第28話 キビリス村防衛戦 ~オーク200体相手に無双する~ その3

「本隊のCランク冒険者を今すぐ呼びに行け!」


「いや、逃げろ! 連中を呼び戻してもこの数じゃどうにもならん!」


 馬鹿……! と、思ったがもう遅い。


 最後の言葉は、キッチリと屋根の上に避難している村民たちに届いていた。


「おい、お前等逃げんのかよ!」


「お、お助け下さい! お守り下さい!」


「どうなってんだよ冒険者ども! 高い依頼料取ってんだろ!」


 ああ……こりゃ不味い。


 若い村民たちが教会の屋根から我先へと降りようとしている。

 まあ、個々人で逃げるってことなんだろうが……。


 このままじゃ、到底護衛するどころじゃない。


 バラバラに逃げられたら、守れるもんも守れなくなっちまうぞ。



「皆さん大丈夫です! 俺が出ます!」



 まあ、こうなっちまったもんは仕方ない。

 今の俺の実力がどれほどかは知らんが、多少は実力を見せても良いだろう。


 デイリーボーナスも取り切ったし、暁の銀翼の関係で例えば追っ手がかけられたとしても……危なそうだったら逃げる程度のことなら、今ならできるだろう。


 そもそも、10年以上前の話で……変に目立ったとしても、すぐに今の俺と、暁の銀翼のタイガがつながるってこともないだろうしな。


 と、俺は外套(マント)を脱ぎ去り、上半身にいくつも巻いているベルトから、投げナイフを一本抜き出した。


 これはこの依頼を受ける前に事前に街で買ったもので、小さなナイフの装着本数は15本。


 重点的に敏捷性をあげていたのも、このためってのもある。


 そして、教会に向けて殺到してきているオークの群れに向けて、俺は全力投球を始めた。


「――シッ!」


 パシュっ!


 良し、命中。

 頭にナイフが突き刺さったオークは、ドサリとその場に倒れた。

 流石にナイトウォーカーの短剣みたいに、頭蓋骨諸共に貫通して、背後のオークに多段ヒットというわけにはいかない。



 が、一発で……一匹は殺せる。



 なら、どんどん行く! 今度は両手投げだ!


 パシュッ! パシュっ!


 小気味良い音と共に、月夜に血の薔薇が咲いていく。


 パシュッ! パシュっ!



 ――レベルが上がりました



 良し! このタイミングでレベルアップはありがたい!


 これでいつでも完全回復可能――つまりは、食いしばり前提の方法もいつでもとれる!


 パシュッ! パシュっ!


 パシュッ! パシュっ!


 パシュッ! パシュっ!


 ただ、ひたすらに目についたオークにナイフ投げていく。



 ――全てが必中



 ――全てが必殺



 ダンジョンの蜘蛛じゃないが、まるでカトンボのように次々とオークが倒れていく。






 そして――。 


 パシュっ!


 最後のナイフを投げる。


 そして、オークが倒れる。


 で、オークたちは瞬く間に味方が大量に倒されたのを見て、怯えの色と共にその動きを止めた。


 そうして、俺の隣にいるCランク冒険者は、その場で腰を抜かしてこう言ったのだった。


「………………え?」


 放心状態のようだが、俺は構わずCランク冒険者に声をかけた。


「斬馬刀……使わないなら貸していただけますか?」


「……え?」


「斬馬刀を貸してください! 今すぐにっ!」


「あ……はいっ!」


 Cランク冒険者は背負った巨大な鉄塊――斬馬刀を両手で俺に差し出した。


 で、俺は受け取った斬馬刀を右手に持ち、元から持っている長剣を左手で持った。

 つまりは、二刀流だ。


 斬馬刀の重さを確認するために、片手で振ってみる。



 ――ヒュオン



 良し、大丈夫だ。

 これくらいなら問題なく余裕で片手で振り回せる。



「ざ、斬馬刀を……あの巨大な鉄塊を……片手で……振った……?」


 更に2刀を振り回して具合を確認する。


 ビュオン、ビュオンと風切り音と共に2刀が唸りをあげる。


 良し……イケる。

 敏捷と器用さのおかげで、2刀流を卒なくこなせるようになっていたのも僥倖だ。


 

 この数を相手にするには、こっちもリーチと手数は重要。



「さて……始めようか」



 そうして俺はオークの群れを睨みつけたのだった。




・斬馬刀 別名:鉄塊


 攻撃力+65

 厚みを除いて、他は小柄な成人男性程度のサイズの巨大な剣。

 特殊金属を使用しており重量は35キロ。

 Bランク下位以下の実力ならまともに扱えないので装備しない方が無難である。

 鉄塊と呼ばれるだけあり、威力は絶大。

 ただし、使いこなせれば……という前提条件はつくが。


 ※筋力値20以下の場合:命中率マイナス75%

  筋力値30以下の場合:命中率マイナス35%

  筋力値40以下の場合:命中率マイナス15%

  筋力値41以上の場合:ペナルティ無し

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