぞ?」

「あーあーあー! 今の無しっ! 篠原雪継君は何も聞いていません!」

「へーへー」

「む~」


 何時も通り掛け合いをしながら、食事を続ける。

 少しお茶が飲みたいかもしれん。

 立ち上がり、冷蔵庫へ向かうと後方から声。


「はいはい~。私、ビール~」

「飯を食い終わった後、即、帰るなら出す」

「ぶーぶー。これは審議だと思いま~す」

「要求を却下します」

「……雪継の意地悪」


 棚からコップを二つ出し、テーブルへ起き、烏龍茶を注ぎ入れる。

 不貞腐れ、炒飯を豪快にかっこんでいる四月一日の前にコップを置き、椅子着席。

 理由を説明する。


「だってお前、酒を飲んだら、すぐ『今日は泊まる~朝食も作って~』とか言い出すだろうが?」

「あ、もしかして、酔った可愛い私を襲いたくなっちゃう?」

「…………色気をもう少し」

「し・ね★」


 純粋に罵倒され、俺は肩を竦める。

 烏龍茶を飲み、話題転換。


「で?」

「……なによぉ」

「――24、25は予定通りでいいのか?」

「!?!! え、あ……は、はい…………」


 言い淀み、四月一日幸は身体をもじもじ。はて?

 炒飯を食べ終え中華スープを飲みながら、続ける。


「えーっと……24日は帰り合流して、まず買い物。その後、ケーキを回収。フライドチキンとポテトは俺の担当だよな?」

「は、はい。私は美味しいピザとサラダを作ります……」

「何で丁寧語なんだよ」


 苦笑し、中華スープを飲み干す。美味かった。

 未だ身体を左右に揺らし「……きたわよ、幸。ここよ。ここで、勝負をつけるの。千載一遇のチャンスなんだから……」ぶつぶつ、と何事かを呟いている四月一日は放っておき、洗い物をシンクへ運ぶ。んー少し甘い物が欲しいかもな。

 皿等を洗いつつ、聞く。


「なー」

「! は、はいっ!」

「いや、だから何故に丁寧――あ~まぁ、いいわ。この後、俺はコンビニ行くけど」

「――行く~♪ 杏仁豆腐が食べた~い」


 ぱぁぁぁ、と笑顔になり、四月一日が手を挙げた。考えることは一緒か。

 手をひらひらさせる。


「了解。ああ、急がなくていいぞ。なんなら、俺が買って来ても」

「一緒に行く!」 

「……さいですか」


 ここはあっさり退いておく。こういう時の四月一日幸と言い争うのは得策じゃないのだ。

 食器を拭いていると、携帯が鳴った。こんな時間に着信?

 訝しく思いながら、確認。


 ――『篠原幸雪』――。


 訝しく思いながらも出る。


「はい、もしもし」

『お兄ぃ! クリスマス、帰って来ないって本当!?』

「っ!」


 突然の大声に耳が痺れる。

 四月一日にも聞こえたらしく、俺を凝視しているのが分かった。

 左手で、悪い悪い、と仕草をし背を向け妹へ返答。


「あ~……今年は帰らないかな」

『何でっ!? 私、楽しみにしてたのに……』

「う…………」


 本気で寂しがっている声。

 妹は高校生になっても、少しばかりブラコン気味なのだ。チビの頃から、甘やかし過ぎたからなぁ……。

 頬を掻き、釈明。


「大晦日には帰るよ」

『――……ママから聞いたんだけど』

「お、おう?」

『会社の友人さん! と一緒に過ごすんだよね? なら――私も参加してもいいよね?』

「へっ?」


 妹が一際大きな声を出す。

 対して、俺は思わぬ提案にぽかん。すると――


「(……雪継、駄目って言ってっ!)」


 つつつ、と何時の間にか俺の背後に忍びよっていた、四月一日が囁いてきた。

 視線を動かすと、首を振る。唇を動かし『お・さ・け!』。

 ……確かに25日も休みだし、酒も入るだろうしなぁ。


「あ~……幸、当日は居酒屋で」

『お兄ぃの家でするんだよね? それで、フライドチキンとポテト作るって、聞いたよ?』

「…………っ!」


 いきなり、四月一日に足を蹴られた。し、仕方ないだろうが!?

 ――篠原家は季節行事が好きである。

 クリスマス、大晦日、正月は基本的に家族で過ごすのが通例。俺も去年までは参加していた。

 親父はともかくとして、お袋に連絡をしないわけにもいかなかったのだ。

 妹が通達してくる。


『それじゃ、24日の夜、私もそっちへ行くね。会社出る時は連絡して。……そこにいる泥棒猫さん、首を洗っておいてください……』


 通話が終了。

 直後、四月一日が唸りながら、俺の足を何度も蹴ってくる。


「う~う~う~!!!!!」

「痛っ! 痛いってのっ! だーっ! 悪かった。俺が悪かったっ! ……穴埋めはする」


 ピタリ、と攻撃が止んだ。

 振り向くと四月一日が上目遣い。


「…………ほんとぉ?」

「……嘘は言わねぇよ」


 大エース様は、暫く考えた後――こくり、と頷いた。

 そして、俺の左腕を引っ張る。


「なら――許す! 寛大な私に感謝するよーに。穴埋めは考えておくね♪ コンビニ、行こう~。杏仁豆腐~☆」

「お、おお……」


 少しまずったか。

 俺は頭を掻き、未来の俺へ呼びかけた。


 すまん……大変かもしれんが、頑張ってくれ!

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