第20話 不正アクセス者殺害ミッション その3

 ――俺……ひょっとして……とんでもなく強くなってないかコレ?



「あ……あ……剣が……斬られ……」


 ただただ呆然と立ち尽くしているイザックの頭に向けて、俺は長剣を振り落とした。



「――シッ!」



 やはり、とんでもない剣速だ。


 自分でほとんど見えないんだから、ここまできたらもう……凄いを通り越して怖いくらいだ。


 でも、自分の剣速が自分で見えない……というか、把握できないってのも何か変な話だな。 


 と、まあ、それは良しとして。


 俺の長剣はイザックの頭に命中し、頭天から股までをかけて一刀両断した。


 そう、文字通りに一刀両断だ。



「あぎゅふぶっ!」



 奇声をあげながら、イザックは体を左右対称に分裂してズシャリと崩れ落ちた。



 …………軽鎧を着込んだ人間を脳天唐竹割りからの真っ二つかよ。



 別に俺は剣技の達人でもなんでもない。

 

 基礎はできているが、人様に誇れるような技なんてない。


 剣術のスキルも一切ないしな。


 つまり、今のは純粋に腕力でやってのけたわけだ。


 って、おいおい、本当にどうなってんだよ俺の筋力は……。



 ――プレイヤーキルを確認。特別報酬をゲットしました



 で、神の声は相変わらずの淡々とした感じかよ……。

 

「あ、あ……」


「ど、どうすんだよコレ」


「イザックの兄貴を真っ二つ……? Bランク……いや、その上位まであるぞコレ……」


 周囲の山賊たちは瞬く間に4人がやられたことから完全に呆然自失となっている。


 いや、俺も自分自身で信じられないし、気持ちは分かる。っていうか、逆の立場だったらこんなの俺でも怖い。


 だが、相手が油断している今のチャンスを見逃す気もない。


 そうして、俺は振り向きざま残る2本のナイトウォーカーの短剣を背後に投げた。


 ズシャリ。


 山賊Cの頭を短剣が貫通していく。


 爆裂四散という形容が相応しい感じで頭が弾けて、血と脳漿(のうしょう)の赤い薔薇が咲く。


 ズシャリ、スシャっ。


 山賊Dの頭を短剣が貫通し、その背後にいた……巨体を誇る山賊Eの胴鎧に短剣が突き刺さった。


 頭が破裂した山賊はもとより、巨体の男もその場で血を吐きながら膝をついた。



 ――プレイヤーキルを確認。特別報酬をゲットしました


 ――プレイヤーキルを確認。特別報酬をゲットしました




 良し、これで5人は始末した。

 残りは3人と……戦闘不能が二人ってことだな。



「こ、こいつは凄腕中の凄腕だ! どうせ逃げても逃げ切れん! やられるくらいなら玉砕覚悟でやっちまえっ!」


 

 残りの連中も恐慌状態から立ち直ったらしく、言葉通りに俺に一斉に距離を詰めて切りかかってきた。


 いや、さすがに残り3人じゃ俺の相手はキツいんじゃないか?


 何か良く分からんが、俺って物凄く強くなってるみたいだし。


 そう思ったところで、俺は異変に気付いた。



 ――反応が、できない。



 いや、正確に言うと最初に飛びかかってきた眼前の一人は長剣を水平に薙いで、既に切り伏せている。


 横からの攻撃も、背後からの攻撃も、俺よりは遥かに遅いし、対処できないこともないと……感覚では分かる。


 が、横と背後からの攻撃に体が一切反応できないのだ。


 体が自分のものでないように重く感じる。


 いや、違うな。


 これは、運動神経や反射神経が体の……俺自身への筋力の運用に追い付いていないんだ。


 例えるなら、重量級のトラックのエンジンに軽自動車のエンジンがついているような感じか。


 ああ、そうか。


 イザックへ繰り出した、自分自身の攻撃の速度が良く分からなかったのも視神経関係の反応が全くおいついていなかったからか。


 それはつまり、恐らくは、今の状態の原因は筋力の数値に見合うだけの≪敏捷値≫が付与されていないということ。



「ぐっ!」



 反応できずに背後から突かれて、右肺を貫かれた。


 そして横合いから右手をザックリと斬られて、半ば切断されたような状況になる。


「や、やったのか!?」


「どんな凄腕でも胴体貫かれて平気な奴はいねえっ! トドメだっ!」



 それで山賊が俺に向けて追撃を繰り出そうとしたところで――




 ――食いしばり発動!




 態勢を立て直した俺はカウンターとばかりに超筋力で剣を振るう。


 すると、すぐに真っ二つとなった死体がそこに出来上がった。



 ――プレイヤーキルを確認。特別報酬をゲットしました



「ひ、ひ、ひいいいいい! な、な、何だ!? 何なんだお前は!? 何で動ける!? 生きている!?」


「生憎だが、村人にはチートスキルがあってな」


「む、む、村人!? 職業:村人!? なんで村人のお前がそんなに化け物みたいに強いんだよっ!」


「俺に聞かれても分からん」


 しかし、食いしばりってのも本当にチートだな。


 村人自身の実力が雑魚過ぎるから上手く使えなかったが……今の俺の力で15秒の無敵時間は、ぶっちゃけヤバすぎる。


「じゃあな」


 そうして俺は戦闘可能な山賊の最後の一人に、剣を振り落とした。


 しかし、ダンジョン内ほど絶望的ではないといえHP1だぞ?


 残り時間で山賊を全員始末したとして、応急処置も自分でやるとして、そこから先……どうなる? ロクに動ける状態じゃないぞ?


 いや、こいつ等ならポーションくらいは持ってるか?


 でも、そこも希望的観測の賭けになる。


 これは不味い……と思ったところで神の声が聞こえてきた。


 ――プレイヤーキルを確認。特別報酬をゲットしました


 ――レベルがアップしました



 正直、食いしばり発動直後のレベルアップはありがたい。


「HP回復を頼む」


 そう呟きながら、俺はその場で膝をついたのだった。

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