第三章 ダンジョン攻略者
第25話 ダンジョン攻略依頼
それは、パウシュトダンジョンで初めての出来事として記録される事となる。
西の大国ガニクラ王国と東の大国ポリタテック帝国。その間にある荒野に点在する交易都市のひとつであるパウシュトは、不思議なことに、これまでそのどちらにも所属していない中立都市として両国に認識されていた。
だから、両国は駐在武官を派遣し、この街を互いの情報を得る場としても利用している。
ただ、これまで両国の公式記録に、この場所で武力衝突したという記録はなく、今までも表立ってこの街が戦場になるような事もなかった。
それどころか、両国はその気配さえ見せず、これまで良好な関係を維持し続けている。
つまり、パウシュトの街は、大国間の街でありながら『発生から今日まで戦火にさらされたことが一度もない』という歴史を持つ、稀有な街と言えるだろう。
そもそも、この場所は両国の地図では長らく広大な荒野として描かれていた。何もない空白地帯。ただ一つ、古のダンジョンがあるという伝説を除けば――。
当然、そんな土地を手中に収めたとしても、両国には何のメリットもないというのが最大の理由だろう。しかも、お互いにそれ以外の国との争いがあったから、この地域に拠点を作ってわざわざ相手を刺激するような真似をしたくなかったに違いない。
ただ、そこにある伝説のダンジョンが発見され、人が集まり街が生まる。そうしてついに交易路が作られ、他の街を生み、それが両国を結びつけていた。
何もない荒野に、交易都市ができたのは、すべてこのパウシュトダンジョンのおかげだと言っても過言ではない。ただ、両国にとっては、思わぬ『戦略上の拠点』が勝手に出現したことになってしまった事になるだろう。
このパウシュトダンジョンの発見と街の発展は、両国では頭痛の種だったに違いない。そして、その当時、他の国と交戦状態にあった両国は、ここの支配をめぐって争うよりも、このまま独自で発展させる方法を選択したと考えられている。
ただ、両国を最短で結ぶこの交易路は、それぞれが考える以上に巨大な利益を生みだしていた。
それ以降、国を挙げてこのダンジョンを攻略するという発想はなく、むしろ放置し続けている。いや、しいて言えば、足の引っ張り合いに近いことは行われていた。
そして、ダンジョンと街は確実に成長し続けていく。それと共に利益も増大していく。
だが、時間は流れ、人も移り変わっていく。
時と共にこの街はさらに発展し、周囲は依然として荒野であるものの、交易路は十分に整備される。その確かな利益が、両国もゆるぎない大国として押し上げていった。
しかし、人の欲というものは際限がない。
その事が、両国にある決断を促すことになっていた。それは言うまでもないこの街の領有。
ほぼ同じ時に、他の国との戦争に終わりが見えてきた両国にとって、もはやこの街は単なる交易都市としてみることはできない。より大きな利益のために、この街はその価値を高めていた。
戦略上の重要拠点という新しい価値へと――。
この街を補給地点として機能させれば、その先への侵攻も容易になるという重要な意味を持つパウシュトの街。互いに勢力下におきたいものの、今それを表立って主張する事は、宣戦布告に繋がっていく恐れがある。
だから、両国がそれを主張するために、互いに軍を派遣することはなく、表立っての行動は皆無だった。
そもそも、この街に対しての積極性の欠如は、後世の歴史家に大いなる疑問として映ることだろう。確かに、互いの行動を悟らせないという意味はあったかもしれない。軍の多方面同時展開を避けたかったのも事実だろう。
だが、ダンジョンがこの街の誕生と発展に寄与している事を知っているものからすれば、ダンジョンこそが両国の行動を誘導したと考えるに違いない。
そして、この日。デーイキー・ンムダの酒場の掲示板に、一つの同じ目的で二枚の依頼書が掲げられる。
とりわけ人目に付く大きなその依頼書。そのどちらも同じ文面。ただ、依頼主が異なるのみ。
それには、『ダンジョン攻略についての依頼』が書かれていた。
当然、依頼主はそれぞれガニクラ王国とポリタテック帝国。ただ、二つの依頼を同時に受けることはできず、報酬も成功した場合のみ支払われると書かれていた。
――つまり、
その事は、ダンジョン攻略に成功した陣営がこの街を支配するという事を意味しているに違いない。
ダンジョンの秘宝に関する伝承を使った、一種の探索競争として。
だが、それは
ついに、この地を両国が求め争うことになった。だが、その手段は軍事力ではなく、探索競争。その微妙な感覚のずれは、
確かにこれまで、どちらかの国に連なる
それらをまとめて国が
しかも、今回は上位の
すなわち今は、突出した
こうして、パウシュトの街はこれまで以上の高まりを迎えることになる。
降ってわいた、国という『大きな
だが、中には代理戦争に巻き込まれるのは御免だと、パウシュトの街から出る者も出てきており、そのために、再び
だが、そんな状態であっても、皮肉なことにこの街の活気はさらに勢いづき、より下層へという意気込みに燃える
そんな中、アーデガルド達はどちらの国にも属さずに、ただダンジョンで戦う日々に明け暮れていた。地下十五階の攻略を終えた彼女らは、新しい武器と防具に身を包む。
そして、今。
次の目的地である地下十六階を目指して、地下四階のウケツケージョウを倒していた。
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