第35話 キビリス村防衛戦 ~オーク200体相手に無双する~ その10


 斬馬刀を拾った俺は、カーリーさんとの打ち合わせの通りに――闇夜の中、足音を殺して黒王へと向かったのだった。


 物音を立てず、ゆっくりとゆっくりと近づく。


 敏捷値のステータスのせいだろうか?


 自分でも驚くほどに静かな足音で、気配も消して動けているのが分かる。


 敏捷値で索敵や5感の能力が上がっているのは既に実証済みだ。

 やはり、これはシーフ系や忍者系統の能力と密接に関係があるんだろう。


 まあ、ともあれこれは好都合だ。


 そうして最後の確認とばかりに俺はステータスを眺める。




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 ステータス


 名前:タイガ


 職業:村人


 レベル:29→30(限界値30)


 HP 392/392→402/402


 MP 0/0




・能力値


 筋力:48

 体力:15

 魔力:3 

 敏捷:25

 器用:15

 幸運:3


 所持スキル:食いしばり レベル2

      :鑑定    レベル1



 残能力値ポイント:13→15

 残スキルポイント:80


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 さあ、泣いても笑っても、手持ちのカードはこれだけだ。


 と、そこで黒王と交戦中のホフマンさんが不味い状態になっている光景が見えた。


 ホフマンさんの大盾は度重なる黒王の攻撃を受け、既に歪んでひしゃげて滅茶苦茶な状態だ。


 それにホフマンさん自体も足を挫いているし、他にもどこか骨折しているのか……上半身の動きがおかしいし顔にも苦痛の色が見える。


 そして、そんなボロボロのホフマンさんに黒王が振りかぶり、真上から巨拳を落としたんだ。


 悪夢のような怪力を盾でまともに受けたことによって、ホフマンさんの足が地面にメリ込む。



「グガハァッ!」



 ホフマンさんは悲鳴を上げるが、それでも必死に食いしばっている。


 さすがはBランクのタンクだとは思うが……恐らくここで限界。


 いや、むしろ……よくぞボロボロの状態でここまで耐えてくれたと称賛を送りたい。


 そうして黒王の背後5メートルの位置に迫っていた俺は右手をすっと掲げた。


 向こうにいるカーリーさんは小さく頷き、そして――




「光玉(シャイニング)っ!」



 黒王の顔面に目掛けて光の玉が飛んでいき……そして、その眼前で弾けた。


 この魔法は夜間での遠距離間の狼煙、あるいは一時的な広範囲光源確保のために使われるような魔法だ。


 そして、それを目と鼻の先で使われたら、どうなるか?



「ウボアああああ!?」



 つまりは、文字通りの目くらましだ。


 圧倒的な光量によって瞳孔が小さくなって、瞬間的に暗い場所で何も見えなくなる。


 これは、現代の地球において、夜に照明がランランと輝く明るい部屋から、暗い部屋に行くと何も見えなくなるのと同じ理屈だな。


 とはいえ、目くらましの効果はほんの少しの時間しか通用しない。


 これについても、暗い部屋に入ってすぐに目が慣れて見えるのようになるのと同じだな。


 で、目くらましを受けているのは、光源のすぐ近くにいる俺も同じだ。ただし――



 ――俺は事前に左目を瞑っているけどな



 右目を閉じて、左目を開く。

 すると、黒王が自らの顔を両掌で覆い、その場で棒立ちになっている姿が見えた。


 ホフマンさんも盾を構えたまま、その場で硬直していて……何も見えていない。


 戦場に訪れた、一瞬のフリーズ。


 そして、黒王は既に俺を仕留めたものとして……蟲の息で動けない状態と認識している。

 事実、ホフマンさんが現れてからは俺や魔術師さんに一瞥もくれなかった。


 これは高位の魔物特有の感覚で、その場にいる者の強弱と優先度を本能的につけることができるということから生まれた現象だと思う。


 更に言えば、レベルアップ回復なんて、黒王の頭の中にはない。


 だからこそ、俺はノーマークで忍び寄ることができたんだ。



 ――これは黒王にとっては理外の一撃



 黒王のスキル:鉄壁は攻撃を耐えると覚悟してから発動する性質のものだ。


 つまり、攻撃を認識できない奇襲なら、これを突破できる。




 ――これが、最初にして最後の好機っ!




 極力、察知されにくいように今回は飛び上がらない。

 斬馬刀を大上段に構えて、そのまま黒王の頭に向け、全身全霊をかけて――



 ――振り落とすっ!



 ザシュっと小気味の良い音と共に、肉に鉄塊が食い込んでいく。



 ――良し! 剣が入った!



 途中で黒王が体を動かしたので、脳天唐竹割りとはいかなかったが、肩と首の間の鎖骨を割り、剣がヌルリと入ったぞ!



「ウボアアアアアアアアアアアアアっ!」



 このまま倒れてくれ!


 そう思いながら斬馬刀を握る手に力を込める。が、しかし――




 ――剣先が肋骨で……止まった!?




 おいおい、まだ刀身がギリギリで全部……体の中に入ったとこくらいだぞ?


 鉄壁無しでもこの硬さなのかよ。っていうか……不味いな。


 ――ダメージは与えた。


 ――傷も決して浅くはない。



 が、致命傷ではない。


 何よりも、俺という戦力を……黒王に認識されてしまった。

 

 再度の攻撃はスキル:鉄壁で体表を硬くされて意味をなさないだろう。


 ――仕切り直しはできない。


 なら、どうするか?



 ――体の中に剣が埋まっている今――ここでこのまま押し切るしかねえだろ!




 ステータスオープンっ! 筋力値に全振りだっ!





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 ステータス


 名前:タイガ


 職業:村人


 レベル:30(限界値30)


 HP 392/392


 MP 0/0




・能力値


 筋力:48→63

 体力:15

 魔力:3 

 敏捷:25

 器用:15

 幸運:3


 所持スキル:食いしばり レベル2

      :鑑定    レベル1



 残能力値ポイント:15→0

 残スキルポイント:80


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 全身の筋肉が膨張し、そして止まっていた斬馬刀が黒王の体の中を突き進んでいく。



 ゴリュ、ゴリ、ゴリュリュっ!



 半ば掘削するような――黒王の骨が削れて、そして折れる音が手ごたえと共に伝わってくる。


 バリ、ゴリ、ゴリっ! ゴリっ! ゴリっ!


 都合三回、肋骨を切断する手ごたえを感じた。

 そして、切断する手ごたえとともに、一段ずつ斬馬刀が黒王の体の中を進んでいく。


 舞い散る、血しぶき。


 響き渡る、黒王の悲鳴。


 そして感じる、骨を断つ手ごたえ。


 と、そこで――




 ――俺の体は灼熱に包まれた




 ファイアーブレス……だと!?


 勘弁してくれ……この状況で反撃できるとか、どんだけタフなんだよ!


 全身を焼かれるが、こうなってしまえば……もう関係ねえ!




 ――お前が死ぬか、俺が死ぬか……先に死ぬのがどちらかの勝負だ!




 灼熱も苦しさもお構いなしに、ただただ剣に力を込める。 


 倒れろ、倒れろ、倒れろ!


 ゴリュ、ゴリ、ゴリ――ゴリゴリゴリゴリっ!


 斬馬刀の剣先が今までの骨よりも太く、固い骨に当たった。


 どうやら、鎖骨から斜め下に突き進んでいた斬馬刀は、背骨に到達したようだ。


 どんな生物でも、背骨を斬られて生きてるやつはいないはずだ。ならば――




 ――焦熱の中、渾身の力を込める




 ――灼熱の中、全霊の力を込める




 と、そこで黒王のファイアーブレスが止んだ。


 背骨へのダメージはキッチリ通ったようだ。なら、これで最後だ――


 


 ――声を枯らして、気合の雄叫びをあげる




「死ねええええええええええええっ!」




 ――ゴリっ!



 硬い骨を抜けた、確かな手ごたえを感じた。そして――



 ――ドシィィンと、巨木が倒れるがごとくに黒王はその場に倒れたのだった。



 






 ――七大罪:色欲の黒王の討伐を確認


 ――七大罪討伐初回ボーナスとしてレベル制限を解除しました


 ――レベル制限が30から40になります 

 

 ――レベルがアップしました


 ――レベルがアップしました


 ――レベルがアップしました


 ――レベルがアップしました


 ――レベルがアップしました


 ――レベルがアップしました


 ――レベルがアップしました



 ――また、七大罪討伐ボーナスとして能力値10を付与します

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