第31話 キビリス村防衛戦 ~オーク200体相手に無双する~ その6



 さて、やっぱり予想通りにオークキングか。


「ひゃ、ひゃ、ひゃっ……お、お、オークキング……群れが異常に大きいと思ったら……そんな……終わりだ……もうおしまいだ……」


 さっきから事態を傍観しているCランクのシーフは腰を抜かして動けない様子だ。

 っていうか、こいつ口だけでマジで役に立たねーな。

 今すぐ教会に向かって、村民を守れよ……と、ため息が出てしまった。



 ――まあ、確かに、オークキングからは強者の気配は感じる。



 けれど、ナイトウォーカーなんかを目の当たりにしている俺からすると、何故だか子供だましに見えてくるから不思議なものだ。



 ――負ける気はしない。



 が、問題は……こいつを教会に近づけると、間違いなくヤバいってことだ。


 あの棍棒の一撃で建物の屋根くらいは壊してしまいそうだし、そうなれば村民をオークが襲いだしてもう収拾がつかない。


 そもそも、瓦礫に埋もれて死者も出るだろう。


 と、なれば村民を助けるのはこいつを倒した後……と、なるんだが、現状、護衛の連中は及び腰でまともに機能していない。


 っていうか、遠くから様子を伺っているだけで、既に撤退の算段に入っている風に見える。


 村民が屋根の上から投石や農具で、壁を昇ってくるオークを叩き落しているがすぐに限界が訪れるだろう。


 チっと舌打ちをしたその時――



「我が名の下に命ずる――薙ぎ払え! サラマンダー!」


 

 背後で、女魔術師が放った炎が明るく教会を照らした。


「おい、ボンクラ共! 仕事なんだからちゃんと教会を守れっ! まともに仕事してんのタイガだけじゃねえか!」


「ホフマンさんっ!」


 良し……と、俺は大きく頷いた。

 流石はベテランってことなんだろう。

 こっちの様子がおかしいことに気づいてこっちに急行してくれたんだな。


 元々、彼らは力を合わせれば50程度の数のオークなら危なげなく撃退できる力量は持っているから、そこは安心して良いはずだ。


「タイガ! 大丈夫か!」


 で、ホフマンさんは、来なくて良いのに俺のところに一直線に駆け寄ってきた。

 が、すぐにホフマンさんは顔色を変えたんだ。


「おいおい……オークキングって……」


「俺がやります」


「いや、お前……」


 そして、ホフマンさんは周囲に転がる無数のオークの死体を確認し、何かを悟ったように肩をすくめた。


「なるほど……な。前にお前にオーク退治の戦力として期待してないって言ったが……済まなかったな。戦力になってないのはお前ではなく……俺等だったってことだな?」


「……」


 ハッキリ言ってしまうのアレだと思ったので、無言で回答をしておく。


「分かったタイガ。向こうはお前に任せる。強いお前が前線で、弱い俺等が後方支援……村民は必ず守る。お前は心配せずにオークキングに集中しろ」


 察しが早くて本当に助かる。



 ――これで後方の憂いなく戦える



「あちらはお任せします」


「元々な、俺はアタッカーの剣士じゃなく、タンク職の戦士だったんだよ」


「タンク?」


「Cランクってのは剣士としてで、タンクとしては実はBランク下位でな……」


「……それで?」


「予想外の強敵に出くわしたことがあってな、敵を食い止めている最中に、味方は逃げ出しちまって……まあ、捨てられたんだ……。で、九死に一生を得たんだが、それ以降、俺は剣士になった。Cにランク落ちて収入も減ったが……もうあんな思いをするのは嫌だったからな」


 俺と……似たようなものか。

 確かにタンク職は一番の危険も伴う。

 そして、信頼している仲間であっても、簡単に見捨てられたりするもんだ。


「だから、強敵に一人で立ち向かうお前の怖さは良くわかる。向こうを片付けたら、必ず救援に来るからな」


「ええ、お願いします」


 俺がそう言うと、ホフマンさんは俺の背中を平手でバンと叩いた。


「全部終わったら一緒に酒を飲もう。俺のおごりだっ!」


「ええ、遠慮なくごちそうになりますよ」


 そうしてホフマンさんは、いつものように「ガハハ」と笑って、そのまま教会の壁に張り付いているオークに向けて切り込んでいったのだった。








 で、まあ、ホフマンさんの気持ちは、正直な話……凄いありがたい。


 悪い人ではないと思っていたが、どうやら馬鹿がつくほどのお人良しな感じらしい。


 普通はそういう経験をすると、人間不信になるもんだが……。


 と、そこでオークキングが俺に向けて馬鹿デカい棍棒を振り落としてきた。


 最小限で紙一重の動きで避ける……とまではいかなかったが、軽く横に飛んで攻撃を避ける。


 再度振り落とされる棍棒。


 そして、再度、俺は軽く横に飛んで避ける。


 振り落とされ続ける棍棒、そして――



 ――避ける、避ける、避ける避ける避ける。



 オークキングは純粋な筋力は凄まじいのだろう。

 が、動きが鈍重だ。


 さきほどのオークの軍勢に比べれば、向こうの手数が少ない分……明らかに対処が楽だ。


 そうして、オークキングが棍棒を振り落としてきたところで、斬馬刀での――



 ――上段への切り上げで、迎撃っ!



 そして、スパっという軽い音。


 棍棒と斬馬刀での打ち合いになり、鍔迫り合いになるかと思っていたんだが……勢い余ってオークキングの得物を斬っちまったようだ。



「ウボァ?」


 

 ボトリと、切断された棍棒の落下音。


 一瞬だけ放心状態になったオークキングだったが、その隙は当然見逃さない。



「だあああああっ!」



 飛び上がり、大上段からの脳天唐竹割りを慣行。


 オークキングは両腕をクロスさせて、俺の一撃を防御する。


 ドサリと落下音。


 オークキングの右手首を切断し、左手首の皮を切ったところで剣は止まった。


 斬馬刀での渾身の一撃を……防がれた?


 ってか、硬えっ!


 これはオークの種族固有スキルの鉄壁って奴だな。


 不意打ちなら、作用しないんだが「攻撃を受ける」と覚悟を決めた瞬間に防御力が跳ね上がるっていう厄介なスキルだ。


 まあ、そうは言っても片手はオシャカにしたけどな。


 で、空中戦では分が悪いと、俺は剣から手を放して地面へと落下する。


 着地と同時、長剣を両手で持った。


 斬馬刀での渾身の一撃で、ようやく片手……。


 普通の長剣では有効打は与えられないと判断し、俺はすぐにオークキングの股の間に潜りこむ。


 体表が硬いなら……これでどうよっ!?



 ――股に入った瞬間、肛門めがけて、長剣を突き上げるっ!


 

 スルリと抵抗もなく、長剣はオークキングの内臓へと突き刺さっていく。

 刃の根元まで尻に咥えこませたところで、とどめとばかりに剣をグルリと捻りこむ。


「ウボオオアアアアアアアアあああああああああああああああああっ!」


 そして、ドシ―――ィンと、肺の奥まで響く重低音と共にオークキングはその場で倒れこんだのだった。


 しかし、凄い生命力だな……と思う。


 と、いうのもオークキングは内臓をズタズタにされても、未だに生きていて、ヒクヒクと痙攣していたのだから。


 ま、すぐにトドメは刺すけどな。

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