第14話 蜘蛛との死闘 その1
とにもかくにも迎撃だ。
俺の有効射程は20メートルってところだ。
が、今回はとにかく相手が多い。
だから、下手な鉄砲数うちゃ当たる理論で35メートルほどの距離から石を投げ始めた。
投げる、投げる。
ひたすらに石を投げる。
もちろん、狙う先は赤色の蜘蛛――クイーンスパイダーだ。
だが、一番に守るべき群れの長という説明の通りに、石を投げても他の蜘蛛が間に入って……本丸まで届かない。
けれど、逆に言えば女王を狙えば、他の蜘蛛が勝手に飛び込んできてくれるってことでもある。
多少コースがズレてても、無理やりに間に入ってくれるので100発100中に近い状態で、これはこれでありがたい。
いや、ありがたいどころの話じゃない。
無理矢理に間に入ってきて盾になってくれる関係で、有効射程の外からの攻撃なのに向こうの態勢が非常に不安定になる。
少なくとも、足で壁をホールドしているような状態とは程遠い。
つまりは、落ちる。
ボロボロ落ちる。
物凄い勢いで石を投げ、そして物凄い勢いで蜘蛛が落ちていく。
蚊トンボのようだな……と、そんなセリフが心に浮かぶが、もちろん今はそんなことを思っている場合ではない。
今、一方的にやれているのは、あくまでも一方的に攻撃が決まっているからだ。
もしも蜘蛛の接近を許してしまえば、俺は寄ってたかってボコボコにされて、壁から引きはがされて落とされるか、あるいは落ちなくても毒を食らってどうにもならなくなる。
蜘蛛で警戒すべきは毒ってのは冒険者の常識だからな。
はたまた、女王の接近を許せば、向こうのキラーカードであるナイトウォーカーが出てくるわけだ。
――とにかく、一切近寄らせない!
けれど、力の限りに石を投げるも、多勢に無勢。
見る間に蜘蛛との距離が縮んでいく。
ただし、見る間に向こうの数も減っていっている。
目測――残り15メートル
蜘蛛の数は既に半分以上削ったが、俺はチラリと背後を見る。
すると、落としたはずの蜘蛛の大部分が、さっき細工をした蜘蛛の巣の上に乗っていた。
感覚的に30体ほど落として、地面まで落下したのは10体くらいだろうか。
で、残りは蜘蛛の巣の上だ。
いや、それどころか連中は壁と巣をつなぐ支えの糸を伝ってこちらに来ようとまでしていた。
しかも、上からこちらに来ている蜘蛛たちも「これだ!」とばかりに、壁から跳躍して蜘蛛の巣の上に次々と着地していく。
嬉々として……という言葉が適切なのだろうか。
こちらに伸びる糸を伝ってやってくる蜘蛛は、それはもうウキウキと軽快な足取りだ。
「――シッ!」
とりあえず、全力投球で糸の上の蜘蛛に石をぶつける。
10メートル以内の至近距離で大きめの石を当てたので、糸上の蜘蛛は今度こそ地面に落下していった。
しかし、連中はひるまない。
我先にとばかりに、こちらに伸びる糸に向けて群がってきていた。
「ま、これは想定通りだ」
所詮、奴らは節足動物だ。
脳味噌は小さく、考えが足りていない。
何故、俺がわざわざ蜘蛛の巣の近くに陣取ったかを理解していない。
今現在、蜘蛛の巣の上に乗っている連中は30……いや、続々と上から飛び乗ってきているから40を超えたか。
狭い範囲で蠢いていて、もう何が何だかワケが分からん状態だ。
――だが、だからこそ一網打尽!
巣からこちらに伸びてきている、支えの太い糸に向けて、俺は腰から取り出した短剣を振り落とした。
通常、ビッグスパイダーの巣の支えとなるような太い糸は簡単に切れるようなものではない。
だがしかし――
――攻撃力45のナイトウォーカーの短剣
――更に俺の筋力値39
この二つが合わさればどうなるか?
しかも、事前に他の支えの糸を切っていて、あれだけの数の蜘蛛が乗っていて……その重量のせいで、既に見た感じ……物凄い危なっかしいことになっている蜘蛛の巣の、一番太い支えの糸を切ればどうなるか?
――こうなるっ!
ドヤっとばかりに俺は糸を切ろうとした。
が、表面に切れ目が入ったが切れなかった。
他の支えの糸を事前に切ったときは簡単にいったんだが、この糸は特別に太いせいか頑丈らしい。
いや、巣を支える要の主糸っぽいから……頑丈なんだろうな。
まあ、だからこそ、ここを選んだんだが。
「あ、ヤバい……」
糸を伝って、蜘蛛が何匹も迫って来ている。
距離差は5メートル……もうギリギリだ。
と、そこで俺は迷わずステータスウインドウを呼び出した。
「ステータスオープン! 能力値ポイントを筋力に2割り振る」
短剣を糸に振り落とす……が、切れない!
「更に追加だ! 能力値ポイントを筋力に3割り振る!」
そうして、渾身の力をこめて糸に短剣を振り落とす。
目測3メートル。
蜘蛛が俺と目と鼻の距離まで詰めて来ている。
そして、今にも飛びかかってこられそうになったところで、シュパっと小気味良い音がした。
「良しっ!」
蜘蛛の巣は総数40を超える蜘蛛の重量を支えられずに自を始めた。
ビチビチビチっ!
他の支えの糸が切れる音と共に、連中は丸ごとそのまま奈落の底へと落ちていく。
――レベルがアップしました
良し!
ここでレベルアップはありがたいっ!
どうやら、今ので40匹以上の蜘蛛の経験値がまとめて入ったらしい。
ついでに……今日の分のスタートダッシュミッションもクリアーしているはずだ。
「ミッション報酬を受け取る! と、同時にステータスオープン!」
ステータスを確認する。
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ステータス
名前:タイガ
職業:村人
レベル:21→22(限界値30)
HP302/302→312/312
MP0/0
MP0/0
・能力値
筋力:39→44
体力:3
魔力:3
敏捷:3
器用:13
幸運:3
所持スキル:食いしばり レベル1
:鑑定 レベル1
残能力値ポイント:7→5→2→4→9
残スキルポイント:20→30
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うっし、まだ能力値ポイントは9も残ってる。
これで、ここからの状況に応じて戦術の幅は広がるはずだ。
と、そこで俺の耳に神の声が届いた。
――職業:村人。職業熟練度の上昇を確認。固有スキル:食いしばりのスキルレベルが2に上がります
スキルレベルが上がる? どういうことだ?
スキルのレベルが上がるなんて、そんなのはこの世界で誰にも聞いたことないぞ?
――HP1となった際の無敵時間が5秒プラスされます
おい、マジかよ!?
それって滅茶苦茶……とんでもないことなんじゃねーか?
元々、村人はこのスキルだけはチート臭かったのに、更に5秒追加だとっ!?
とにかく、この状況でレベルアップは本当にありがたい。
そう思いながら、俺は上方から迫りくるクイーンスパイダーに向けて石を大きく振りかぶったのだった。
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