8. 唯一の研究の絶対視

B:犯罪とゲームが関連しないという研究がある。だから犯罪とゲームが関連しないということは絶対に確かめられている。


 科学というのはたいてい、すんなり割り切れないものである。数学の証明も正しいかどうか判断するのに、論文の刊行から数年かかるケースがあるという。目に見えない心理を操る分野であればなおさらだ。


 だからこそ、あることを示す研究が「たった1つ」しかないときは、それを鵜呑みにしてはいけない。ほとんどの場合、異なる結果を示す別の研究があるが、詭弁屋はそれを都合よく隠しているのだ。


 どちらの研究が妥当なのかは、実に難しい問題だ。だがたいていの場合、次のパターンのうちどちらかに落ち着く。1つは「どっちもそれなりに正しい」という着地点。もう1つは「実はおおむね結論が出ている」というパターンだ。


 前者の場合、話はある意味単純だ。これ以上論じる意味はない。だが後者の場合はどうだろうか? 実のところ、「結論が出ている」といっても、それを説明するのはピンポイントな専門家でないと難しい。少し違う分野の専門家でも「なんとなく」意見の大勢は把握できるが、それはあくまで「なんとなく」でしかない。


 もっとも、決着が既についているとき、新たにその決着に異議を唱える論文が妥当だという可能性は低い。すでに否定された研究手法に基づいた論文が別分野から出ているだけとか、古い研究がネットで蒸し返されているだけだというのが常である。


 とはいえ、この手の話はやはり素人には難しい。だが安心してほしい。誠実な論者であるあなたに難しいということは、つまり詭弁屋の手に余るということである。そして、前の節で述べたように、彼らはそもそも論文を読んでいない。だから、論文を読んだ前提で議論してやる必要はどこにもないのである。

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