色欲の性獣と200匹のオーク
第17話 外に出ました。どうやらショップ機能もあるようです。
「ショップ機能だと?」
ステータスウインドウを呼び出すと、そこには確かに「ショップ(NEW)」との記載があった。
はたしてこれはどういうことなのだろうと思ったその時、モンスターハウスの方の横穴からズシーンズシーンと重低音の足音が響いてきた。
「不味い、ミスリルゴーレムだ」
足音は明らかにこちらに向かって来ている。
と、すかさず俺はすぐに壁に向かって飛びついた。
鉢合わせした瞬間にアウトなことが確定している強敵だ。
三十六計逃げるに如かずってのは正にこのことだ。
「流石にあの巨体じゃ壁は昇れんだろう」
そう判断し、俺は一心不乱に壁を昇り始めたのだった。
昇る、昇る。
ただひたすらに壁を昇る。
壁の凹凸に手をひっかけ、体を持ち上げる。
そして、壁の凹凸に足を置いて、やはり体を持ち上げ上方へ。
そんなことを繰り返しながら、1時間くらいは昇っただろうか
ただただ頭上に続くのは竪穴の似たような光景だ。
蜘蛛は最初の一回以降は出てこなかったので拍子抜けしたが、それでも絶対に警戒は怠らない。
そこで、俺は「はてな」と目をこすった。
と、言うのも頭上の光景が、どうにもボヤけているというか歪んでいる風に見えたのだ。
「どういうことだ?」
目を凝らしてみても、やはり歪んでいる風に見える。
そして、ボケけた視界ながらもその先に光が見えた。よく見ると、横穴からこちらに向けて光が差し込んでいるらしい。ああ、あれは間違いなく――
――太陽の光だ
どうやら、あそこが出口である可能性は非常に高いようだ。
良し! やっときたか!
と、思うが他にも気になることはある。
それは今、丁度俺の背面の側にある横穴だ。
こちらは上の光り差し込む横穴とは違って漆黒の闇の状態で、中は一切うかがい知れない。
けれど、耳に聞こえてくるのはカサカサという音で……蜘蛛の赤く光る眼が、横穴内部にチラリと複数見えた。
「……」
だが、大丈夫だ。
向こうはこっちにはまだ気が付いていない様子に見える。
俺は可能な限りに静かに、そして速やかに上へと昇り始める。
そうして、100メートルほど登って、やっぱり頭上に向けて「おかしいな」と首をかしげる。
やはり、この上の空気が、ある地点を境に歪んでいるように見える。
いや、明らかに歪んでいる。
向こう側の壁やらがゆらめいて、まるで陽炎のように……。
あと10メートルも昇れば歪みの境界線に突入するわけだが、非常に不気味ではある。
はたして、ここを何も考えずに通過しても良いものか。
そんなことを考えながらさっきの横穴に視線を落とすと、さっきの横穴から物凄い勢いでワラワラと蜘蛛が溢れ出てきていた。
あ、こりゃ不味い。
「どうする? この場で戦うか?」
自問自答するが、すぐに俺は戦うという選択肢を引っ込めた。
蜘蛛の数は目測、50、100……いや、それ以上。
あんな数を捌ききれる自信はないし、太陽の光が差し込む出口の横穴はこの地点から頭上20メートル~30メートル程度のところだ。
どう考えても、蜘蛛が俺に襲い掛かるよりも、俺が昇る方が早い。
これ以上はもう賭けはしたくないし、賭けをする必要もない。
ただ、境界線の空間が歪んでいるのだけは気にかかるが……。
「ええい、ままよ!」
そう叫び、俺は一気に壁をよじ登り始めた。
歪みに差し掛かると、体表にぬるま湯のゼリーのような微かな抵抗感を感じた。
が、特に他には何も変化は無く、俺はそのままの勢いで光の横穴へと向け一直線に。
そして――。
「よっし!」
横穴へと昇り切った俺はそう叫んだと同時に、下の蜘蛛を確認した。
「……ん?」
蜘蛛たちは物凄い数が俺に向けて昇ってきているが……止まっているように見える。
「どういうことだ?」
本当に停止したかのような状態で、俺は「はてな」と小首を傾げた。
と、同時にアイテムボックスを呼び出し、拳大の石を取り出した。
「何だか良く分からんが拾える経験値は拾っておこう」
そうして蜘蛛に向けて全力で石を投げて、俺は絶句した。
「石が……消えた?」
そうなのだ。
俺が投げた石は歪みの境界線のあたりで急に見えなくなったんだ。
――不正行動。システム管轄ダンジョン外からの攻撃は認められません。ダンジョン内に再突入する場合は≪冥界への鍵≫を使用してください
おいおい、本当にどういうことだよ?
そうして俺は蜘蛛の様子を眺めて「あっ!」と息を呑んだ。
と、言うのも、連中は停止しているわけではなく、微かに……本当に微かに動いていたんだ。
超スローモーションとでもいうべき感じで、数分観察してようやく分かるような微かな動きだったが、確かに動いていた。
「……中と外では時間の流れが違うとでもいうのか?」
まあ、ともかく蜘蛛は100メートルは下にいるわけだ。
ナメクジみたいな上昇速度だし、もうアレを危険と認識しなくても良いだろう。
そうして俺は横穴の先を確認してみる。
そこには落盤して塞がれたと思われた通路があり、岩と岩のスキマから外に光が差し込んでいたんだ。
「……外に出れんのかこれ?」
また竪穴を昇れば、元々落下してきたダンジョンにはつながるだろうし、ここはあそこよりは高度が低い場所ってことなんだろうな。
その意味では、確実に外に出れるってことで絶望感は無いんだけど……。できればこのまますんなりと出たい。
「良し」
探すこと数分、どうにかこうにか、俺一人なら潜り込めそうなスキマがあった。
かなり窮屈だが、これなら何とかなるだろう。
と、安堵したところで、俺はステータスウインドウを呼び出した。
「ショップ機能」
ま、これはミスリルゴーレムでお預けを食らっていたからな。
このステータスウインドウのシステムは、能力値にしてもぶっ壊れの性能だったし、このショップ機能で俺は俺自身を更に飛躍的に強化できる可能性が高い。
はたしてどんな機能なんだろうかと思っていると――
――所持:虹魔水晶0。ショップ機能使用不可。通貨を用意してください
「金ならいくらか持っているが?」
実際、懐の財布には1週間くらいなら寝食に困らない程度の金は入っている。
――現地通貨ではなく有償虹魔結晶を用意してください。ショップ機能使用不可
有償通貨……? 何のことだ?
まあ、それはともかく。
「ようやく出れた……」
いや、絶対死んだと思ったもんな。正に九死に一生だ。
と、俺は外の光に安堵しながら……その場でへたりこんだのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます