第四章 新たな秩序

第34話 深奥を覗くもの

 幾日も停滞を見せていたダンジョン両国のダンジョン探索競争。数多くの犠牲者を出しながらも、それを補充するかのようにダンジョンには人が集まってくる。賑わいも顔ぶれも日々新しくなっていくその中で、アーデガルド達は着実にその実力を高めていた。


 すでに地下十九階を探索しているアーデガルド達。慎重に着実に、彼女たちは日々研鑽を重ねていく。元々有望とされていた探索集団パーティだったが、ついに五指と呼ばれる存在にまで上り詰めていた。


 そんな中、デーイキー・ンムダの酒場の酒場の喧騒に、一つの知らせが舞い込んでくる。


 ――地下十九階エリアボスの討伐達成。地下二十階開放の知らせ。


 その知らせを聞いたシオンは、思わずその手に持った杯を落としそうになるほど驚いていた。それは普段の彼からは想像できない姿と言えるだろう。だが、それを気にしている時間はアーデガルド達には与えられない。


 なぜなら、それを成しえた探索集団パーティの名前が酒場の掲示板に大きく掲げらたと同時に、アーデガルド達の前に一人の老人が忽然と姿を現していたから。


「お聞きのように、帝国に一歩先を行かれました。アーデガルド様方はゼムという輩より先に地下十九階には降りていたはず……。いやはや、この場で『何故?』とは申しません。ですが、この失態は大変不名誉なものでしょう。アーデガルド様。あなたは誇りある王国に王族として名を連ねるのです。この先、このような事態にならない事を期待しますぞ? よろしいですかな、アーデガルド様?」


 姿を現したときと同じように、その姿を煙のように消す老人。今にもそれに唾を吐きそうになっていた顔のアオイが文句を言うよりも先に、一人の男がアーデガルド達に声をかけていた。


「今回は――。いや、今回も俺たちの勝ちだったな、ゴルドン」


 勝ち誇った笑みを浮かべ、大男は尊大な態度をゴルドンに見せつける。


「ああ……。――おめでとう、ジョウ」


 片手にもつ骨付き肉にかぶりつきながら、ゴルドンは巨漢の闘士ジョウを一瞥してそう告げる。その態度が気に食わなかったのだろう。一瞬表情を強張らせた巨漢の闘士ジョウは、さらに話を続けていた。


「ふん――。まあ、悔しいのはわかる。それを隠したいのもわかるぜ。今だから正直に言うが、オレも地下四階を先に行かれた時は悔しかったからな。普段なら五人前食える飯が、あの時は三人前しか食えなかった」

「いや、聞いてないやん、そんな話。っていうか、それ、ホンマに落ち込んでんの!?」


 すかさずその話を批判するアオイ。だが、それを待っていたかのように、後ろから違う男が顔を覗かす。


「ふっ、なら俺から聞かせてやるぜ? この俺の武勇譚をよ!」

「いらない。マックの話は嘘だらけ」


 過剰な演出を見せながら話し始める美形の盗賊マック。そんな美形の盗賊マックの語りをステリは一刀両断に打ち捨てていた。


「ハハッ! そう言うなって。当り前に情報は大事だぜ? 当たり前に知ってるだろ? もっとも、あのフロアボスはレアもので、もう二度と復活しないらしいけどな! 当たり前に強かったぜ? まっ、それを倒した俺たちは、当たり前にもっと強いんだろうけどよ! いいから――」


「黙れ!」


 それでもめげずに話し始める美形の盗賊マック。だが、その言葉はテーブルのあげた悲鳴とシオンの怒声で阻まれていた。


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