第18話 確執
結局、アーデガルド達はシオンの提案を半分だけ飲むことにした。
アーデガルドがその事について意見を求めると、やはり意見は割れてしまっていた。
最も賛成したのがアオイであり、最も反対したのステリ。
ゴルドンは最初からアーデガルドに一任し、メアリは意見を言わずに黙り込んでいた。だから、自然に話し合いはアオイとステリの言い争いになっていく。ただ、最終的には誰もがアーデガルドに一任する事を約束していた。
アーデガルドは自身に問う。
この得体の知れない不安感がどこからやって来るものなのかを――。
ヒバリを失ってすぐに、ヒバリの代わりを見つけて
当然、アーデガルド達にしても、ずっと今の仲間だけで探索してきたわけではない。だから、そこのこと自体に抵抗があるわけではなかった。
ただ、シオンはアーデガルド達全員に対して、『自分の
しかし、それもアーデガルドの不安の正体でもなかった。
漠然とした不安感をステリが告げた時、アオイがアーデガルドにそれをどう見るか尋ねていた。その時も、アーデガルドは、『特に……』としか返事していなかった。
アーデガルドはさらに自身に問い続ける。
彼女がもつ、『嘘を見抜く特別な目』も、敵対しているものに対してそれを告げる程度のものであり、仲間のそれには役に立たない事は彼女にもわかっていた。もしそれができていれば、彼女は王族であり続けて、この場所にはいなかっただろう。ただ、アーデガルドには妙な感が働くことがあるのは事実。それはステリも持っており、彼女が反対している最大の理由もそれだった。
言葉にできない不安は、ただの不安なのかもしれない。現状から変化する事に対しての不安が、その不安になっているのかもしれなかった。だから、ステリもアーデガルドに一任している。
結局、それぞれ思うことが、アーデガルドの中にも存在する。だが、『ヒバリの仇を討つ』という思いが、彼女たちにその方法を選ばしていた。
シオンを自分たちの
――今の自分の力ではそれができない。でも、シオンがいれば話は違う。
その思いがアーデガルドにその決断を選ばせていた。一抹の不安を抱えながらも――。
そう、あの戦いを経験して、アーデガルドは特に『自分たちの足りないもの』を感じていた。
あの場で唯一効果があったのはヒバリの魔法。アーデガルドとアオイ、ステリにしても、その攻撃のほとんどを無効化され、あまつさえいいように翻弄されていた。言うなれば、『
だが、唯一効果があったヒバリの魔法ですら、
その事実は、全員の頭に残っている。いや、それ以上に、
もし、
情報収集のほとんどをヒバリに任せていたことも、彼女たちはそれぞれに悔いている。そして、その情報を集めた結果、より鮮明にその結論を導いていた。
仮に今すぐ目の前に現れたとしても、今の自分達では倒せない。返り討ちにあうだけだと。
シオンと行動を共にする理由は、『彼は
だから、彼女たちはそれぞれに決断し、そのための行動を開始する。
何より、悲しんでばかりいられないというの事は、元々わかっていたことだから。
そしてアーデガルド達はダンジョンに潜る。
失った装備を買い揃え、それぞれが準備する時間として、さらに一日費やした後に。
***
連携や互いの事を語る時間もなく、彼女たちは準備に時間を費やしていた。二度と同じ過ちをしないように、それぞれがその事を考えて。
そして、あの次の日。再び訪れたシオンに対し、アーデガルド達は
『感謝する』と――。
アーデガルド達の
好意的であるか否かにかかわらず、シオンは注目されている人物の一人。しかも、劇的な生還を遂げた後の脱退と、時をほぼ同じくする電撃結成なだけあって、実に様々な憶測が飛び交っていた。
だが、
その間、シオンは黙って最後尾を歩いていた。加入したころのヒバリと同じように。
そもそも、地下四階まではシオンの出番があるわけではない。魔法が一日に無限に使えるわけではない以上、その使いどころの見極めは重要であることは言うまでもないだろう。特に、高レベルの
そして迎えたいつも通りの地下四階での戦闘。
ただ、それが終わってから初めて、いつもとは違うという問題が表にでていた。
*
ステリがシオンを激しくにらむ。
その視線を涼しく真正面から受け止めるシオン。
一見すると、そこに特殊な空間があると思えるほど、二人は互いに見つめあう構図になっていた。だが、それは甘いものではなく、まさしく剣呑としたものだった。両者の間にある空気さえ、そこから逃げ出したくなっていると思えるほどに。
「――なぜ邪魔した?」
今まさに、ステリがいつも通りに逃げるウケツケージョーの首をはねるその瞬間。それまで一切魔法を使おうとしなかったシオンが、ウケツケージョーをどこかに転移させていた。
その事をステリはシオンに詰問する。
「さっきも言ったはずだ。俺はここで改良呪文を試している」
うんざりとした表情も見せず、シオンは淡々とその言葉をつなげていく。
「『奇跡の行使』は経験の低下を引き起こすのと引き換えに、『敵を任意の場所に転移させる』が、『埋没の檻』はレベル低下を起こさない。だが、『埋没の檻』の効果は『その場所よりもはるか地下に埋める』ことが前提だ。つまり、ある一定の地下であることを前提にしている。しかし、『相手を転移させる』という効果が似ている以上、『埋没の檻』改良すれば、任意の場所に移動させることができるだろう」
その話を聞いていても、ステリはなおもにらみ続ける。その表情に何か思うところがあったのだろう。シオンはその態度を少し変化させていた。
「逆に聞くが、何をそんなにこだわる? ウケツケージョーは
「戦利品。わたしの目的。それに、必ず逃げるわけじゃない」
シオンにしてみれば何をこだわるのか全く見当もつかない話だったに違いない。ただ、自分の行動については答えた方がいいと判断したと思われる。あまり饒舌でない彼にすれば、かなり説明している方と言えるだろう。
だが、間髪入れずに答えたステリの言葉は、お世辞にも説明と言えるものではなく、シオンにさらなる疑問を生じさせる結果となっていた。
「戦利品? ウケツケージョーの?」
「わからなくていい。でも、戦利品」
ステリのそこに歩み寄る空気はなく、その意思さえ全く感じられない。
ただ、それをそのままにしておくのは良くないと思ったのだろう。アオイはステリの話で足らない部分をシオンに説明し始めていた。その事に、憮然とするステリを無視して。
「あんな、シオン君。この子の言う
シオンの目の前に差し出したその装飾品。なぜそれを持っているのかと言わんばかりの顔になるステリをよそに、アオイはそのまま回り込んでシオンの肩を組む。
「まあ、ウチにもようわからんけどな。でも、頼むから好きにさせたってくれんかな? それにこの子、カンがええねん。『このダンジョンには、何か目的がある』ってのが、この子の持論や。ホンマ、よーわからんけど、けっこう本気みたいやで? まぁ、言葉足らずは、堪忍したってや。お互い様みたいやし?」
アオイの説明を黙って聴いていたシオン。ただ、その顔には軽い驚きが浮かび上がていた。
だが、それも一瞬の出来事。次の瞬間、シオンは相変わらず無表情を維持していた。
だが、それでも何か思うところはあったのだろう。軽く頷いたシオンは、真剣な目でステリを見つめて問いかけていた。
「ウケツケージョー達がもっているそれは、全部で二種類。ただ、持っている者と持っていない者がいる。持っているもののうち、すぐに逃げ出す者は帯の一部が青、最後まで粘るのが赤で間違いないな?」
そう話するシオンの顔を、今度はステリが驚きの目で見つめていた。
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