第27話 代償

 戦闘面において手伝いができないきらなの役目は、いかにれいれを魔法少女として魅力的に見せるかという、場を調整したり、雰囲気や子供たちのテンションをコントロールしたりと、言うならばヒーローショーの進行役だろうか。


 小さな見た目や魔法少女を好きだという気持ちが、子供たちを自然と誘っている。

 これがこみどりちゃんだったりすると年の差を意識して離れてしまう子も多いだろう。


 きらなだからこそできること、というのは、小学生とそう変わらない見た目と精神年齢であるからなので、きらなの推測もあながち間違いではなかったのだ。


 戦いが始まってしまえばアドリブ任せになってしまう場面も多い。


 だがれいれは必ず指定したポイントに怪人を誘き出して戦ってくれるので、きらなも子供たちを誘導しやすかった。


 れいれの方も適度にピンチになってくれているので子供たちが応援しやすい場が出来上がっている。

 狙ってやっているのだとしたらとても器用だ。


 れいれ自身の強さがあるからこそ、できる行動だろう。

 これがもしも怪人と実力が拮抗していたとしたら、わざとピンチになるなんて余裕はないはずだ。



 ――れいれと仲直りをしてから一週間が経っていた。


 今日は一冊の雑誌を買ってから、れいれと合流している。


 魔法少女を特集した雑誌の、好きな魔法少女ランキングの上位に、れいれがランクインした記念すべき一冊であり、きらなはこの一冊以外に何冊も買って大切に保管している。


 れいれは興味なさそうに自分の記事を見ようとはしなかったが、

 薄らと笑みがこぼれているのを隠し切れていなかったので、嬉しいのだろう。


 魔法少女になったばかりの頃はここまで表情豊かではなかった。

 れいれの意識が魔法少女の面白さに向いた証拠だろう。

 ……ただ、一つ、不満があるとすれば、


「……わたしだって一枚噛んでるのに、特集されてないんだよね……」


 まあ、注目はれいれにいきがちだ。

 視線が引きつけられる対象がいるのにわざわざ逸らして群衆の中のきらなを見る者はいないだろう。


 ただでさえ小さいのに同レベルの子供たちに混ざってしまえば埋もれてしまう。

 探し出すのは至難の業だろう。


 とは言え、やはりちらりと見える頭の良さ(単純に小学生と比べた時の地力の違い)は隠せるものではなく、子供たちと混ざっていれば尚更浮き出て見える。


 それに、いくら群衆に紛れていても知り合いであれば引き寄せられるように見つけてしまうので、入念に探さなくとも見つけることは容易かったりする。


 そう、


「なに考えてんだよ、あいつら……」


 一人の魔法少女。

 ……衣装は通う学校の制服のままだったが。


 魔法少女には相応しくない乱暴な口調で、刊行されたばかりの雑誌を眺めている。


 雑誌が持つ効力は、魔法少女たちを雇っている会社からの評価に直結していた。


 れいれがこうも目立ってしまえば、彼女に仕事が集中するのは当たり前だった。


「……あたしらを、食うつもりか――」



 今日も怪人を倒し終え、群がる子供たちへファンサービスをしているれいれを眺めた後に、決めておいた待ち合わせ場所で合流する。


 きらなは自販機で買っておいた飲み物を手渡した。


「おつかれ」

「ありがと」


 というやり取りも習慣化していた。

 それだけパートナーとして定着してきたのだろう。


 魔法少女の衣装から制服へ戻ったれいれと共に、魔法少女の事務所があるテナントビルの屋上にあったベンチに腰を下ろす。


 喧嘩中なので仕方ない気もするが、お隣さんの高原はともかく森下たちとはまったく会っていなかった。

 そもそも魔法少女として活動している姿も見ていない。


 れいれに付きっきりだから見る暇がないのかもしれなかったが、それにしても姿を見せていなさ過ぎる。

 いつものサボりなら分かるが……暴れたい海浜崎や隊長の自覚があって進んで怪人退治に向かう新沼を見ないのは少し不可解だった。


「先輩たちも先輩たちで個別で仕事を貰ってると思うけど……確かに最初の頃みたいにチームで怪人退治に向かう出動要請はなくなったかも……」


 れいれもチームメイトと最近は会っていないらしい。

 ……人気のせいか仕事が爆発的に増え(怪人が現れる頻度は同じだが、人気のれいれに仕事が振られることが多いのだ)、事務所に顔を出さなくなったことが影響しているのだろう。


 だが、いくら人気のれいれだとしても、やはり実力は積み重ねた年月が多い先輩の方に分がある。

 実力が不透明な怪人を相手に、れいれ一人に任せるには仕事量が新人に任せてもいい量には思えなかったが……。


「れいれは急に仕事が増えて大丈夫なの? 体の調子とかさ」

「それは大丈夫。きらなの方こそ、毎回頼んでるけど大丈夫なの?」

「わたしは全然。だってみんなと一緒に応援してるだけだし」


 そんな趣味感覚でれいれの人気をあっという間に押し上げたのだから、そういう素質があるのだろう。

 体の調子もそうだが、れいれが聞いたのは別のことだったらしい。


「私は魔法少女だから免除されてるけど、きらなは授業を抜け出してるわけだし……」

「あー……。うーん、確かに怒られたけど……」


 れいれを手伝っていなくとも、怪人が出たら毎回抜け出して見にいっていたはずなのであまり変わらないだろう。

 教師の堪忍袋の緒がそろそろ切れそうだが、追試なり課題などで対応するだろうと見ている。


 れいれが勉強できるので、ここは頼るつもりでいた。


「うん? 手伝わないよ?」

「――うぇえ!?」


「うぇえ、じゃなくて。いやまあ、私も手伝ってもらってる身だから手助けしてあげたい気持ちはあるけど……」


「けど?」


 煮え切らない答えのれいれにきらなが首を傾げた。


「あの子の視線が恐いからね……」


 あの子? とさらに反対側へ首を傾げるきらなには思い当たる人物がいなかった。


 恐い、から連想される人物……。


「こみどりちゃん」

「え、恐くないよ」


「きらなには優しいけど、きらな以外には結構当たりが強いって分かったの」


 それは……、きらながいないとびくびくおどおどしているこみどりちゃんからは考えられないが、もしもれいれが感じた通りに人を怯えさせるような感情があるなら、彼女の成長を喜ぶところだろう。


「こみどりちゃんは良い子だから嫌わないであげてよ」


「それは、もちろん……。でもあの子の方がね……壁が厚くて中々難しいんだよね……。それは追々相談するとして、こみどりちゃんに手伝ってもらいなよ。最近は私にばかり付きっきりでしょ? あの子、寂しがってると思うよ?」


「そう言えば、そうかも。最近はこみどりちゃんと話す時間少ないからなー。でもれいれと一緒にいて、こうして活動するのが楽しくって仕方ないんだよね!」


「楽しそうなら、良かったけどぉ……」


 魔法少女としては順風満帆なのに、れいれの表情は中々晴れなかった。


 すると、窓が開けっ放しなのか、下の階から怒号が聞こえてきた。


 幼い、少女のような声だが、口調は荒い。


「――そんな安い報酬でやってられるか!」

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