第43話 レイドバトル:屍人拷問官切り裂きベネディクト その2

 

 いや……待て。

 待て……待て待て、ちょっと待てよ?


 ――これって、ひょっとして普通に生還率100%じゃねえのか?


 と、何歩か歩いたところで、俺は「あっ!」と息を呑んだのだった。


「メニュー画面を表示してくれ」


 で、いつものとおりの画面が出てきたわけだが、ただ一つ違うのは画面右上に残り時間:51分21秒という表記があることだ。


 うん、やっぱり間違いなく……このまま生還できる。


 この部屋はアイテムショップの商品展示という意味合いもある。

 なので、ベネティクトとの邂逅の前にアイテムをお披露目ができるというバトルシステムにしているわけだよな?


 だから、部屋の中央の魔方陣に足を踏み入れるということをトリガーにして、ベネティクトが出現する次第になっている。つまり、魔方陣に足を踏み入れなければ俺はこのまま――



 ――タイムアップで逃げ切れる



 元々、本当にこのレイドバトルはボーナスステージか何かなんだろう。

 本気で殺すつもりできているなら、こんな単純な穴を残しているわけがないしな。


「ともあれ、助かったようだな」


 一人だと確定死みたいなことを言っていたし、そんな危なすぎる橋を渡る理由はどこにもない。


 と、俺は安堵の溜息をつき、その場でへたりこんだのだった。





 ☆★☆★☆★




 そして5分程度が経過し、俺は再度アイテムショップの鑑定を終えて、「むぐぐ……」と何とも言えない気持ちになった。


「ショーケースのアイテムは当たり前として、台座の方の低級アイテムだけでもやっぱ欲しいよな」


 っていうか、低級の方でも完全にぶっ壊れ性能なので、≪嫉妬の女帝≫とかいう強敵に狙われているらしい俺としては……ここで逃げの一手を打つのは素直に悔しいと断言しざるを得ないだろう。


「とはいっても、勝算ゼロで戦うなんて、本当に馬鹿のすることだし……」


 そうして俺は恨めし気な気持ちと共に、部屋の中央の魔方陣に視線を送る。


 すると、魔方陣から少し離れて、地面に小さな石のプレートのようなモノが埋め込まれていることを確認した。


「何だありゃ?」


 そう呟き、ゆっくりとプレートへと近づいていく。


 はたして、石板には文字が書かれていて、レイドボスである切り裂きベネティクトの詳細が描かれていた。





・屍人拷問官:切り裂きベネティクト


 1900年代のアメリカ合衆国の首都:ワシントンで連続猟奇殺人を起こした快楽殺人者。

 霧の魔人との異名を持ち、証拠を辿っても霧のように手がかりが途中で消えてしまう手口は警察関係者に煮え湯を飲ませ続けた。

 事件は迷宮入りとなったが、その後、彼が異世界転移をした事実は知られていない。

 転移直後、悪の屍霊術師の居城に捕えられた彼は屍人とされ、敵対勢力の捕虜の拷問に勤しむことになるが……これが生来のサイコパスの性格にハマった。

 最終的には捕虜だけでなく、居城の全てを拷問にかけ、主人である屍霊術師までもを手にかけることになる。

 その常軌を逸した性癖と、魂の慟哭の力は管理機構中枢の目に留まり、システム上の≪魔人≫に定義されることになり、現在に至る。


 なお、大体の場合において彼はショーケースのアイテムを使うことができれば楽勝で攻略されてしまう。

 また、10人での総攻撃なら負ける設定がされることも無い。

 なので、「台座のアイテムじゃなく、ショーケースのアイテムならもっと簡単に僕を殺せたのに残念だね。ほら、そんな怪我をすることもなかったのに……」と、精一杯の憎まれ口を叩いて消えていくだけのキャラである。


 ※ ただし、単独でのレイドバトルは非推奨。

   コレクション化されて異界に引きずり込まれれば、ありとあらゆる延命を施された上で、終わらない地獄が始まる。





 なるほど、異名に負けないサイコパス野郎だな。


 っていうか、こいつも元は転移者……? それに……魔人?


 まあ、このあたりは考えても仕方ないんだろうが……。


 ともかく、こんな危ない奴に単独でバトルを挑むなんて、命を賭けるどころの騒ぎじゃねーな。


 勝算もないわけだしな。


 と、そこまで考えて、俺の頭の中に気づき――電流に似たような閃きが走った。




 ――いや、勝算は……ある。



 

 あくまでも推測に過ぎないが……タイマンで勝つ方法はある。


 まともにやっても勝てないであろうことは変わらない。

 が、それなら、まともじゃない方法でやれば良い。


 それなら、やっぱり勝算は出てくるだろう。


 しかし、負けた時のリスクが酷すぎる……やはり、ここでタイムアップを狙うのが正解なんだろうか?


 と、そこで俺は握りこぶしを作り、自分の頬を自分で思い切り殴った。



 ――いや、違うだろ? それじゃダメだろ?



 神の声を聴いてから、ここまであったことを全部思い出せ、そして考えてみろ。


 ここまで、全部のボーナスをちゃんと取り切って、それでもギリギリの連続だったじゃないか。


 ここでボーナスを逃して、次も勝てる保証なんてどこにある?



 いや、ここで逃げたら……それこそ次の≪嫉妬の女帝≫で確定死だろう。


 予感ではなく、これは半ば確信だ


「なら、今ここで、切り裂きベネティクトをぶっ飛ばす。システムがボーナスを用意してくれているなら、それは取り切るしかないだろ?」



 そうして俺は一旦……アイテム展示の壁まで戻り、仁王のブレスレットを再度確認する。


・仁王のブレスレット 

 筋力値に+30%のバフ効果


「使用するアイテムはこれだ。ここは変わらない」

 

 後は、俺がアレをやりきれるかと……俺の狙い通りにコトが進むかどうかだ。


 そうして、俺は中央の魔法陣――決戦のバトルフィールドへと足を踏み入れたのだった。






・作者からのお知らせ

 新作始めております。呆れるほどにお馬鹿な作品で、頭空っぽにして読めると思います。

 

・タイトル

エロゲの世界でスローライフ

~一緒に異世界転移してきたヤリサーの大学生たちに追放されたので、辺境で無敵になって真のヒロインたちとヨロシクやります~


・リンク

https://kakuyomu.jp/works/1177354055461804147

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