第45話 レイドバトル:屍人拷問官切り裂きベネディクト その4
「イイ! 貴方イイですよっ! 不意打ちや奇襲――私、そういうの大好きです!」
ベネティクトの目玉にナイフが炸裂するが、特にダメージを受けた様子はない。
いや、微かに赤くなって、内出血くらいは見られるか。
「それではお返しですよーっ!」
斬馬刀を振り下ろす前に、ベネティクトに懐に飛び込まれた。
「……え?」
早い……なんてもんじゃないぞコレは。
間合いを詰められた際、見えはしたけど……ほとんど反応できなかった。
そしてただ、俺は気づけば腹をハサミで抉られていたのだ。
恐らく、いや……間違いなく傷は内臓に到達している。
「ぐっ……」
――ステータスオープンっ!
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ステータス
名前:タイガ
職業:村人
レベル:37(限界値40)
HP 822/822→570/822
MP 415/415
※ バフ効果
HP:基礎値572+バフ効果250(バフ基本値:100未満切り捨て)(500×50%)
・能力値
筋力:81(バフ効果+18)
体力:20(バフ効果+4)
魔力:20
敏捷:25
器用:15
幸運:5
所持スキル:食いしばり レベル2
:鑑定 レベル1
:上位回復魔法(ハイヒール)レベル3(MAX)
所持アビリティ:聖域の守護結界レベル3(MAX)
癒しの右掌 レベル3(MAX)
所持サブ職業 ;回復術師
バフ : HP 50%
体力値20%
回復量70%
筋力値30%
残能力値ポイント:0
残スキルポイント:0
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一撃で……HPが2~3割持ってかれただと!?
こりゃヤバい、あと数発貰えばそこでHPが全部削られるってことか!?
バックステップで距離を取ると同時に、俺は斬馬刀を片手に持ち替え、右掌を腹にあてがって回復魔法を発動させた。
「
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ステータス
名前:タイガ
職業:村人
レベル:37(限界値40)
HP 570/822→797/822
MP 415/415→385/415
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良し、持っていかれた分を……そのまま回復できたぞ。
以前、魔術師のカーリーさんに
が、上位回復魔法《ハイヒール≫となれば話は別で、ほとんどノータイムで効果が発動するのは元々知っていたことだ。
そもそもカーリーさんは魔術師で、回復術は門外漢というのもある。
それと、やはり
元々、
まあ、下級職とはいえ、回復術のエキスパート職の最終到達地点だからな。戦闘中に役に立たなければ色々とキツいのは道理だ。
加えて、俺の魔力値補正とバフ効果の回復量70%増加ってのが滅茶苦茶効いてる。
と、俺が安堵したところで、ベネティクトは更にハサミを腹に突き立ててきた。
「
そのまま再度、俺はステップを踏んでベネティクトから距離を取る。
で、渾身の力で斬馬刀を大上段に構えながら――さきほどベネティクトが俺に伝えた言葉を頭の中で反芻した。
――私を倒すだけなら4人もいれば十分です。タンク・ヒーラー・アタッカー・バッファーないしはデバッファーがいればね。
そう、奴の言ってた条件は……俺は一人で半分は満たしている。
ヒーラーとしての回復術師の力。そして――
――アタッカーとしての筋力だ
振り落とした斬馬刀がベネティクトの右肩口に炸裂する。
ベネティクトは確かに顔をしかめて、その頭上にあるHPバーが少量削られた。
そのままベネティクトはお返しだとばかりに俺にハサミで切りつけてくる。
すかさず
ベネティクトの右肘に大剣は命中し、「ぐっ……」と奴はうめき声をあげた。
――良し……通じるっ!
戦力差が大人と子供ほどもあれば話にならなかったが……何とかギリギリで食い下がれる!
そうしてベネティクトは怒りに震えた表情で、ハサミでの連打を俺に加えてきた。
攻撃の回転スピードは俺の比ではなく、ベネティクトの攻撃は到底避けられるものではない。
なら、どうするか?
――回復しつつ、ノーガードでゴリ押すっ! 狙いは奴の右腕だ!
良し、狙い通りに右手首に命中したっ!
どうやら、ベネティクトは俺の攻撃についてはまともに避ける気もないようだ。
その莫大なHPを、俺一人で削り切れるものではないということからの戦法だろう。
実際問題、既に3発は入れてるのに、HPバーは10パーセントも減ってない。
と、そこで――反撃が俺の腹に突き刺さる。
そうして始まったのは、互いがノーガードの壮絶な撃ち合いだ。
速度は向こうの方が早く、こっちが1発入れる間に、向こうは概ね2発入れてくるって感じだな。
――
――
――
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ステータス
名前:タイガ
職業:村人
レベル:37(限界値40)
HP 797/822→811/822
MP 385/415→235/415
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やべえ……物凄い勢いでMPが削られていく。
だが、こっちの攻撃も効いている。
なら……プランどおりに行くだけだっ!
――右肩への上段振り落とし
――攻撃を受け、
――更に攻撃を受け、
――右肘への回転斬り
――攻撃を受け、
――更に攻撃を受け、
――下段からの、右上腕への切り上げ
――そして、攻撃を受けての
こっちの攻撃は全て命中したが、当然の帰結としてここでMPが尽きた。
だが、俺が執拗に狙い続けた、ベネティクトの右手もボロボロだ。
更に撃ち合い、俺の攻撃が2発ベネティクトに命中し、お返しに4発のハサミの攻撃を受けた。
そして最終的に辿り着いたのは、ベネティクトのHPをトータルで2割ほど削り、俺のHPが1になるという状況だ。つまるところは――
――スキル:食いしばりが発動しました
訪れたのは無敵の時間。
そして刻まれる死へのカウントダウン。
ここで一気に決めきれないと、全てが終わる。
ならば……とばかりに、回復すらも捨てて、俺はひたすらに剣を振るう。
振る、振る、振る、剣を振る。
魔神のように、あるいは羅刹のように。
ただひたすらに、渾身の力で、全霊の力で剣を振り続け、ベネティクトの右側面のみを狙い続ける。
そして、これまでの攻撃で既にボロボロになっているベネティクトの右手へ向けて、俺は雄叫びと共に剣を振り下ろした。
「落ちろおおおおおおおおっ!」
そして全力の一撃がベネティクトにクリティカルヒットし、その右腕を一刀両断。
ボトリと右腕が落ちたところで、俺は振り落とした大剣を床の上に滑らせる。
そのまま――アイスホッケーの要領でベネティクトの右腕を
「……」
「……」
「なるほど、右手を狙い続けていたのは……ずっと武器を狙っていたということですか」
そうして、肩で息をする俺に向けて、ベネティクトはおどけた様子でこう言った。
「でも、ざーんねんっ! そんなことは分かってましたーっ!」
ベネティクトは数歩歩き、近くの
「ふふ、ご存じなかった? ショーケースの武器は無理ですが、台座の武器は貴方だけでなく私も使えるんですよ? それと、私が少しずつこの場所に誘導していたのも気づいてなかったでしょう?」
ニタニタと笑い、ベネティクトは台座に置かれた金色のハサミを手に取った。
そして、そのまま高速で俺に迫り、俺の腹にハサミの一撃が突き刺さった。
「さて、紆余曲折ありましたが、これで終わりのようですね」
「お前が台座の武器が使える? そんなことは知ってたよ。っていうか、むしろ……お前が使えなかったら俺は詰んでたさ」
「はてな?」という表情でベネティクトは小首を傾げる。
「……やっちまったなベネティクト」
「やってしまった? 何をです?」
「事前に俺はショーケースの武器と、台座の武器を入れ替えていたってことだ。お前が使ってるその
その言葉を聞いて、ベネティクトの表情から血の気が引いていく。
そう、俺は中央の魔方陣に足を踏み入れる前――仁王のネックレスを取った時点で、ショーケースのハサミと台座のアイテムを入れ替えていたんだ。
そして、ベネティクトが今現在使用した武器の鑑定は次のとおりだ。
・呪われし金色の
攻撃力+355
※ 屍人拷問官:切り裂きベネディクト以外が使用した場合は攻撃力+5で普通のハサミと変わらない。
※ 手に取って眺めることはできるがバトルには使用不可。
レイドモンスターが出現している際に使用した場合、不正利用ペナルティとして≪店主≫が召喚され、即死となる。
「そんな……馬鹿な……」
と、ベネティクトは何かを察したように後ろに振り替える。
そして、俺とベネティクトは同時に絶句し、その場に固まってしまった。
と、言うのも、気づけばベネティクトの背後には、身長3メートルを超える黒スーツ姿の大きな大きな鬼が立っていたのだ。
その体躯の巨大さも目を引くが、その手に握られた……ギラリと光る肉切り包丁も、こちらに向けて存在感を十分に主張している。
「あああああああああっ!」
半狂乱になったベネティクトは、ハサミを使って鬼を攻撃する。
対する鬼は、回避行動もとらずにその場に棒立ちで、ただ攻撃を受けていた。
数十秒は攻撃を受け続けていただろうか、微動だにしないその様子を見て俺は「おいおいマジかよ」と思わず声に出してしまった。
――何しろ、無傷なのだ
体はおろか、黒スーツすら切り裂くことができていない。
「泥棒……いや、強盗にはお仕置きです」
そうして、鬼はお返しだとばかりに、ベネティクトの首に向けて肉切り包丁を振るった。
その瞬間、5分の4は残っていたはずのベネティクトのHPが瞬時に消し飛び、その首が飛んだ。
「あばぁ……」
ベネティクトの胴体はその場でバタリと倒れ、その首は黒スーツの鬼の足元に転がり落ちた。
続けざま、パンっと大きな音と共に、ベネティクトの頭部が鬼に踏みつぶされ、その場に血と脳漿の赤い華が咲いた。
そして――黒スーツの鬼は俺に向けてニコリと笑って肉切り包丁を振りかぶった。
「泥棒にはお仕置きです」
おいおい……まさか……俺にも攻撃を加えるつもりか?
そのまま、真上から振り落とされる肉切り包丁が俺の頭部にスルリと入っていって――
――そうして、俺の視界は真っ暗になり、意識が途切れた。
☆★☆★☆★
「これは失礼しました……お客様」
仰向けに寝る俺の視界に、鬼のニコニコ笑顔が飛び込んできた。
「うわっ!?」
と、思わず俺は地面を転がり、鬼から距離を取る。
「泥棒の仲間かと思いましたので……」
どうやら誤解は解けたようだが……どうして俺は生きているんだ?
脳天から肉切り包丁で真っ二つにされたはずだが……。
ギリギリで食いしばりの無敵時間に間に合ったってってことなのか?
ともかく、ステータスを確認だ。
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ステータス
名前:タイガ
職業:村人
レベル:37(限界値40)
HP 1/822→0/822→822/822
MP 25/415→415/415
※ バフ効果
HP:基礎値572+バフ効果250(バフ基本値:100未満切り捨て)(500×50%)
・能力値
筋力:81(バフ効果+18)
体力:20(バフ効果+4)
魔力:20
敏捷:25
器用:15
幸運:5
所持スキル:食いしばり レベル2
:鑑定 レベル1
:上位回復魔法(ハイヒール)レベル3(MAX)
所持アビリティ:聖域の守護結界レベル3(MAX)
癒しの右掌 レベル3(MAX)
所持サブ職業 ;回復術師
バフ : HP 50%
体力値20%
回復量70%
筋力値30%
残能力値ポイント:0
残スキルポイント:0
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HPとMPが……全開しているだと?
しかも、ログを見る限りは一度……確かにHPが0になっている。
つまりは俺は死んだはずなんだが……。
「こちらの間違いでしたので失礼しました。蘇生ポーションはサービスです。それとお詫びに色々とご用意しておりますので、あとはシステムを通じてご連絡を……それでは」
「いや、ちょっと待ってくれ」
と、俺が言い終える前に、店主は現れた時と同じようにいつの間にか消えていた。
「蘇生ポーション……? 意味が分かんねえ……」
ショップアイテム……いや、システムの力を使えば生死も自由自在ってことだ。
それはほとんど全能を意味するわけで、言い換えるならこれは――
――神の力ということ
本当に何なんだ? 何なんだこのシステムは?
と、そこで俺の頭の中でアナウンスが響き渡る。
――切り裂きベネティクトの討伐を確認
――レベルがアップしました
――レベルがアップしました
――レベルがアップしました
――有償虹魔水晶を1000付与します
――単独での討伐を確認、ボーナスとして、有償虹魔水晶を更に1000付与します
――また、レイドボスを単独討伐を果たしたことで条件がクリアーしました
――特別ミッションが解放されますので後ほどステータス画面を確認ください
――また、ショップ機能において期間限定ショップイベント『店主のお詫び』が開催されています
まあ、何か色々言ってるが……それは後で考えよう。
「ともかく……疲れた」
と、俺はぐったりとその場にうなだれたのだった。
近接無双の回復賢者 ~無能職の村人A、奈落の底から成り上がるSランクチート冒険譚~ 白石新 @aratashiraishi
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