第27話 キビリス村防衛戦 ~オーク200体相手に無双する~ その2
――そして訪れた満月の夜、村の広場。
「この配置はどういうことでしょうか?」
村民を守る拠点である教会の外で、俺は指揮隊長のCランク冒険者にそう尋ねた。
30歳くらいの男で、長髪が似合っていない小太りの男だ。
ちなみに、この広場の立地は小高い丘の上にあって、村長の家や集会場などの施設も存在している。
で、裏側がすぐに森になっていて、広場のど真ん中に教会という感じだな。
「ん? 何か文句があるのか?」
「私には貴方が……教会の屋根の上の、安全な場所から指揮を執るという風に言っていたように聞こえたのですが?」
こちらの人数としてはEランクが2名、Dランクが2名の合計4人。
そしてCランク冒険者のこの人だ。
あとは街から応援に来た衛兵さんが5人となる。
大体の場合は衛兵さんは冒険者を引退したロートルで、実力のほどはE~Dランクと同等程度。
で、冒険者と衛兵さんを合わせて総数10人で、これが護衛戦力となる。
守るべき村民は100人ちょっとで、全員が既に屋根の上に避難している状況だな。
押し合い圧し合いみたいな状況になってて、屋根の底が抜けるんじゃないかってそっちが心配になってくる。
で、村民の男衆が、屋根の下から昇ってくるオークを叩き落とすために投石や鍬(すき)や鍬(くわ)で支援してくれることになっている。
これは20人~30人くらいいるし、女子供や老人も投石で支援はしてくれるだろう。
けど……まあ、それはただの時間稼ぎの悪あがきだ。
オークも俺たちを無力化してからメインディッシュといくだろうから、彼らが何かをする段になっている場合、それは護衛が全滅していることを意味する。
ちなみに、オークが食糧庫を一目散に狙ってくるのは習性からして明らかだ。
なので、そこを前提として作戦は組まれている。
まあ、そっちで網を張っているホフマンさんたちベテラン冒険者が敵の本体を叩いてくれるってわけだな。
実際問題、元々の情報通りに総数50程度の規模の群れならこの布陣でも問題はないと思う。
俺たちが相手をするのは、オークの最後っ屁で、逃走のついでに女を攫っていこうとするようなハグレの連中を相手にする程度……というのが当初からの想定だ。
けれど――もう、すぐそこまで迫っている敵の数は恐らく100を余裕で超えている。
幸い、この前に感じたオークのボスの気配は一切感じられない。
が、雑魚オークとはいえ、数が数だ。
ベテラン冒険者の数が足りず、恐らくは……向こうの戦線は壊滅する。
腕の立つ人たちばかりだから、数に任せるだけのオーク相手だと、死にはしない。
何故なら、不利を悟った瞬間に即時撤退を決める判断も早いからだ。
事前の情報と違うので、その場合はギルドから謝罪こそあれ、罪を問われることもないし、実際にギルド員の誰も撤退を責めないだろう。
が、だとすると、ここから1キロちょっとの距離にある――村の田園地帯の中央に配置されている食物倉庫はすぐに明け渡されることになる。
そして、その後……ここが不味いことになるのは明白だ。
と、俺は今朝までそう思っていたんだが、どうにもオークの様子がおかしい。
本当に、このままじゃ不味い状況になっているんだよな。
「ああ、そのとおり。俺は安全な場所からこの場の守備の指揮を執らせてもらう」
「しかし、貴方が一番強いんでしょう? 一番の戦力が前線に立たないなんて……」
「だから、一番強い奴がこの場を指揮をするんだ。指示する者がいなければ、オーク相手に組織的な防衛なんてできないぞ?」
組織的も何も、衛兵さんを含めてたった10人の集団じゃないか。
指揮にどれほどの効果があるのか疑問なんだけどな……。
っていうか、ホフマンさんはCランクは前線で戦う前提で色々話をしてたよな。
一般的にCランクのベテランは、Dランク3人分の動きをする。
単純計算でこちらの戦力の3割以上が前線から離れるわけだ。
いや、やっぱりそれって、どう考えてもおかしいんだけど……。
「そろそろ食糧庫の方で戦闘開始の合図が起きるはずだ。お前もワケわかんないことを言ってないでさっさと配置に着け」
「結局のところ、貴方は俺たちを盾に……いや、捨て石にするってことですか?」
「Eランク風情がごちゃごちゃ言ってんじゃねえよ! こっちはCランクってだけで、領主から半強制でこんな安い依頼を受けさせられてんだ! どこに好き好んでリスクを背負う馬鹿がいる!」
「……最低ですね」
「この手の依頼は情報が雑なことが多いしな……何があるか分からんし俺は様子見させてもらうぜ」
先輩冒険者が後輩を盾にするのは良くある話だ。
シーフとかは当たり前に罠の危険がある宝箱を開けさせられるし、そこは役割分担なんだが、ここまで露骨に本音でいう奴も珍しい。
下衆の極みだが、この場合は逃亡や依頼破棄をしているわけではないので、ギリギリ合法ってところだな。
「まあ、楽勝モードだったら俺も前線に立つから安心しろや。ともかくここを仕切るのは俺だ。文句は言わせないぜ」
「あの……」
「何だ?」
「その……背中に背負っている斬馬刀は飾りですか?」
Cランク冒険者が持っている大剣は、文字通りに馬を斬るような巨大な剣だ。
巨大な鉄板と言う形容がふさわしく、長さは1メートル半はあるだろうか。
厚みも指が二、三本分くらいあって、横幅は成人女性のウェストほどはある。
「馬鹿かお前? いや、馬鹿だろお前? Bランクの武芸者ならいざしらず、こんな鉄塊を振り回せるような奴がCランクにいるかよ」
「じゃあ、どうして持ってるんですか?」
「伊達だよ、伊達。本当の得物はこっちだ」
そうして男は、腰の自身の短剣を指差したんだ。
「俺はシーフ職でな。武闘派に舐められやすいから、伊達でこれを持ってんだよ。人間……見た目って大事だからな」
下衆なだけではなく……何て……小者なんだと、俺は思わずあんぐりと大口を開いてしまった。
と、その時――。
広場の背面の森の中に、無数の赤い光が見えた。
それは、月明かりに照らされたオークの瞳だ。
「な、なんでこんなところにいきなり現れる!? そ、それにこの数は……なんだ!?」
Cランク冒険者が悲鳴に近い声をあげ、続いて他の冒険者や衛兵さんが涙目になった。
「50や60じゃきかないぞ! 100は優に超えてるじゃねーか!」
「お、オークは先に食糧庫を漁るはずだろう!?」
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