第32話 キビリス村防衛戦 ~オーク200体相手に無双する~ その7


 サイド:ホフマン




 タイガがオークキングを殺ったようだ。


 で、丁度、そのタイミングでこちらも教会の周辺のオークの掃討を終えたわけだ。


 と、そこで女魔術師――カーリーが感嘆のため息をついた。

 

「まさか、たった二振りでオークキングを殺る……とはね」


「待て……ありゃあバケモンだ」


「ええ、本当に化け物みたいな強さね。Bランク中位冒険者程度じゃ収まらないと思うわ。しかし、どうしてあんなのがEランク冒険者やってるのか……」


「いや、バケモノってのはタイガのことじゃねえ」


 と、そこでカーリーは「はてな?」と小首を傾げた。


「ちょっと、何言ってんのよ?」


「俺がBランク下位のタンク職だったのは知ってんだろ? タイガくらいのやつなら、今まで何人も見てきた。だが、アレはそうにはお目にかかれれない――本物の化け物だ」


 俺の視線の先の黒い魔物を見て、カーリーは「あっ!」と、大きく目を見開いた。


「どういうこと? オークキングで終わりじゃないのっ!? 何よあれ! 何なのよアレっ!?」


 森から出てきたのは、黒いオークだった。

 体のデカさはオークキングと同等、そして、その力は――オークキングなぞ赤子のようにあしらうだろう。

 禍々しい、ドス黒いオーラをうっすらと体表に纏わせたソレは、俺たちの表情を瞬時に凍り付かせていく。


「……ユニークモンスターだ。間違いなく厄災級個体だな」


「厄災って……」


「俺は鑑定眼持ちだ。間違いない……このままじゃ全員全滅だぞ」





・色欲の黒王 レベル5

 オーク種のユニーク個体。

 生まれたばかりでレベルは低いが、まごうことなき厄災級の力を持っている。

 本来は進化先が存在しないはずのオークキングのその先へと到達した、究極進化個体となる。

 性欲が旺盛であるオーク種であるが、異種交配が故に妊娠率が低く、群れとしての爆発的な増殖は起きにくかった。

 が、当該個体の精子は妊娠率が極めて高く、また1か月という驚異的な速度で出産までを可能とする。

 その子は全てが黒王と同じ生殖特性を持ち、超大規模大氾濫(メガ・スタンビード)を発生させる可能性が極めて高い。

 この個体が発生した地域、あるいは国は、適切な処置を速やかに施すべきである。

 さもなければ、数年を経たずに全てが食われ、犯され、黒豚の波に呑まれるであろう。

 また、戦闘面で当該個体において最も特筆すべきは、スキル貫通持ちということである。

 防御力強化系のスキルや魔法を無視して突破し、一定時間無敵系のスキルにおいてすら、この個体の前では意味をなさない。

 そして、この個体は譁?ュ暦の一種であり、自然には発生しない。

 その発生条件はシ托シ難シ泌喧縺譁?ュ怜:喧縺泌喧縺譁?ュ怜暦シ托シ難シ泌喧縺となる。








 サイド:タイガ



 鑑定結果を見て、俺は絶句した。


 ――間違いなく、コレはあの森で俺に危険を感じさせたオークのボスだ。


 っていうか、貫通持ち……だと?


 と、なると、食いしばりからの無敵時間のコンボは使えないってことか?


 いや、討伐難度が高い魔物は貫通持ちが結構な割合で存在するって話だから、いつか出くわすとは思っていたが……。



 ――このタイミングは不味い。



 とはいえ、レベルアップ回復のストックも1残っているし、最悪というほどではないか。


 が、敏捷値が俺に伝えてくれている、ビリビリと感じる……この危険の気配。




 ――はたして、俺はこいつに通用するのか?




 それに、生まれたばかりの状態……レベル5でこの強者の気配ってことだろ?

 ってことは……これから先、まだまだ強くなるってことだよな?

 鑑定の説明文を見る限り、あっという間に繁殖して、国を食い尽くす感じだし……。




 ――今、アレを殺さないと不味い。



 

 人が……洒落にならない数が、死ぬことになる。


 しかし、この国と俺は別に関係のない話だ。


 ぶっちゃけ、逃げるという選択肢も……無いことはない。


 と、そこまで考えて、俺は胃の底から込み上げる嘔吐感と、そして心臓から込み上げる嫌悪感に包まれた。



 ――ホフマンさんたちを切り捨てて逃げる?



 ――《暁の銀翼》が、俺にそうしたように……?



 そうして、俺は首を左右に振って、斬馬刀を拾い上げた。



 ――いや、それは無い。それだけは、やっちゃいけない。



 人間ってものは、根っこのところは動物と変わらない。


 脳みそのほとんどは動物と同じで、欲望に忠実だし、ロクなもんじゃない。


 俺だってそうだ。


 けれど、100パーセント……欲望のままに生きるのも、それもまた人間じゃない。


 人と動物を分かつ部分は、最後に残った品性だ。


 ホフマンさんだって、彼単独ではオークキングには到底適わない。


 でも、必ず救援に向かうって、俺に……そう言ってくれたんだ。


 少なくとも、俺は……かつて仲間に見捨てられたという、俺と同じ境遇を経験したという、ホフマンさんを裏切りたくはない。



「しかし、こいつの相手はちょいっとキツすぎそうだな」



 自分でそう言って、吹き出してしまった。



 ――逃げることができれば、どれほど楽か。



 けど、俺が不器用で難儀な性格で苦労してきたのは……今に始まったこっちゃない。


 なら、とことんまでやってやる。

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