第33話 キビリス村防衛戦 ~オーク200体相手に無双する~ その8

 けど、俺が不器用で難儀な性格で苦労してきたのは……今に始まったこっちゃない。


 なら、とことんまでやってやる。



 と、そこで、黒王が俺に向けて馬鹿デカい棍棒を振り落としてきた。


 飛んで攻撃を避けたが、ズドーンと爆発音とともに土砂が飛び散り、地面にクレーターができた。


 おいおい……地面にクレーターって……。どんな馬鹿力なんだよ。


 間違いなく、こいつの筋力は俺を超えている。


 そう認識した瞬間、俺の背中にヒヤリと汗が走った。


 そして、再度振り落とされる棍棒。


 やはり、再度、俺は軽く横に飛んで避ける。


 と、そこで俺はひょっとしてコイツ……と、思った。


 そのまま振り落とされ続ける棍棒、そして――



 ――避ける、避ける、避ける避ける避ける。



 こいつ、動き自体は鈍重でオークキングと大して変わらんぞ?

 

 それに持っている棍棒もオークキングと同じものに見える。


 なら、活路はあるし、勝機もある。


 と、そこで俺は教会の様子を見るために、チラリと視線を無効にやって……とあることに気が付いた。


 背後に、誰もいない。


 そう、既に、教会には誰もいなかったんだ。



「は……はは……」



 逃げやがった。


 いや、村民や冒険者は良い。


 冒険者は最初から信用しちゃいないし、村民は逃げるべきだろう。



 ――だが……ホフマンさんたちまで……逃げやがった。



 まあ、そりゃそうか。 

 いや、まあこんなもんだ。


 所詮、人間なんてそんなもんだ。



 ――なら、俺は一人でやれるだけやるだけだ!



 そうして、さきほどのリピートのように黒王が棍棒を振り落としてきたところで、イケると踏んだ俺は、斬馬刀での――



 ――上段への切り上げで、迎撃っ!



 そして、予想通りにスパっと棍棒が切れた。で、さっきと同じく――



「だあああああっ!」



 飛び上がり、大上段からの脳天唐竹割りだっ!


 で、そこで俺は自らの失策に気づいた。

 と、いうのも黒王はオークキングとは違い、腕での防御の行動をとらずに、ただ、ニイっと笑ったのだ。



 ――ガキンっ!



 月夜に、火花が散った。

 俺の斬馬刀は黒王の皮膚に弾き飛ばされ、明後日の方向へと飛んでいく。



 ――やられた。スキル:鉄壁だ



 いや、これが来ることは分かっていた。

 が、まさか……ノーダメージとはな。


 そうして黒王は無造作に俺を左手でむんずと掴んだ。

 で、大きく口を開いて、喉の奥に見えるのは――炎。


 つまり、黒王は俺に向けて、ドラゴンのブレスよろしく火を噴いた。


 おいおいマジかよ? オークがファイアーブレスだと!?


「ぐあああああっ!」


 熱さを感じたのは最初の一瞬だけだった。

 そこから先は何が何やら分からず、ただただ俺は叫んでいた。

 で、気が付けば全身が焼けこげ、肺の奥まで……ただただ苦しい。



 ステータスウィンドウ、HPを確認する。


 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


 ステータス


 名前:タイガ


 職業:村人


 レベル:29(限界値30)


 HP392/392→47/392


 MP0/0




・能力値


 筋力:48

 体力:15

 魔力:3 

 敏捷:25

 器用:15

 幸運:3


 所持スキル:食いしばり レベル2

      :鑑定    レベル1



 残能力値ポイント:13

 残スキルポイント:80


 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━




 一撃で……ここまでHPを削られただとっ!?


 しかも、こいつの攻撃は食いしばりのスキルを貫通してくるっ!


 これ以上、何かをされると……そこで即死だっ!




 ――HPを回復する! 今すぐだ!




 すぐに体が楽になるが、そのまま黒王は俺を軽く上方に放り投げた。

 そして、空中に浮いた状態に俺に向け、くるりとその巨大な体躯を一回転。


 ――迫りくるは、巨大な拳。


 つまりは、黒王の右裏拳が俺に炸裂した。


「ガブッ……ファ……っ!」


 錐揉み回転をしながら、20メートルほどは……飛んだだろうか。

 背後には、教会の壁だ。


 ――ズギョシャンっ!


 爆音と共に、背中から壁を突き破った俺は、そのまま教会内を水平に飛んでいく。

 向こう側の壁も突き抜け、そこで地面に落下し転がって転がって転がって――ようやく俺は止まった。


「グフっ……っ!」


 ステータスを確認。



 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


 ステータス


 名前:タイガ


 職業:村人


 レベル:26→29(限界値30)


 HP47/392→392/392→6/392

 MP0/0




・能力値


 筋力:48

 体力:15

 魔力:3 

 敏捷:25

 器用:15

 幸運:3


 所持スキル:食いしばり レベル2

      :鑑定    レベル1



 残能力値ポイント:13

 残スキルポイント:80


 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━




 いかん、回復させたHPが……消し飛んでいる。


 一発。


 たった一発だ。


 これが……ユニーク個体。


 これが……厄災か。


 しかも、HP回復の手段はもうない。


 食いしばりも、通用しない。


 斬馬刀は既に取り落としているので、俺は長剣を杖のようにして……震える足で立ち上がった。


 そして、ズシーン、ズシーンと重低音の足音と共に、黒王がやってくる。


 巨体を揺らして、やってくる。


 恐怖という感情を引き連れて、死神がやってくる。


 逃げようにも、さっきの裏拳で膝が笑ってまともに動けない。


 いや、痛みの感覚がマヒしてて良く分からんが、全身の骨がバキバキにやられてんだろう。


 迫りくる巨体との距離差は5メートルといったところ。


 そして、黒王は大きく振りかぶり、俺に向けて上空から拳を振り落としてきた。


 回避は不可。


 迎撃も不可。


 これで終わりか……そう思ったその時――



「タイガアアアアア!」


 ホフマンさんが、身の丈もあるような大きな盾を上方に押し出して、黒王の拳を防いだ。


 ホフマンさんの顔が歪み、全身の筋肉は悲鳴をあげるように震え、そして、その足が地面にメリ込んで……黒王の尋常ではない膂力を思わせる。



 ――だが、防いだ。



 何度もできることじゃないだろうけど、防ぐことができた。


 さすがはBランクのタンク……と、俺はホフマンさんに声をかけた。

 

「その大盾は……? いや、どうして……逃げなかったんです?」


「言ったろ? 必ず救援に向かうってさ」


「ホフマンさん……」


 顔はひきつっているが、それでもホフマンさんはいつものように「ガハハ」と笑った。


「タンク職の装備を取りに行くのに時間を食った。すまねえな!」


 今度は横合いから黒王の蹴りが飛んできた。


 ホフマンさんは盾を構え、自身と俺を守る。


 そうして盾ごと俺たちは吹き飛ばされたんだが――威力は十分に殺されている。


 俺はそのまま地面に転がり、ホフマンさんは着地と同時ズザザと滑って勢いを殺して停止した。


 で、地面に転がる俺に向けて、女魔術師のカーリーさんはニコリと笑った。

 

「カーリーさん……?」


「ふふ、ここで退けたら……楽なんだけどね? 回復(ヒール)」


「どうして……貴女まで?」


「新米冒険者のころ……私がオークの巣穴にさらわれたことがあってね。仲間のみんなが逃げる中、無茶を承知で単独で切り込んできたのが、その時のリーダーのホフマンよ。あんな不細工な顔でも、一度カッコ良く見えたら……そういう風にずっと見えるのって本当に不思議よね」


「……それで?」


「ホフマンとはそれ以来の腐れ縁ってやつ。まあ、アレも大概……損な性格してるわよね。そんなアレをほっとけない私も……まあ、大概だと思うけど」


 と、そこで笑ってしまった。


 どうやら、俺と同じく――損な性格をしている人間は、この世界にはそれなりにいるらしいと。



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