6. 些細な間違いの重大化

A:衆議院議員がこのような発言をするのは問題だ。

B:彼は衆議院議員ではなく参議院議員だ。この程度のこともわからない人間が問題を理解できるわけがない。


 人間は間違える生き物である。ましてや、突発的に発せられ、そのまま流れていくネットの議論ではなおさらである。


 そのような場では、重大な間違いはさておき、誤字脱字や簡単な取り違えといった些細な間違いはスルーするのが普通である。いちいち指摘しても大した利益はないからである。多少間違いがあっても、主張がきちんと理解できるならそれで構わない。論文ではないのだから。


 だが、詭弁屋はそうしない。些細な間違いがあればそれをことさら取り上げて、主張全体が信用できないかのように言いつのるのである。


 例では、衆議院議員と参議院議員の取り違えをBが重大な問題であるかのように言っている。だが、ある発言が国会議員として不適切であるという話をするときに、発言者が衆議院議員か参議院議員かということは、究極的にはどうでもいいことだ。「衆議院議員には許されないが参議院議員には許される発言」というのは極めて稀である。


 どのような間違いが重大で、どのような間違いが些細かは議論の論点によって変わると言わざるを得ない。例に挙げた衆議院議員と参議院議員の取り違えでも、選挙にかかわる話をするならば重大な間違いとなるかもしれない。


 だが、これまでにもすでに述べてきたように、詭弁屋はケースバイケースという概念を理解できないので、重大な間違いを指摘しようとすると些細な間違いも指摘せざるを得ない。区別ができないのである。


 一方、この詭弁は詭弁屋が「自分の間違いは問題ない」という都合のいい矛盾した態度をとることにも支えられている。もっとも、彼らのそれは意図的なデマであって間違いと表現すべきものではないのだが……。

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