第14話 予感的中

「……へえ、あんたがねえ」


 気づけば海浜崎がれいれの目の前にいた。

 ……とは言え、目線は下げないとならない。

 すると、彼女がふっ、と笑った。


「骨がありそうで、楽しみだな」


 認められた、のだろうか……? 少なくとも仲間として拒否されたわけではない。

 が、ここで気を抜いていざ実践となった時にヘマをしては、せっかく良くなった心証を台無しにしてしまう。重要なのは共に活動をして不快に思われないことだ。


「じゃっ、今日の仕事の話をしようぜ」

「なにを急に仕切り出してるのかしら。ろくに内容も知らないくせに」


 あぁ? はぁ? と犬猿の仲である二人が一触即発の空気になったところで、ぱんぱんっと手を叩いて意識を逸らさせたのが高原だ。

 その後、口ではなく視線が動き、


「え、アタシ?」

「りりなは隊長ではないのかい?」


 高原の言葉に新沼の顔がぱぁっと輝き出した。

 隊長とは名ばかりで、実質、森下が仕切っていたのだが、彼女が使い物ならないとなれば役目は必然、新沼へと格下がる。

 最年長なのに威厳がないと気にしていた彼女にとっては、頼られることがとても嬉しいらしい。


「アタシに任せて!」


 そう胸を張って言い出したものの、二の句が出ずに事務所内がしーんと静まり返る。

 カウンターの向こう側、実は最初からいた受付嬢の女性が洗い物をするために水道の水を出し始め、その音がいつもなら気にならないのにやけに大きく聞こえてくる。


 目元のほくろが特徴的なカウンターの女性が、あっ、と声を出して、


「仕事の内容を知ってるの、まさちゃんだけじゃない?」


 任せてと大見得を切ったものの、新沼は仕事の内容を知らなかったようだ。


「おい、ポンコツ」

「ごめ~~~~んっ!!」


 泣き出した隊長の様子を見て、はぁ、と溜息を吐いて森下が重い腰を上げた。

 隊長の新沼が知らないのはもちろん問題だが、それ含めメンバー内で森下だけが把握しているというのもおかしな話だった。他の小隊ではあり得ない。


「最低限の仕事量で多くの報酬を貰おうという魂胆の君も、原因の一旦ではないのかい?」

「失礼な話ですね。効率化、と言ってもらいたいものです」

「おや、今は魔法少女であって学校ではないはずだよ? 敬語はいらないさ」


 素の対応に気づかされ、森下が若干頬を赤く染めた。


「君も分かりやすい動揺をするのだね、背伸びしててもやはり一年生のようだ」


 言い訳をしても優しい目で見られるだけだと把握しているので、森下はこほんと一度咳払いをして、頭の中を切り替えた。


「では、打ち合わせを始めましょうか。新人もいるし、いつもと違って詳しく説明を――」

「口頭での説明なんかすぐに忘れるもんだろ、見学させて目で盗めでいいじゃん」


 な? と海浜崎に目で問われ、れいれは頷くしかなかった。

 しかし、まったくの説明なしでも困る。

 そのへん、森下も分かっているようで最低限の説明はしてくれるようだ。


「…………」

 と、森下の動きが止まった。


「どうしたんだい? 急に黙り込んで」

「……少し、嫌な予感がしたのよね……」


 森下の視線が窓に向かっている。

 釣られて全員が視線を向かわせるが、彼女の意図に気づけた者はいなかった。


「……五階だし、あの子には無理、か……」


 事務所の入口の扉は防音性充分。

 聞き耳を立てても聞こえないはずだ。


「それじゃあ、今日の怪人は――」



 事務所が入っているテナントビルの前には、二人の女子中学生がいた。

 片方は小学生と言われても信じられるくらいの小柄で、

 もう片方は高校生と言われても疑いようがない高身長の少女だった。


「こみどりちゃん、わたしを肩車して」

「いいけど、きらな。いくら私でも五階には届かないよ……?」


 そう言いつつやってみるも、当然届かない。これではただ肩車をしてもらっただけだ。


「こみどりちゃん、もういいよ」


 彼女の頭を優しくとんとんっと叩くが、


「もうちょっとだけ……」

「なんでこみどりちゃんの方が延長希望なの……」


 にやけ顔で嬉しそうだったので、無理やり、下ろして! とは言わなかった。

 人目を気にするきらなでもないし、見る人は仲の良い姉妹がいるとしか思わない。

 目立ちそうだが意外と人混みの中に紛れ込んでいた。


「うーん……さすがにビルを壁伝いに登るとなると目立つし……」


「きらなはそんなこともできるの?」

「分からないけど、やってみたら意外とできそうかなって」

「きらなならできるよっ!」


「ごめん、自分で言っておいてなんだけど、無理だよ……」


 そっかぁ……としゅんとするこみどりちゃんを見てると、成功してあげたい気分にもなるが、さすがに自殺行為だという自覚はある。


 無茶ばかりするきらなだが、本当に後先考えていないわけではない。可能性が低くても、なんとかなりそうな根拠があるから行動ができるのだ。


 ……まあ、本当に追い詰められたらなにをしでかすか分からないけど。

 そう自覚しているくらいには、自己分析をしているつもりだ。


「さて、うーん。……どうやって盗聴しようか」

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