第19話 不正アクセス者殺害ミッション その2

殺害……だと?



いや、山賊なんかの賞金首はその場で殺しても構わないし、ギルドに生きたまま引き渡してもこいつ等はどうせ縛り首だ。


武装を解除し、投降してくるならまだしも、向こうがこっちを殺る気で来ているなら、何の遠慮も必要ない。


だから、そこは問題じゃない。

だけど、プレイヤーキラーとか特別ミッションってどういうことなんだ?


と、俺はその時、始めて少しだけ≪神の声≫に不穏なものを感じたが――



「ま、大人しくしてりゃあ苦しまずに殺してやるよ」



考えるのは後だ。

今、問題にすべきは山賊賞金首のイザックなのだからな。


こいつは冒険者であればC級上位相当で、ベテランの中でも上位に属する。


いわゆる凄腕って奴だな。


周りを固める手下の連中もC級の下位程度の腕前って以前に聞いたこともあるし、全員が全員素人ではない。


まあ、一言でいえば名の知れた山賊団だ。


冒険者に護衛された商会の輸送団(キャラバン)を真正面から襲撃するみたいな武勇伝も聞いたことがあるし、本来ならレベル24の職業:村人である俺一人でどうこうできるわけがない。




――そう、本来ならな




「それじゃあ俺は降伏します。どうせ抵抗しても殺されるだけ……痛いのは嫌ですからね。本当に苦しまずに殺してくれるんですか?」


その言葉でイザックはキョトンとした表情を作った。



「はは、こいつはとんだ腰抜けだ――なっ!?」



腰の短剣は都合4本。

全てナイトウォーカーから奪った短剣だ。


イザックが驚いたのも無理はない。


なにしろ、降伏すると言った舌の根も乾かぬうちから、俺は両手を使って短剣を抜き、そして――投げたんだから。


そして、投げる先はイザックではなく、俺の左右に展開している山賊Aと山賊Bだ。


元々、連中は絶対的優位で油断していたし、俺の降伏宣言で更なる油断も引き出せた。


が、相対しているイザックはそれでも完全には警戒は解いていなかったので――



――まずは数を減らすっ!



シュっ!


風切り音と共に短剣が山賊たちに飛んでいく。


筋力に大量にポイントを振っているので速度は十分。


なおかつ、器用さの能力値の補正のおかげかな。


両手投げという曲芸にもかからわず、寸分たがわずに狙った頭部に吸い込まれていく。


「うぎゃ!」


「ぐじゅっ!」


「たうわればっ!」


そして、二人じゃなく3人の悲鳴が聞こえてきた。


そう、投げたナイフは2本なのに、悲鳴は三人だ。


どういうことだ……?


と、チラリと左右を見たところで俺は絶句した。



「頭が……弾けてやがる」



そうなのだ。


短剣が頭に刺さるのではなく、貫通していたのだ。


倒れた山賊AとBの頭部には赤い薔薇の華が咲き、一部爆裂四散したかのように肉片と脳漿も飛び散っている。


で、オマケとばかりに山賊Bの背後にいた男の右肩にナイフが突き刺さっていた。



――おいおいマジかよ



貫通って……どういうことなんだよ。


今の俺が投げた短剣って、一体全体どういう速度なんだよ……。


筋力値補正がヤバいのは知ってたが、まさかここまでとは。


いや、良く考えればジャイアントスパイダーを、ただの拳大の石コロで100%壁から引きはがせたんだから……つまりはそういうことか?


――プレイヤーキルを確認。特別報酬をゲットしました


――プレイヤーキルを確認。特別報酬をゲットしました


そして、その光景を見ていたイザックは俺に向けてポカンとした表情を作っていた。


「……え?」


いや、え? と聞かれても俺にもよく分からん。


しかし、そこは泣く子も黙るイザックだ。すぐに状況を把握し、神速で背中の山刀(マチェット)を抜いた。


「テメエ! Dランクだと嘘ついてやがったな!?」


そうして大上段から俺に向けて振り落とされる山刀(マチェット)。


目にも止まらぬという言葉は正にこのことだろう。


以前の俺だったら絶対に反応は不可能な速度だったと、何となくの感覚で分かる。


が、レベルが上がった影響もあってか、ギリギリで反応できた。


短剣は剣同士の打ち合いには向いていないので、俺も長剣を抜いて、振り落とされる山刀(マチェット)へ向けて斬り上げる。


ちなみに、これは攻撃ではなく防御のためだ。


と、いうのも――剣と剣がぶつかって、押し合い圧(へ)し合いの鍔(つば)迫(ぜ)り状況になれば、俺の筋力値で推し勝てるだろうという算段だな。


カキンっ!


空中で火花が散り、長剣と山刀(マチェット)がぶつかり合う。そして――



「なん……だ……と?」



イザックはただただ呆然と立ち尽くし、口をポカンと開ける。


それは俺の周囲を囲む山賊も同様だ。


いや、もっと言うなら……それは、俺すらも同様だ。



俺も含めた全員が、その場で口をポカンと開いていた。



と、言うのも、くるくると円を描きながら、山刀(マチェット)の刃が空を舞っていたんだ。


つまりは、斬り上げた俺の長剣は、イザックの山刀(マチェット)の刃を根元付近から文字通りに――斬り取っていたのだ。



――剣で剣を斬る



達人の領域ならあり得る話だとは聞いたことがあるが、こんなことが……本当に起きるのか?


いや、でも……確かに俺が切り上げた剣速は恐ろしい速度で、自分でも見えないほどだった。


おいおいおいおい、マジかよ?


筋力値ってここまでヤバいシロモノだったのか?


と、そこで俺は、戦闘中だというのにこう思ってしまったんだ。





――俺……ひょっとして……とんでもなく強くなってないかコレ?

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