第40話 レイドバトル開幕 その2


 気づけば、真っ白の部屋に俺は立っていた。


 広さは20畳くらいで、ちょっと大きい目のリビングって感じだな。


 出入口はどこにも無く、部屋にはテーブルと、それを囲むようにソファーが4組。


 で、テーブルの上には茶器とお湯の保温ポッドと……ティーバッグと茶菓子。


 部屋には、ただそれだけがあった。


「色々とツッコミを入れたいところだが、このシステムについては理屈とか考えても無駄だろうな」


 呆れ笑い混じりにそう呟くと、神の声が聞こえてきた。



 ――初めてのボーナスクエスト:レイドバトルです。


 ――レイドとは≪協力≫の意味となります。市民権ないし、準市民権を持つ他プレイヤーと協力してレイドモンスターを討伐しましょう。


 ――なお、レイドバトル報酬は有償虹魔水晶となります。


 ――滅多にないチャンスです。他の種族に横取りされないように同一軍団(レギオン)に属する有資格者――フレンド登録者に限定して救援要請を送ることを推奨します。


 ――なお、レイド救援要請を送らずにソロプレイでレイドモンスターを討伐することも可能です。


 ――その場合、報酬は増えますが、単独での討伐難易度は悪夢(ナイトメア)級に設定されています。確定死の難易度となるので初心者には推奨できません。


 ――フレンド登録者に救援要請を行いますか?



 ――YES  NO



 ん?

 種族、レギオン? やっぱりイマイチ良く分からんが、それはまあ一旦置いておこう。


 っていうか、俺以外にも市民権なり準市民権ってのを持ってる奴がいるのか。


 色々と事情を知れるチャンスだし、ここは問答無用でイエスだ。



 ――検索結果:プレイヤータイガ……フレンド登録者はゼロとなります。救援要請は行えません。



 ズコっと、その場で俺はコケそうになった。


 いや、まあそりゃそうか。


 そもそもフレンド登録なんかしたことなかったわけだし。


 ――フレンド外のプレイヤーに救援要請を送りますか?


 ――なお、レイドバトルフィールド内ではプレイヤー相互における戦闘行為は行えません。


 ――殺意、あるいは害意を抱き、実行に移そうとした瞬間に対象者は失格扱いとなります。その場合、次元転移で元の場所に強制転移となります。危険性はありません。


 ――フレンド外のプレイヤーに救援要請を送りますか?


 もちろん、イエスだ。


 なんせ協力バトルってことだからな。


 だが……他種族? 殺意? 害意?


 さっき、他の種族に横取りとか言ってたし……どういうことなんだ?

 


 ――プレイヤー:タイガの総合戦力評価:Eランク


 ――支配的種族:人間。それ以外の種族も含め、現存する全てのEランクプレイヤーに救援要請を送りました。

 

 ――残参加枠:10。レイド参加締め切りまで残り1時間です。




 ああ、なるほどな……と俺はそこで手を打った。


 紅茶やらソファーやらは複数人前提だったし、参加者がこれから続々とこの部屋を埋めていくということか。


 参加枠は10……ボーナスクエストとか、他種族に横取りされないようにって言うくらいだから、すぐに殺到して枠が埋まるって感じになるのかな?


 しかし、他プレイヤーか……。


 どうやら、今回で色々な謎が明らかになるだろう。


 と、そんなこんなで、俺はまだ見ぬ他プレイヤーに思いを馳せながら、紅茶を飲み始めたのだった。




 ☆★☆★☆★




 ――レイドバトルまで残り1分。カウントダウンを開始します。



 ――59


 ――58


 ――57




 頭の中で、文字通りのアラート音が響く。


 そして、容赦なくカウントダウンは進んでいく。


「こりゃあ……不味い……」


 今の状況を端的に説明すると――レイドバトルの参加者は残り1分を切ったというのに、未だに俺一人。


 つまりは、あれから結局、待てど暮らせど他の参加者は現れなかったってことだ。


 そして、さっきの神の声の説明によると、ソロプレイでのレイドモンスターの討伐難易度は悪夢(ナイトメア)。


 確定死級の難易度とかって言ってたよな?

  

 背中に冷や汗が伝い、自分でも顔から血の気が引いているのが分かる。


 確定死……その言葉が何度も何度も頭を反芻(はんすう)する。




 ――残り30秒



 ――29


 ――28


 ――27



 背中に流れる嫌な汗が止まらない。


「もう、一人でやるしかない」


 ソファーから立ち上がり、抜剣し臨戦態勢に入る。

 が、斬馬刀の巨大で無骨な刀身が酷く頼りなさげに見える。


「……マジかよ。本当に勘弁してくれよ」


 が、言葉も空しく、頭の中のアラート音が止まらない。

 


 っていうか、本当にどうして誰も来ないんだ?



 これはボーナスクエストじゃないのか? 

 美味しい報酬があるって話で、横取りとか奪い合いとかそういう感じじゃないのかよ?


 が、やはり容赦なくカウントダウンは進んでいく。


 

 ――4


 ――3


 ――2


 ――1



 そして、俺の頭の中で≪神の声≫による開幕が宣言された。




 ――レイドモンスター、屍人拷問官:切り裂きベネディクトがバトルフィールドに出現しました。



 ――さあ、狩りの時間です。



 ――なお、参加者はレイドモンスター発見者のみとなります。クリアー時の有償虹魔水晶は2倍となります。



 ――それでは、協力(レイド)バトルを開始します。

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