第15話 蜘蛛との死闘 その2

 色々と考えたいことはあるが、一段落ついている暇はない。

 数はかなり減ったが、上からはまだまだ蜘蛛がやってきているのだ。



 ――それに、一番の大物のクイーンスパイダーも残っている。


 

 ともかく、さっきの蜘蛛の巣の撃退で、もう後顧に憂いはない。


 後は……俺はとりあえずは上だけを見て、残りの蜘蛛を石で叩き落せばそれで良い。


「うおおおおおっ!」


 投げる、投げる、石を投げる。


 とにかく投げる。石を投げる。


 落ちていく。蜘蛛がどんどん落ちていく。



 よっしゃ! 



 物凄い勢いで蜘蛛が落ちていき、残り10体程度だ!


 距離もまだ10メートル以上はあるし……これは勝負あったか?


 そう考えると同時、俺は肩口に鋭い痛みを感じた。


 すぐさま、腰から短剣を取り出して、俺に噛みついた蜘蛛に一撃。


「ウキャっ!」


 蜘蛛は寄声と共に奈落へと落下していく。


「くっそ……」


 宙吊り部隊……ってか。


 見ると、いつの間にか数匹の蜘蛛が、自身の蜘蛛の糸を使って俺の背後に宙吊りにぶら下がっていたのだ。


 上をチラリとみると、奴らはいつの間にか、壁と壁の間に糸を張っていた。

 どうにも、そこから更に糸を張って、俺から死角で垂直落下をして宙吊り……そして、さっきの強襲という段取りだったらしい。


 石を取り出し、背後に向けて投げる。


 鈍い音がなり、蜘蛛が落ちていく。


 すぐに宙吊りの蜘蛛を全部落とすことができたが、不味いことになっていると気づいた。


 くっそ……力が……入らん。


「ステータスオープン」




 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 ステータス


 状態:蜘蛛毒


 名前:タイガ


 職業:村人


 レベル:22(限界値30)


 HP312/312


 MP0/0

 MP0/0


・能力値

 筋力:39(蜘蛛毒の効果:現在値20)

 体力:3 

 魔力:3 

 敏捷:3

 器用:13

 幸運:3



 所持スキル:食いしばり レベル1→レベル2


      :鑑定    レベル1


 残能力値ポイント:9

 残スキルポイント:30

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 筋力の能力値が……半分になってやがる。


 昔に、蜘蛛の毒を食らうと力が出なくなると聞いたことがある。



 なるほど……。

 冒険者が蜘蛛毒を食らうと力がでなくなるってのは、こういうカラクリだったのか。

 と、そう納得したが、今はそれどころじゃない。


 とにかく、上にはまだ10体の蜘蛛がいるんだ。


 ナイトウォーカーが現れる5メートルの防衛ラインだけは、死守しなくちゃならん。


 相手もほとんど全滅しているが、俺も毒を食らっているしギリギリだ。



 ――目測10メートル



 ――ナイトウォーカー出現まで、あと5メートル



 クイーンスパイダーだけは、近寄らせるわけにはいかない!


 とにかく投げろ。

 石を投げろ。



 ――叩き落せ、撃撃しろ!



 石を投げる。


 クイーンの前に、自身を盾とすべく他の蜘蛛が割り込む。


 石を投げる。


 やはり、クイーンの前に蜘蛛が割り込んでくる。



 上手く力は入らないが……投げる、投げる、投げる、投げる投げる投げる。


 クイーンスパイダーと俺の距離差はどれくらいだ? 


 分からんが、考えている余力があるなら、とにかく投げろ!


 叩き落せば俺の勝ちだ!


 残り5匹、4匹、3匹、2匹……1匹。


 これでラストだと思ったその時、俺のすぐ近くに丸い影が現れた。



 ――ああ、やっちまった……。ナイトウォーカーの攻撃範囲までたどり着かれた。



 結局のところは、毒を食らったのが敗因……か。


 アレのせいで俺の動きは間違いなく緩慢になっていた。





 そして――。

 ナイトウォーカーの影が広がり、俺の目と鼻の先のところの壁から、真横に人型の影が生えてきた。



 ナイトウォーカーの影がニタリと笑い、こちらに向けて短剣を振り落としてきた。



 ――ズシャリ



 正確に、心臓をやられた。


 ついで、朱色の蜘蛛――クイーンスパイダーも俺の目の前にやってきた。


 そのまま、ガブリと頭を丸ごと噛みつかれる。と、そこで――



 ――食いしばり発動っ!



 15秒の無敵時間。


 俺の頭はクイーンの口の中……だが、逆に言えば敵は手の届く範囲にいるっ!



「ああああああああああああっ!」



 叫びながら、やたら滅多に短剣をクイーンスパイダーに刺す。刺す。


 刺す。指す。刺す、刺す、刺すっ!



 刺して刺して、刺しまくる!


 もちろん、ナイトウォーカーも俺を刺している。


 スパイダークイーンも、何度も何度も俺の頭を口撃……いや、咀嚼している。


 が、そんなの関係ねえ!


 絶対に、クイーンスパイダーはここで仕留める!


 毒で半分になったとはいえ、筋力値20ならやれるはずっ!


「おおおおおおおおおっ!」


 刺す、刺される、噛まれる。


 刺す、刺される、噛まれる。


 刺す、刺される、噛まれる。



 ――もはや、何が何だか分からない。



 そして気が付けば、噛む力が弱まり、すかさず俺はクイーンスパイダーを引きはがした。


 と、ほとんど同時にフラリと脱力感。


 HP1の本来の状態となって……意識が飛びそうになる。


 無敵時間も終了だ。


 と、ナイトウォーカーがこちらに向けて短剣を振り落とそうとしたところで――



「頼むぜ神の声! HP回復だっ!」



 そう。


 俺が何も気にせずにクイーンスパイダーを攻撃していたのは、そういうことだ。


 さっきのレベルアップの時、HP回復の回答はワザと使用しなかった。


 ひょっとすると回復の使用には時間制限があるかもしれない……ということもあった。


 ほとんど賭けだったが……何とか、賭けには勝てたようだ。



「お待たせしたなナイトウォーカー」



 さて、HPは満タンだ。


 食いしばりは、今の状態からなら再使用可。


 オマケに下は200メートルの奈落となっている。


 あとは、いつもどおりにナイトウォーカーの始末をやるだけだ。



 ――これで俺に負ける要素はない。

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