第12話 脱出を開始します
はたして、そこでは死闘が繰り広げられていた。
横穴を半分ほど行ったところで、ナイトウォーカーたちは5メートルほどの金属製の巨人と遭遇して、すぐに戦闘を始めてしまったんだよな。
巨人の動きは鈍い。
ナイトウォーカーたちは攻撃を避けて……とにかく背後に回ることに躍起になっている。
で、背後を取ったナイトウォーカーは金属巨人の背に馬乗りになって、その頭を短剣でめった刺しにしている。
けれど、ナイトウォーカーの攻撃は金属巨人には通じず「カキン」という金属音と共に弾かれているようだ。
まあ、微かには巨人の金属は削られているようだけど……と、そこで俺は思わず息を呑んだ。
「ナイトウォーカーの攻撃が効かないだって?」
おいおい、アレはレベル40代の攻撃特化の魔物だぞ?
けれど、やっぱりナイトウォーカーの攻撃が金属巨人に効いているようには見えない。
「スキル:鑑定」
恐る恐るという感じで、俺は金属巨人に鑑定を使ってみた。
・ミスリルゴーレム:レベル78
詳細鑑定不能
ミスリル……ゴーレムだと?
確かAランク冒険者のパーティーが徒党を組んで、更に騎士団とか魔術師団とかも出てきて、それで対処するとか……そういうレベルの厄災……だろ?
本当に……勘弁してくれよ。
あのゴーレムって、横穴の先の向こう側からやってきたんだよな?
だったらやっぱり、あのモンスターハウスは……ほとんど、魔界みたいなもんなんだ。
こりゃヤベえ……と、そこで俺の頭に電撃が走った。
――いや、待て
逆に、これはチャンスだ。
何故だか分らんがナイトウォーカーたちは今はミスリルゴーレムに手一杯となっている。
実際、相当な数が交戦しているし……今は竪穴はほとんど無防備に近い。
――つまり、今、行くしかない
そのことに気づいた瞬間、俺はとにかく走りに走った。
戻れ、戻れ、今すぐ戻れ!
竪穴に戻り、壁の表面を確認しても予想通りにナイトウォーカーはいない。
けれど……と、俺は思う。
「万全な準備とは言えない」
本当であればレベルマックスの状態で、なおかつスタートダッシュミッションも全て取りたかった。
その上でナイトウォーカーを駆逐して、万全を期したかった。
もっというなら、せめて……弱い魔物を倒してスタートダッシュミッションくらいは全て取りたかった。
やっぱり、ここは一旦……様子を見るか?
スタートダッシュミッションを全て取り切れば、竪穴攻略の難易度は一気に下がるだろう。
と、そこまで考えて首をブンブンと何度も振った。
――恐れるな、ビビるな……逃げるな!
弱い魔物を探して、モンスターハウスに飛び込んで生還できるか?
それを数日に渡って何度も繰り返す?
――そんなことできるわけないだろっ!
ここで様子を見てどうすんだよっ! ビビって決断できずにどうすんだよ!
――そう、チャンスは今しかないんだっ!
モンスターハウスで何度も何度も死線を潜るなら……竪穴でここ一度だけで死線を乗り切った方が生き残る公算は遥かに高い。
そもそも、スタートダッシュミッションを全て取ってもナイトウォーカーの巡回を振り切る算段も今のところ存在しないじゃないか。
だが、今なら確実にナイトウォーカーの巡回は振り切れる。
今ならできる。
このチャンスを逃せば、後はジリ貧しか残っちゃいない。
幸いなことに壁を昇るだけなら筋力値も十分。
アイテムボックスに迎撃用の石もたんまりある。
――やってやれないことはない!
そうして俺は竪穴の先を見上げ、拳をギュっと握りしめたのだった。
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