第14話 首を刈るもの
「気を付けて! コイツのクビチョンパーは、どこにいてもやって来る!」
魔法障壁の呪文を唱えた直後のヒバリが、
一切の情けのないその攻撃は、突然目の前にやってくる。
だからこそ、その技を出させるわけにはいかない。炎による痛みに耐えて、
「そうですよねぇ。そうきますよねぇ。いいですねぇ!」
その呪文を使うのがわかっていたかのように、
「させん!」
だが、それを予期していたゴルドンの盾が、寸でのところでそれを防ぐ。大きく体勢を崩してのけぞる
「これで終わり」
その斬撃は狙いを過たず、
「クックック、生ぬるい。生ぬるいですねぇ。そんなものでは、この私の首は落とせませんよぉ。首を切る重さ。小娘ごときが耐えられるものではないのですよぉ」
確かに、ステリの奇襲は完全にその首を捉えていた。だが、その瞬間に煙となって消える
だが、その瞬間。その煙ごと燃やすかのように、炎の柱がダンジョンの中でそびえ立つ。
ヒバリの唱えた炎の柱は、瞬く間にその煙を飲み込み焼き尽くす。あらゆるものを焼き尽くすかのような熱量は、周囲の空気を熱風へと変化させていた。ただ、その膨大な風の流れを遮る不可視の盾に覆われているアーデガルド達には、何の影響も出ていない。
そして、次の瞬間――。
爆発的な炎の柱は、初めから何もなかったかのように一瞬でそこから消え去っていた。だが、何事もなかったかのように見つめる
ただ、感心したことを示すように、拍手で彼女たちを称えている。
「フムフムフムゥ。なるほどなるほどぉ。いいです。いいですねぇ。さすが、選ばれただけの事はありますねぇ。これは、魔法使いの威力ではないのですよぉ。首を切るのがもったいないですねぇ」
その瞬間、一人悦に入る
「まぁ、私が選んだわけじゃないですけどねぇ。さて、リーダーのあなた。あなたは誰を選びますぅ? 誰を守りますぅ?」
間近に顔を突き付けられ、アーデガルドはとっさに剣でそれを払う。だが、その攻撃をやすやすとかわした
「時間もまだのようですしぃ。もう少し、遊びますかねぇ。うふん。お前たちぃ。久々の仕事ですよぉ」
「なんやあれ!? めっちゃ、やる気なさそうやねんけど!?」
またもアオイの攻撃をかわした
「マドギーワとサーセン!? 気を付けて! 奴らの攻撃は大したことないけど死ぬときに気力を奪うから!」
だが、彼らの正体に気づいたヒバリが警告の声を発したその時、アオイの刀が二体の
「ちょっ! もっと早よ
アオイの抗議を打ち消すように、二体の
絶叫がこだまするその部屋で、ゴルドンの雄叫びがそれに抗う。
その声にメアリとヒバリが倒れたことを感じたアオイは、顔をしかめて再び刃をサーセンにふるう。だが、それでもその絶叫は止まらない。苦痛をこらえ、マドギーワとサーセンの死体を切り刻むアオイだったが、それは全て無駄に終わる。
すでに絶命しているにもかかわらず、二体の
結局、全員がその場で動けなくなるまで、その絶叫は止まらなかった。ただ、
「なんなん!? あれ!?」
「ステリ姉さん、回復、蘇生、あと何回くらいいける?」
「ごめんよ、蘇生は無理。回復もあと数回しか……」
おそらくその影響をまともに受けたのはメアリだったに違いない。他の者達と違て、杖を支えにして立ち上がるその動作も、かなり弱弱しいものだった。
「アオイ! アーデ! もう呪文がないよ! ゴルドンは前、ステリは後ろ!」
ヒバリのその言葉に、アーデガルドとアオイが瞬時に飛び出す。
ゴルドンを前にした状態でヒバリとメアリが並んで立ち、後ろをステリが警戒する。
ただ、
「クックック。そうきますよねぇ。でも、あなたたちの首には興味がありませんよぉ」
アーデガルドの剣とアオイの刀。その両方に刻まれても、
「『状態異常の空間』!」
その時、ヒバリの唱えた呪文の効果が、
粉々に砕かれた体の上に、驚きの顔を落とす
さらに叩き込むアーデガルドの剣は、いとも簡単に床を切り裂いていた。
「やったん!?」
期待に満ちたアオイの声。だが、メアリの悲鳴がそれを打ち消す。
「あーあ。これはですねぇ、お気に入りの服なのですよぉ。これはその敵討ちが必要ですよぉ。これは怒っていい場面ですよねぇ? 『よくもぉー』ですねぇ」
それはほんの一瞬の気のゆるみだったに違いない。いや、魔法を使わない職業であるステリとゴルドンもあの二人の叫びを聞いているから、それは無理もない事だろう。
一般的に魔法職の天敵と呼ばれているマドギーワとサーセンだが、それ以外の職に就くもの達にも、その魂の叫びは致命的な傷を残す。
集中力を奪い去るという傷を――。
一時的なレベル低下に似た症状のそれは、状態異常と違って戦闘中に回復する事は難しい。しかも、熟練の者であればあるほどその低下の影響を色濃く受ける。その事を知っていれば、少なくとも対策出来るかもしれないが、知らないうちにその影響を受けてしまった結果、ステリの警戒は本人も意識できないほど低下していた。
その結果、ステリの警護はメアリ一人に絞られていた。本人もまったく意図していないうちに――。
ゴトリと落ちたヒバリの首を拾い上げた
小さいながらもその炎は、ヒバリの頭を跡形もなく消し去っていた。
「さて、これで敵討ちはすみましたよぉ。そういえば、これで終わりましたねぇ。お仕事、完了ですねぇ。さて、どうしましょうか? 残業ですかねぇ?」
自失茫然となるステリをよそに、ゴルドンの戦斧がうなりを上げる。だが、それをやすやすとかわした
「これ、かなりやばいで、アーデ」
「わかってるよ……」
敵は
ただ、特にその責任を感じているステリは、まだ戦闘に参加できる状態になっていない。
「アーデは下がり、ウチ、とことんやってみるわ!」
「アオイ!? ――任せたよ!」
だが、不思議と
でも、それも時間の問題だった。
まるで暇をもてあそばしたように、
「そんな余裕、あげるかいな!」
「ステリ! しっかりして!」
攻撃をアオイに任せたアーデガルド。聖騎士であるアーデガルドはステリに状態異常回復の魔法を使う。
「クックック、そろそろ頃合いですかねぇ? 第一、こちらは待つだけというのも退屈ですねぇ。改善要求が必要ですねぇ」
アオイの攻撃をまともに食らいつつも、
魔法陣が
軽い驚きを見せる
「これ以上させるかいな!」
「それはどうでしょうかねぇ? でも、それは面白い使い方ですねぇ。どこまでできるか、見てみたくなりましたよぉ」
アオイの気合のこもった声をあざ笑うかのように、部屋の中央に転移の魔法陣が形成される。
その直後、この部屋全体がまばゆい光の中に包まれていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます