第47話 最奥で座するもの
アーデガルドとアオイとステリの三人が、
元々、毒や麻痺や石化という状態異常だけではなく、レベルドレインまでくらっていた彼ら。そんな彼らを癒すための回復呪文を、スピラはすでに使えない状態になっていた。
だから、自分が持っていた道具だけでなく、メアリからもらった
「さあ、早くいきな」
だが、さっそく参戦しようとする彼らに、メアリはそう指示する。その言葉に、彼らが不満の声を上げるよりも早く、メアリはピシャリとそれを制す。
「レベル下げられているあんたらにいられちゃ、はっきり言って迷惑なんだよ。第一、スピラはもう回復ができないんだ。知ってるだろうけど、仲間全体の回復は、同じ
戦いの趨勢は明らかになっているが、油断なくそれを見守りながら話すメアリ。そんな彼女に何かを言おうと相対した
「オレ達が……、足手まといになるのはダメだ」
「ゼム、俺が言いたいのはだな!」
「すごい……」
メアリの正論に対して、納得がいかない
その事に不満を感じつつも、
「なんてこった――」
思わず
「姉さん――。やっぱり姉さんは正しかったよ」
「ん――? なんだい? いきなり? まぁ、そうだろうけど? ただね、色々と間違えることもあるさ。でも――。いや。だからさね? 正しいと思う事をやるしかないのさ。結局は、最後の最後にならないとわからないんだよ、何が正しいかなんてね。でも、ようやくこれでヒバリに報告できるよ」
頼りになる仲間の勝利を誇りつつも、メアリの視線は最奥の者に向けられていた。何かするとすれば、それはこれから。メアリ達は本能的にそれを感じているのだろう。特に彼女は仲間の命を預かる以上、戦闘中もその動きには常に注目していた。
その事を知ってか知らずか、最奥に座していた貴族風の男は優雅に席を立って話しかける。
「では――。そろそろメインディッシュとしますか」
アーデガルド達の健闘をたたえた言葉を贈った貴族風の男は、ゆっくりとその階段を下りて近づく。その圧倒的な力を全く隠そうとせず楽しげに、貴族風の男は部屋の中央まで歩いていく。
「スピ。早くいくんだ。――いいかい? 帰ったら、とっとと村に帰りな!」
スピラの肩をつかんで有無を言わさずそう告げたメアリ。その次の瞬間には、スピラを突き飛ばすようにして離れ、仲間たちが集まっている部屋の中央に向けて駆け出そうとする。
「待って! 姉さん!」
だが、スピラも彼女の雰囲気を察したのだろう。手を伸ばし、その体をつかもうとするスピラ。だが、振り返らずに駆け出したメアリを、彼の手が掴めるわけがなかった。
「ふむ。その前に邪魔な小石は向こうで遊んでもらいましょうか? そして、あなたたちが本当に私を満足させるかどうか。私自らが計ってあげます!」
アーデガルド達の前に、死霊の魔物が五体その姿を現し、それとは別の巨大な死霊の魔物が、ステリ達の前に召喚される。
「『地獄の業火』」
おそらく、その事を予期していたであろう。ゴルドンの背中に隠れて、密かにその詠唱を始めていたシオンが魔法を放つ。当然、その呪文の効果は絶大で、召喚された死霊の魔物は、瞬く間に焼け落ちていく。ただ、その灼熱の炎の中心にいた貴族風の男は、涼しげな顔で服についた埃を払っていた。
「まったくためらいが無いのは称賛に値しますよ、シオン君。ですが、これでは私には傷はつけれません」
「知っている。これは俺達の挨拶みたいなものだ」
シオンの言葉が終わるや否や、死角から一気に躍り出たアオイとステリの刃。それぞれがすり抜けざまに、貴族風の男の体を切り裂いていた。
「何なん⁉」
「幻影?」
互いに手ごたえのなさに驚きつつ、目の前の貴族風の男を凝視するアオイとステリ。一方、彼女たちの攻撃を食らった貴族風の男の体は、
「すばらしい連携ですね。ただ、それは以前見せてもらいましたよ」
貴族風の男がさっきまで立っていたほんの少し後方から、その声は聞こえていた。
「ええ、そう聞いています」
そう答えるアーデガルドの鋭い剣が、姿を現した貴族風の男の体を今度こそ確実に薙ぎ払っていた。
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