第22話 優しい衝突
れいれが窓の外へ足を出した。腰は窓枠に下ろしたままだった。
その体勢で、きらなの方へ視線を向けた。
「……もう、私たちに任せてよ」
「え……」
「私は正直、魔法少女になりたくてなったわけじゃないから、きらなの気持ちは分からない」
嘘だ。
魔法少女ではなかっただけで、れいれだって憧れたものに自分がなりたい欲望を持つ気持ちは、充分に分かる。
夢のために努力する、楽しさとか、充実感とか。
……遠い昔話ではないのだから。
「諦められない未練を悪く言うつもりはないけど……でも、諦めないままでいる後悔は、良くは思わない」
「……つまり、諦めろって、ことでしょ」
「そうだけど、すぐにとは言わないよ。きらなにだって人の心があるんだから、ゆっくりと消化していけばいい。失敗や、才能をね――。はっきり言えば、きらなは必要とされていない」
度胸だけは一人前だが、成果に確実性がない。
きらなは結局、魔法少女の下位互換でしかなく、魔法少女を一人使えばきらなは用無しでしかないのだ。
きらなが思うほど、魔法少女は手助けを必要としていないのだから。
「もっと言えば、一般人が現場に紛れてしまっているのと変わらないから、私たちからすれば邪魔でしかないんだよ。手助けどころか、魔法少女を動きにくくしてしまってる」
守る者が一人増えるだけでも、魔法少女にとっては負担になる。
きらなが近くにいるというだけでも、周辺被害に気を遣うからだ。
「そんな……!」
「昨日の結果が一番分かりやすいと思ったんだけど……」
ひっ……、ときらなが顔を歪めた。
……あまり、この件については口に出したくはなかったけど、きらなにとって最も効く矛になってしまっている。
中々諦めないきらなの糸を切るには彼女にとってトラウマと言える矛を使うしかない。
きらなを傷つける矛であり、魔法少女にさせないように説得する盾でもある。
こう言っては被害者の女の子に悪いが、怪我をしてくれて良かったのだろう。
昨日の怪我がなければ、きらなはきっと繰り返し、もっと酷い大惨事を引き起こしていただろうから。
きらなを管理下に置く、という案がないわけでもなかったが、人の下で言うことを聞くような人材ではないと、小隊が総意を出した。
高原が言う危険は、一般人や魔法少女ではなく、きらな自身の危険を主張していたが。
なんにせよ、誰かがきっと怪我をする。
きらなの危なっかしさが自分に跳ね返るのならば熟考の余地もあったが、被害が周りにも及ぶとなると即決だった。
きらなを魔法少女に関わらせるのは、全員一致で反対だった。
……こういう役目を新入りに押しつけるのはどうかと思うけど……。
高原たちでは響かないだろうと踏んで、れいれに任せたのかもしれない。
事実、効果はあった……手に取った矛が最も適していただけの話、にも思えたが。
「きらなはもう、魔法少女のことは忘れた方がいいよ――」
つまり、私も。
友達としては接するけど、魔法少女としてはもう接しないとれいれは心に決めていた。
今日の付かず離れずの微妙な距離感は、きらなに魔法少女を連想させないためだ。
成功しているかどうかは、それこそ微妙だったが、初日ならまずまずだと思う。
積み重ねだ。
続けていれば、今日のような関係が日常になるのだろう……。
「じゃあね」
制服姿から青い魔法少女の衣装へ一瞬で変身し、れいれが黒煙へ飛んで向かう。
彼女は振り向かなかった。
……これが日常になる、か……。
慣れてしまえばこんな気持ちもいずれ消えてなくなっていく。
だからこそ、それが日常と呼ばれていくのだから。
「寂しいな……」
……きらなが魔法少女への憧れを捨てた時、本当の友達になれるかもね……。
その時、耳にはめた通信機器から受付嬢の声が聞こえた。れいれが答える。
「はい、もう少しで目的地へ到達します」
れいれとの衝突があり、それから数日はなんにも手がつかなかった。
唯一の癒やしは、こみどりちゃんの太ももの上だった。
彼女と話している時が、居心地が良くて、とても楽しかった。
だけど、脳裏にちらつくのは、やはり魔法少女だった。
今まで隣にあったものを突然捨てることはできない。
忘れようとしても、どうしても思い出してしまう。
怪人が出れば体が動いてしまう。
ネットで情報を見てしまう。
自分が魔法少女になれたら……、なんて妄想が、毎晩止まらなかった。
いっそ、記憶でも消せたら。
そんな力技しか思いつけなくなった時、一つの連絡があった。
怪我をさせてしまった女の子のお見舞いに、明日、行くことになったのだった――。
そして、人型の姿をした蜂の怪人に勝負を挑み、海浜崎に助けられた後、
現場に駆けつけたれいれと、あの日以来の会話だった。
「やっぱりいた、きらな……!」
「う……、れいれ……」
きらなは顔を引きつらせたが、この行動は誰かに言われたわけでも、一回だけ試してみようなんていう半端な覚悟の行動でもない。
彼女の中に答えがあり、たとえ絶縁を言い渡されたとしても止められない。
それほどの覚悟の上で、怪人を相手にした。
きらなに、もう迷いはなかった。
「……どういうこと?」
だから責める視線を見せるれいれに対しても、吹っ切れた返事ができた。
「遅いよれいれ。魔法少女ならもっと早く現場に着かないと。危なかったよ? わたしがいたからいいものを、後少しで女の人が怪人に刺されそうになっていたん――」
「なんで部外者がここにいるの?」
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