7. 反転可能性テスト
A:考えを表明した以上、批判されるのは仕方がないことだ。
B:なるほど。では性的志向を表明したセクシャルマイノリティを気持ち悪がるのも自由ですね。
これも粗雑な要約の一種だろう。ただ、著名な詭弁屋が好んでいるということと、この手法自体は論理学的には1つの手法として確立されているらしいことから、別建てて論じることとした。
反転可能性テストとはもともと、ざっくり言えば「真逆の立場に立ってみよう」という振る舞いである。妥当な例として以下が考えられるだろう。
A:あなたは私を殴ってはいけない。あなたが私の立場でも同じことを思うだろう。
ただしこのテストは、当然だが「正確に反転」されていなければ意味がない。一番上の例は、それが全くできていないものである。
ここでは先ほど述べた詭弁である「ニュアンスの無視」を用いて、「批判」と「気持ち悪がる」ことを混同している。もっと言えば、厳密には「考えを表明」することと「性的志向を表明」することも同じとは言い難い。
より正確に反転するのであれば、Bの発言を「気持ち悪がる」ではなく「批判する」と変えるべきであろう。だが、こうなると「セクシャルマイノリティの性的志向を批判する」という、意味不明な文章になってしまう。性的志向をどう批判すればいいのだろうか。
そういうわけで、Bの主張は論理的に妥当性がない。だが、この反転可能性テストは多くの要素を含むために、そしてその名前からもっともらしい振る舞いのように見えてしまい、コロッと騙される者が後を絶たない。
また、テストをするという振る舞いがために、詭弁屋の方が優位に立っているようなイメージすらついてしまう。これは後に述べる「審査するのは自分という態度」である。常に優位に立つポーズをとることで、虚構の優位を作り支持者にアピールするのである。
なにより、Bの主張はあまりにも馬鹿らしいにもかかわらず、実際にその馬鹿らしさを説明しようとすると、どこがどうおかしいのか考えて言語化する手間が生じる。応答コストの増大化も招くのである。厄介なのは、この出鱈目が直接的な捏造ではないため、「そんなことは言っていない」の一言では否定しにくいという点である。
一方、テストする側は出鱈目を並べればいいので、いくらでも量産できる。
こういうわけで、反転可能性テストをやられた側は閉口し、詭弁屋はつけあがるのである。
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