幕間

第33話 幕間

 パウシュトダンジョン地下二階。


 そこはダンジョンでありながら草原が広がっている広大なエリア。その一角には森や池といった場所も存在し、何故か菜園までも作られている。


 初心者以外、そのエリアはまず素通りする。だが、そのさらに奥にある森の中。そこには、一軒の小屋が建てられていた。菜園と同じで、ダンジョン探究者ヴィジター達にとっては不可解なそれ。誰が『何するために作ったのか』わからないその建築物は、初めてこのダンジョンを訪れた者達の話題となり、情報屋を求めるきっかけとなる。


 時折、情報屋を頼みとしない新人たちが、『何かないか』と探しに来ることはあったとしても、そもそもここにはそういう仕組みは用意していない。


 ただ、その一角だけは明るい草原エリアとは違う事が、想定していない使い方をされることになっていた。


 そこは、ダンジョンの奥のように暗い場所。そこだけ闇の中にすっぽりとくるまれているその中の小屋は、密会にうってつけの場所になる。


 今もそこで、密かに話す声があった。


 *


「やはり、睨んだ通りです。一連の騒動はシェンムー派の企みでした」

「しかも、最初の莫大な利益により、あの派閥の勢いは増していく一方です。このままでは、完全に実権が……」

「外に働きかけている件は、もう少し時間がかかりそうです」


 複数の声に続くしばしの沈黙。ただ、それは一つの意思で破られる。


「そうか……。何かあったらまた知らせてくれ……」


 闇の中で姿は見えない。だが、その声からその場所にいるのは男と複数の女であることは明白。


 そして、男の方が立場が上だという事も。


「お気を付けください。奴らかなり強硬手段に出てきています。今回の事で、派遣の者達までも消されています……。偶然とされていますが、今残っている者は全てシェンムー派です」


 沈黙が周囲に溶け込み始める。その中で確かな意思を持ったその声が、同調しながらも確実にそれを伝えていた。


「とにかく今は、あの方の身辺警護を最優先に。あの隠し部屋に到達する者はでないだろうが、一応警戒を厳にしてくれ。こちらはこちらで許されていることで対応しよう。俺達も表向きはシェンムー派だ。だが、念のため暫く定期連絡はなくていい。受付も暫く休め。変わった動きがあった時だけ連絡してくれればいい」


 男が発したその声に、女たちはただ黙っているだけだった。


「仰せのままに――」


 だが、その言葉を最後に女たちの気配は消える。残った男だけが、その闇の中に佇んでいた。


「さて、そろそろ頃合いだな。何がどう出てくるか……。いや、どうするのか……、か?」


 それはほんの小さな声でしかない。だが、その確信を持っているかのような言葉の響きは、不確かな要素に足をとられる。


 闇の中で、誰一人聞く者もなく。男はその問いの答えにいつまでも考えを巡らせていた。

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