第34話 キビリス村防衛戦 ~オーク200体相手に無双する~ その9
「で、何か策はあるんですか? 相手は怪物中の怪物ですよ?」
「策は無いわ。何とか隙を作って逃げるってところでしょう。アンタこそ策はあるの?」
「……」
隙を作って逃げる……か。
いや、それはできそうにないな。
そもそも、俺は今、全身の骨折でまともに動けん状況だし……。
と、そこでホフマンさんが黒王の攻撃を受けて、盛大に吹き飛んだんだ。
これまでの何度かの攻撃で、既に盾も歪んでいる。
反撃なんか完全に捨てた防御特化でも……そろそろ限界なのは目に見えて明らかだ。
「ダメです。ホフマンさんも、それほど持ちません」
「分かってる。だから、私はアンタを回復してるの。動けるようになったらみんなでトンズラよ」
いや、それはもう無理だ。
敏捷値のせいか状況が俺には良くわかる。
どうにも、さっき、盛大に吹き飛んだ時にホフマンさんは足を挫いたようだ。
あれじゃあ、俺が回復しても、今度はホフマンさんが動けない。
みんなで逃げるのは……無理だ。
かといって、見捨てるってのはありえない選択肢だな。
自分を助けに来てくれた人を放っておいて自分だけ逃げるんなんて、それこそ鬼畜の所業だ。
ともかく、回復はどんなもんだ?
ステータスを確認する。
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ステータス
名前:タイガ
職業:村人
レベル:29(限界値30)
HP 6/392→13/392
MP 0/0
・能力値
筋力:48
体力:15
魔力:3
敏捷:25
器用:15
幸運:3
所持スキル:食いしばり レベル2
:鑑定 レベル1
残能力値ポイント:13
残スキルポイント:80
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まだ……10も回復していないだと!?
このままじゃ、間違いなく回復する前にホフマンさんはやられてしまうだろう。
いや、そもそも俺が回復しても、みんなで逃げることはできなさそうなんだけどな。
「回復はしなくて良いです。けど、カーリーさん……代わりにお願いがあるんです」
「代わり? お願い? 何言ってんのアンタ?」
「俺はまともに動けません。だから――あそこに風の魔法で、俺を吹き飛ばしてください」
教会から少し離れた原っぱに向けて、俺は指をさした。
距離は20メートルくらいだろうか。
自力で歩くことも困難な状況なので、もうここはカーリーさんに協力してもらうしかない。
「アンタ……何を考えてるの?」
「勝算はあります。このままじゃ全滅です……信じてください」
「あそこに飛ばしたからってどうなるっていうの?」
「言っても分からないと思います。でも――信じてください」
「………………本当に勝算はあるのよね?」
「どの道、俺の読みが外れれば勝てません。お願いします!」
「100を超えるオークも、そしてオークキングを倒したのもアンタよね……。分かったわ、アンタを信じてみる」
「それに、他にやってほしいこともあります。作戦はこうです。それは――」
カーリーさんに説明した作戦については、少しだけ長い語りになった。
ホフマンさんのこともあるので、ダラダラとは話はできない。
が、ここについては連携が大事だ。
きちんと意思疎通ができていないと、それこそ勝機を逸してしまう。
それで、俺の言葉を聞いたカーリーさんは大きく目を見開いて、そして呆れたように笑った。
「ちゃんと考えられてるわ。でも、問題は……どうやってその体をまともに動かすかってことだけどね」
「だから、あそこに飛ばしてもらうんです」
「あの原っぱにレジェンド級のポーションでも埋まってるの?」
「そこは……信じてくださいとしか言えません」
そうしてカーリーさんは大きく息を吸い込んで、ヤケクソ気味に叫びながら、風魔法で俺を吹き飛ばした。
「もーーーー! どうにでもなーれっ!」
そして、風を受け、宙を舞った。
俺のオーダーどおりにゆっくりと浮かび上がり、そして目的地に向けてゆっくりと落下していく。
俺はほとんど瀕死の状態だ。
落下の衝撃で死亡とかは笑えない。だから、ここは慎重に行く。
で、向かう先は――痙攣して倒れているオークキングだ。
――つまりは、経験値の肉袋だ
目的地点への落下と同時に、俺は地面を這う。
そして、虫の息のオークキングの剣を心臓に突き刺して、ミッションコンプリートだ。
あとはレベルアップしてくれるかどうかだが……ここは賭けだ。
さあ、どうなる……と、ゴクリと息をのむ。
――レベルがアップしました。
よっし、来た!
すぐさまに回復を施し、俺はほっと息を飲んだ。
まあ、賭けとは言ったけど、オークの群れを退治している最中のレベルの上り加減から、そろそろ来ると思っていたので、ここはクリアーできる公算は高かった。
そうして、俺はホフマンさんと戦う黒王に視線を向ける。
変わらずに劣勢だが、まだホフマンさんは何とか生きている。
――必ず勝てるとは言えない。
けど、あのモンスターハウスを見た時ほどの絶望感は無い。
何より、俺は……今、一人じゃない。
そうして斬馬刀を拾った俺は、カーリーさんとの打ち合わせの通りに――闇夜の中、足音を殺して黒王へと向かったのだった。
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