第24話 ベテラン冒険者さんの動きは遅すぎるように見えました
「オークだっ! 囲まれてるっ!」
「オークの数はどれくらいだ!?」
「5~10ってところだな。油断しなけりゃ負けはないはずだ!」
「ふむ……オークの食料調達隊と鉢合わせと言うところかな」
正確にはオークの数は9だな。
周囲に7で、あと、樹木の上に隠れている2体については……Dランク上位のシーフも気づいてないっぽいな。
と、まあ4人は立ち上がり、それぞれの得物を手に取ってそれぞれが背中合わせになった。
俺ももちろん長剣を手に取り、森の茂みに向けて構えた。
と、その時、女魔術師がポンと俺の肩に掌を置いてきた。
「タイガは自分の身を守ることだけを考えてね。変に戦おうと思わなくて良いから」
「そうだぞタイガ。お前が変に切り込んで危なくなったら……誰かがフォローに入らなくてはいけなくなって、逆に全員が危険に晒される。キツい言い方になってすまんが、E級のお前はオークの群れ相手では足手まといだ」
うーん。
いや、言ってることは分かるけどさ。
けれど……いや、そうだな。ここは大人しくしておくか。
この4人ならオークの群れ相手に不覚を取ることはないだろうし。
俺もできれば、目立つのは力をつけた後の方が良い。
≪暁の銀翼≫のこともあるし、少なくとも力が伸び悩んだりだとか、そういう状況になってからでも、周囲に実力を晒すのは遅くはない。
まあ、この人たちが危険そうになったら、もちろんフォローに入るつもりだがな。
と、その時、Dランク上位のシーフが動いた。
両手を駆使して、投げナイフを連打し、茂みの奥からオークの「ブヒャっ!」という汚い悲鳴が次々に上がっていく。
で、オークは隠密行動での奇襲失敗をそこでようやく気付いたのか、一気に茂みから飛び出してきた。
ちなみに出てきたのは6体で、1体については茂みの中で倒れて動いていない。
倒れたオークは頭部に上手くナイフが刺さって即死ってところか。
で、残りのナイフを食らった2体については急所を外れて戦闘は可能なようだ。
ちなみに、あとのオークについてはナイフの命中精度が低いせいで、スカっと空を切ってノーダメージのご様子だ。
「我が名の下に命ずる――薙ぎ払え! サラマンダー!」
茂みから出てきた、残る6体に女魔術師の炎魔法が火を噴いた。
火蜥蜴(ヒトカゲ)が一帯を飛び交い、3体のオークが焼かれてその場で倒れる。
で、残る3体が炎に怯んでいる隙に、ホフマンさんともう一人のCランクの剣士が飛びかかった。
「フォギっ!?」
「ガブっ!」
「ヌワバっ!!!」
奇声を挙げてオークが倒れる。
見事な連携だと素直に思うが……ダメだ。やっぱこの人たち、頭上を全く気にしてない。
と、そこで樹上のオーク2体がホフマンさんとCランクの剣士に向けて頭上から飛びかかろうとして――
「上です!」
俺の叫びで二人は頭上を見て、自身に落ちてきているオークを視認し「あっ!」っと狼狽した。
しかし、そこは歴戦の戦士だ。
すぐに気持ちを切り替えて、二人は適切な動きでオークを迎撃した。
「ギャヒイイイーっ!」
オークの断末魔と共に……まあ、これにて一件落着ってところか。
が、4人は警戒を解かない。
で、それから数分の間、周囲の様子を伺ってからDランク上位のシーフが「安全だ」と言って、ようやく安堵の溜息をついた。
「……最後のは危なかったが、まあ何となったな」
「しかしタイガ。見直したよ」
と、言ってきたのは女魔術師だ。
「見直したとは?」
「マグレとは言え、さっきの頭上のオークのアドバイスは値千金よ。ここで私たちの要の剣士の二人が怪我でもしてればと思うと……ゾっとするもの」
ホフマンさんも俺の背中をバンと叩いて「ガハハ」と気さくな笑みを浮かべている。
「いや、本当に助かったぜタイガ。お前の分け前に、色をつけることを検討しといてやるよ」
「馬鹿なのホフマン? 検討じゃなくて、色をつけとくって言い切りなさいよ……本当にケチ臭い男ね」
「冗談だよ冗談。貢献度に応じた割り当てをしないと、何がなんだか分からんからな」
「しかし、50の内の10体も私たちがやっちゃったわね」
「ああ、先行してる連中から、この討伐の功績で分け前をふんだくらんとな」
「ともかく、本番での数も減らして分け前も増えて一石二鳥ってとこね」
そうして一同は笑ったんだけど、俺は素直には笑えなかった。
と、言うのも森の中に……遠くて距離は良くわからないけれど、さっきのオークとは全く違う、強大なオーク種の気配を感じていたからだ。
その気配は単独個体。
他のオークに比べて、圧倒的にして理不尽なまでの戦力差があるように感じる。
つまり、間違いなくこのオークの群れには――強大なボスがいる。
それに、やっぱり遠くて良く分からないけど、ボスの周囲に、取り巻きのオークの気配を強く……そして、多く感じる。
と、なると、今のオークは恐らくはただの斥候部隊だろうな。
元々、オークの群れは50体程度と聞いている。
が、斥候で9体を送り出すってことは、本隊は50の数じゃ余裕できかないだろう。
確かにこの4人と、村にいるという同程度の戦力なら、オーク50体なら十分対処できるだろうけど……。
前提の条件や情報が違えば、事故が起きる。
これも冒険者では常識のことで、俺は嫌な予感で背中に汗をかいていた。
「ホフマンさん、このまま野営するにしても……せめて位置を変えませんか? オークの仲間がいるかもしれません」
「まあ、そうだな。違う場所で野営……いや、予定を繰り上げて、警戒態勢を維持したままこのまま村に向かおう。夜通しの行軍にはなるが、みんな我慢してくれ」
このあたりの判断はさすがにベテランと言ったところか。
夜の行動は夜の行動で危険を伴うが、ベストな選択だと思う。
まあ、これでとりあえず寝込みを襲われる心配はなくなった。
けれど……と、俺の嫌な予感は止まらない。
と、言うのもさっきの4人の連携を見て、思うところがあるんだ。
確かに、中々の連携だったと思う。
ホフマンさんたちの動きもオークに比べると格段に早いとも思った。
けれど……と、俺は思う。
――遅すぎる
あれが本当にCランクの動きなのか……と。
いや、俺が強くなったからそう思うだけで、事実としてあれがCランクの動きなんだろう。
けれど、恐らく、俺が今感じているオークのボスの気配からすると……。
4人がソレと相対した場合、まず間違いなく何もできずに皆殺しにされる。
それはもう、武装した大人が非武装の子供を蹂躙するかのように。
と、敏捷の能力値で研ぎ澄まされた……俺の五感が――
――頭の中にけたたましいアラートを鳴らしていたのだった
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