第18話 不正アクセス者殺害ミッション その1 

 そうして、思いっきり窮屈な穴を何とか抜け出て外に出てきたわけなんだが……。



「……ん?」



 俺は街へと戻るいつもの森の一本道を歩いていたんだ。

 でも、なんだが、何やらいつもと違うような……。


 俺は周囲の光景をキョロキョロと見て、本日何度目か分からない感じで「はてな?」と小首を傾げた。


 どことなくというか、明らかに違和感を感じるというか。


 道は幅の半分くらい雑草で生い茂っているし、森の樹木の葉の付き方なんかも前とはかなり違う気がする。


 と、その時、俺は遠目にスキンヘッドの大男が率いる10名程度の武装集団を確認した。


 向こうも俺とほとんと同じタイミングで気づいたようだ。


 連中の装備は冒険者とは少し違う感じで、雑多というか野蛮というか……はっきり言うと山賊っぽい感じだ。


 しかし、この辺りは街にも近いし衛兵が目を光らせている地域だ。


 そもそも山賊には討伐報奨金が出ているし、冒険者が多いこの森では連中はカモのはず……。


 だからこそ、ここは商人にも採用されている安全なルートとなっているわけだし。


 と、まあ山賊稼業をやるなら街から離れた辺鄙なところと相場が決まっているはずだ。 


 でも、見た目も山賊っぽいし……と、俺が訝しんでいると50代くらいの年と思われるスキンヘッドの大男に連れられて、一団が俺の方に歩いてきた。


「おい、兄ちゃん」


「何でしょうか?」


「見たところ冒険者に見えるが、こんなところを一人で歩くとは良い度胸だな?」


 良い度胸も何もここは普通の森の街道だろうに。


 女子供や老人が出歩くならともかく、冒険者が歩き回る分には何の問題もない。


 本当にどういうことなんだろうと思っていると、スキンヘッドの大男は俺にこう尋ねてきた。


「よほど腕に自信ありってところなのか? お前の冒険者ランクは?」


「えーっと……まあ、人並み程度ですよ。Dランクといったところです」


 と、Dランクと言う言葉で武装集団の中で「ドっ」と笑いが走った。


「装備を見る限り本当にDっぽいな……いやはや、本当に命知らずな奴だな。その胆力は買ってやるよ」


 そうして男たちはひとしきりに笑った後、俺に向けて……舐めつけるような視線を送ってきた。


 それは、奴隷市場で美人の女奴隷を見定める下卑た男の視線のような。


 あるいは、猟師が怪我をして動けない鹿を運よく見つけたような……。


 つまりは、これからどうやって料理してやろうかと、そういうった類の値踏みの視線だ。


 と、なるとやっぱりこいつらは山賊ってことなんだろうが……一体全体どうしてこんなところに山賊が?


「しかし、ケント暦2年にもなってこんなバカがいるとは……神ってのもいるもんだな」


「ん? ケント暦って……何のことでしょうか?」


「あ? この国――今のグリシア国の年号だろうが?」


 お互いがお互いにお見合いになってキョトンとした顔になる。


 確か、この国の年号はエリシア暦だったはずだが……?


 と、そこでスキンヘッドの大男は「なるほど」と頷いて手を鳴らした。


「ああ、お前は外国の人間か? 遠国からの人間だと、今のこの地域の状況を知らない奴は未だにいるらしいからな」


「……詳しく聞かせてくれないか? どうして年号が変わっていたり、森の道が雑草で荒れたりしているんだ?」


 男は一瞬、背中にしょっている山刀(マチェット)に手をやる。

 が、考え直したように「仕方ねえな」と下卑た笑みを浮かべた。


「冥途の土産に教えてやるよ。まず異世界からの転移者であるケントは3年前に歴史的な規模の魔物の大氾濫(スタンピード)を止めた功績で英雄となったんだ。爵位も上等なものを貰ったようだな」


「異世界からの転移者ケント? 冒険者パーティー≪暁の銀翼≫の?」


「ああ、最終的には50人規模の大規模冒険者クランを率いていたようだな。で、幹部の異世界転移者の女たちも爵位を貰って、今では大貴族様ってやつだ」


「……それで? どうして年号がケントなんだ?」


「ま、英雄ケントは3年前にお姫さまを娶ったって話だ。救国の英雄とお姫様ってんだから、王宮的にも国民の人気取りにアリアリってなわけでな……で、先日国王が崩御して、代替わりで英雄様が国王になったと」


「……エリシア暦は何年で終わったんだ?」


「32年だな」


 なるほど。

 俺があのダンジョンに突き落とされたのはエリシア暦21年の出来事だ。


 つまりは、あの時から10年程度がたっている……と。


 普通ならこんな話だけでは俺も納得しない。

 けど、道の荒れ果て具合はまだしも、樹木の葉の付き方なんかが変わるには相当な歳月が必要だからな。



 そして何よりも、竪穴で蜘蛛が遅かったのは……そのものズバリで外と中で時空が違っていたということだ。


 あの中と外では時間の流れが違う。そう考えれば全ての話につじつまがあう。



「それで、どうしてこの道が危ないんだ?」


「昔は商業の街道としても使われていた道だが、ここいら一帯の街は魔物の大氾濫(スタンビード)でかなり前に亡んじまってな」


「で、今では山賊が蔓延(はびこ)る危険な道になったと?」


「そういうことだ。それで、もう察してるとは思うが俺は泣く子も黙る賞金首:イザック様ってわけよ」


 イザックと言えば、腕の立つ山賊と言うことで有名だ。


 並みの冒険者であれば3人以下の人数では近寄らないほうが良いって聞いたことがあるな。


 しかし、手配書類では確か年齢は30後半くらいだったはずだ。


 それが見た感じ50代……やっぱり、そういうことか。もう間違いない。


 確実にダンジョンの外と中では時間の流れが違うんだ。


「色々と教えてもらってありがとうございます。それでは……私はこれで失礼します」 


「おい兄ちゃん? 俺たちが見逃すとでも思ってんのか?」


 まあ、そうくるだろうな。


 仕方なく俺は腰の短剣に手を伸ばした。


「さっきも言いましたが、これでも俺は冒険者です。そちらも無駄に負傷者や死者は出したくないはず……見逃して貰えればありがたいです」


「つっても、お前さんはDランク……つまりは一山いくらの並みの冒険者だろ? あいにくだが、俺たちゃ精鋭揃いでな。ともかく身ぐるみ置いてきな……命と一緒にな」


 敵の数は10人程度。

 既に俺を取り囲むように配置も終わっている様子だ。


 それにイザックの言うとおりに全員が素人ではなく、一定以上の手練れということも取り囲む際の淀みない動きで分かる。 


 昔の俺だったら、このままナマスに刻まれてお終しまいだった。


 けれど≪能力値≫という力を得た、今の俺なら……実際にはどうなんだろうか。


 ともかく、身に降りかかる火の粉は排除するしかない。


 と、その時、俺の耳にアラート音と共に神の声が聞こえてきた。



 ――人間からの明確な殺意を確認


 ――山賊団の首領:殺害数50オーバーを確認


 ――プレイヤーキラーと判断しました。


 ――なお、対象者の市民権及び準市民権は確認されません。またNPCとしても登録されていません。市民権を持たない人間と判断されます。


 ――愉快犯によるシステム不正アクセス者と断定。特別ミッションが発動します。



 特別ミッションだと?

 と、そこで俺の眼前にステータスウインドウが眼前に突然現れた。

 すぐに画面に文字が浮かび上がり、そこにはこんな文言が書かれていた。




 ・特別ミッション


 不正アクセス者の排除

 対象者は縺カ縺。谿コ縺励※縺上□縺輔>につき、殺害してもペナルティはありません。

 滅多にないチャンスです。

 遠慮なく狩って、特別な報酬をゲットしましょう。


 報酬:不正アクセス者1キルにつき、能力値×1



 ※ なお、打倒・無力化ではなく殺害でなければ報酬は発生しません

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