第42話 レイドバトル:屍人拷問官切り裂きベネディクト その1


 ――バトルフィールドに到着しました。


 ――中央の魔方陣に足を踏み入れると同時、屍人拷問官:切り裂きベネディクトが実体化します。


 ――レイドバトル終了までのカウントダウンを開始します。


 ――なお、メニュー画面で残り時間のチェックができますので、お役立てください。


 ――残り:59分59秒


 ――残り:59分58秒



 そして、ステータス画面上で減っていく時間を見ながら、俺は注意深く周囲を見渡した。




 ☆★☆★☆★




 そこは――正方形の明るい部屋だった。


 と、まあ、部屋の広さは30メートル四方程度、中央にはさっき神の声が言っていた光り輝く魔方陣が床に描かれているって寸法だ。


 その内装は宝石店……いや、博物館といった方がニュアンスが近いかな。


 まあ、四方の内の一辺の壁に、武器や防具やアクセサリーなんかの色々なアイテムが飾られている感じだ。


 モノを売る店舗と違うのは、品揃えがやたらとスカスカなことと……部屋全体が異様に広いことだ。


 一辺の壁だけに、色々なモノを陳列している博物館……。


 うん、これが一番しっくりとくる言い方かな。


「しかし、壁に飾られているこのアイテムは一体……?」


 と、そこで頭の中に≪神の声≫が響いてきた。


 

 ――アイテムショップで交換可能なアイテムが並んでいます。フィールド内に存在する全ての者がアイテムの内、一点に限り使用できます



 ――お目当てのアイテムを試すチャンスです。有償虹魔水晶は貴重ですので、積極的に利用して交換前に使用感を確かめましょう



 ――なお、制限がありますので、スキル:鑑定を不所持のプレイヤーのアイテム使用は推奨しません



 ――また、アイテムはあくまでもレンタルなので、初期配置から10メートル離れれば消失して元の位置に戻ります。




 ああ、なるほど。

 そのままの意味で、これはショップアイテムを実戦でお試しできるってことか。

 

 っていうか、どうやら、切り裂きベネティクトとやらはすぐには襲ってこないらしいな。


 戦闘開始のトリガーは部屋の中央の魔方陣のようなので、ここは焦らずに……まずは現況確認だ。


 で……どうにも、壁に並んでいるアイテムは陳列の仕方に2種類あるらしい。


 一つは壁の前に設置された台座に置かれているもので、もう一つは壁に備え付けられたガラスのショーケースの中に置かれているもの。


 それぞれ一つのアイテムに、一つの台座なり、ガラスのショーケースが用意されている。


 と、そこで俺はスキル:鑑定を使い、壁にデコレーションされているアイテムの内、目についた一つに鑑定を施してみた。




・獣王の剣


 伝説の英雄の剣士が装備していた剣。

 この剣を振るえば、子供でも容易く岩を断ち切れると言われている。

 ただし、獣人の子供であれば……だが。



 攻撃力+212

 種族が獣人族の場合、筋力及び攻撃力に+50%のバフ効果






「なんじゃこりゃ?」


 と、俺は思わず呆れて笑ってしまった。


 おいおい、俺の装備してる……バカデカい大剣で攻撃力が65とかだぞ?


「しかもバフ効果+50%って……」


 オマケに俺の大剣は命中率にマイナスの補正がつきまくっての、デメリットありだぞ?


 そうして、他にも色々と鑑定してみたんだが、攻撃力200や300のオンパレードでバフ効果もエゲつないものばかりだった。


 それと、途中で気づいたんだけど、ガラスのショーケースのモノの方が遥かに性能が高く、台座の奴はグレードが落ちるようだ。


 で、「本当に凄いアイテムばかりだな……」と、少しばかりテンションが上がったんだけど、途中で鑑定した武器の結果を見て……俺は絶句した。



・呪われし金色の鋏


 屍人拷問官:切り裂きベネディクトが愛用している武器。

「指を切るにも、脳や目をほじくるにも丁度良い。デザインも最高だね! それに何より、これで切ると相手が良い声で鳴くんだ! 正に芸術品だよ!」とは、使用者本人の談である。

 普段は無口で、拷問対象や死人以外とは口を聞かない彼だが、このハサミのことについてだけは上機嫌で饒舌に喋るのは一部では有名。


 攻撃力+355

※ 屍人拷問官:切り裂きベネディクト以外が使用した場合は攻撃力+5で普通のハサミと変わらない。





 まあ、このアイテムについては洒落で置かれてるだけなんだろう。しかし――


「攻撃力355って……いや、レイドボスなんだからこれくらいは当たり前なのか?」


 と、なってくると、やっぱりソロプレイだと……本当に不味いんだろうな。


 しかも説明文とか名前とか見る限り、ベネティクトってのは完全にサイコ野郎じゃねえか。


 で、俺は他のアイテムの鑑定を始め、ものの数分で総数20のアイテムの鑑定を終えたんだ。



「だったら、まあ、俺が選ぶならコレだろうな」



・巨人の鮮血剣


 1000の魔物と1000の巨人と1000の人間の血を吸った巨大な剣。

 刀身が赤黒いのは材料であるブラッドストーンの影響というのが通説だが、魔術師によると吸った血による妖刀化という説もある。


 攻撃力+185

 種族が巨人・人間・魔族の場合、筋力に60%及び攻撃力に30%のバフ効果







 巨人の剣のサイズは、俺が今使っている大剣と大体同じくらいで……正に巨人が使うにふさわしいサイズと言えるだろう。


 まあ、今のところ、俺は筋力に極振りっぽい感じになってる。

 だから、一番≪筋力≫のバフ効果が高そうなコレが良いのは明白だ。 

 

 だが、ここで問題になるのは、中央の魔方陣までは10メートル以上の距離があるので、向こうまでは持ち運べないってことだな。


 と、なると切り裂きベネティクトが出現すると同時にこちらにダッシュして、そこではじめて得物を今の大剣から巨人の鮮血刀に持ち帰る必要があるってことだ。


 そうして、とりあえず手に取ってみようとガラスのショーケースの窓をスライドさせてみる。


 良し、鍵なんかはかかっていないようだ。

 すんなりとスライドして開くことができたぞ。


 そのまま剣を握ろうとして、俺は咄嗟にピタリと手を止めた。と、言うのも――




 ――なお、制限がありますのでスキル:鑑定を不所持のプレイヤーのアイテム使用は推奨しません




 神の声は確かにそう言っていた。


「……制限って何だ?」


 今のところ、そんな鑑定結果は一切でていなかったよな?


 そうして俺は、昔≪暁の銀翼≫からポーションを毒と偽装されていたことを思い出し、巨人の鮮血刀を注意深く鑑定してみた。







・巨人の鮮血刀



 1000の魔物と1000の巨人と1000の人間の血を吸った巨大な剣。

 刀身が赤黒いのは材料であるブラッドストーンの影響というのが通説だが、魔術師によると吸った血による妖刀化という説もある。


 攻撃力+185

 種族が巨人・人間の場合、筋力に60%及び攻撃力に30%のバフ効果



※ 手に取って眺めることはできるがバトルには使用不可。

  レイドモンスターが出現している際に使用した場合、不正利用ペナルティとして≪店主≫が召喚され、即死となる。



「おいおい……何だそりゃ?」


 相変わらず、即死とかエゲつないことがサラっと書いてやがる。


 そもそも、店主って何なんだよ? まあ、そこは考えてても仕方ないけどさ。


 っていうか、コレって……システムそのものが初見殺しでハメに来てないか?


 いや、鑑定を使用できないなら辞めとけとは……最初に言われてるけどさ。


 やっぱり、このシステムは信用ならん。今、ここで確信した。


「が、まあ……とりあえず再鑑定……だな」


 更に数分かけて、一応は全部の鑑定を終えたんだけど、そこで気づいたことがある。


 ガラスのショーケースのアイテムが、全て性能が高いってのはさっきから分かっていることだ。


 それでまあ、当たり前というか予想通りと言うか、俺が使用できるのは性能の低い台座の上に載っているアイテム……ということらしい。


「この中から選ぶとするとコレだな」




・仁王のブレスレット 

 筋力値に+30%のバフ効果




 性能的にガラスのショーケースの中のアイテムほどのインパクトはない。

 が、それでも普通に考えてこれも相当なぶっ壊れだ。


 なにしろ、俺の筋力は60くらいだから、それの30%で……80くらいまで伸びるってことだろ?


 経験上、それだけ筋力が上がれば……とんでもないことになるのは間違いない。



 そうして俺は「行くか……」と自らを奮い立たせ、部屋の中央の魔方陣へと歩を進める。



 しかし、切り裂きベネティクト……か。




 ――どう考えてもヤバいよな? 




 そもそも勝率的にも勝てない感じっぽいし、何よりも……負けた時のことを考えると恐ろしい。


 サクっと、戦闘で死んだ方が良かったみたいな状況になるのは、想像に難くない。


 地獄の拷問時間は、最長でもレイドバトルの時間制限の1時間と考えたいが……その保証もない。


 いや……待て。



 待て……待て待て、ちょっと待てよ?





 ――これって、ひょっとして普通に生還率100%じゃねえのか?





 と、何歩か歩いたところで、俺は「あっ!」と息を呑んだのだった。




 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る