6. 粗雑な要約
A:私は犬や猫も好きだが、カエルや蛇ほどではない。
B:Aは犬や猫が嫌いらしい。
ここまで極端な例であればわかりやすい。これまでの詭弁を「ニュアンス無視族」と呼ぶのであれば、これはその大ボスである。粗雑な要約は、とにかく精緻な議論を無視し、都合のいいところだけを切り貼りして相手の主張を捻じ曲げる詭弁である。
相対的に相手の主張を捻じ曲げ、その捻じ曲げた主張を「論破」するという振る舞いを詭弁屋はよくする。傍から見ればいわゆる「藁人形論法」だが、詭弁屋にとって重要なのは「論破」したというポーズである。論破しにくい主張なら、しやすいものに捻じ曲げればいいというわけだ。
上の例文では、「犬や猫」と「カエルや蛇」という2つのグループの関係が、どっちも好きであるという前提の上での比較から、好き嫌いの対比的な比較へすり替えられている。これでは本来のAの真意は伝わらず。Aが犬や猫を嫌っているという誤読のみが広まる結果となる。
このような詭弁は、元々の主張が複雑で長くなるほどわかりにくくなる。例えばこんな調子だ。
A:私は死刑制度に反対である。非人道的な行為であるし、冤罪で処刑を行ってしまえば取り返しはつかない。もちろん、被害者遺族が加害者の死を願う気持ちは当然であろう。それは理解できる。だが司法制度を考えるときに遺族感情を持ち出すのは間違っている。ましてや、遺族ではないものが、遺族感情を盾に死刑を求めるなどということがあってはならない。
B:Aは被害者遺族に、加害者の死を願うのはやめろと言っている。
上の例では、確かにAは遺族感情ベースで死刑制度を考えるべきではないと言っている。だがそれは、「司法制度を考えるときに」という限定がついた主張であり、あらゆる場面においてそうすべきであると言っているわけではない。むしろ、Aの主張ではそうした感情は「理解できる」とまで言っている。
だがBは、そのような条件やニュアンスを無視し、遺族感情の否定というAの主張のごく一部のみを拡大して強調し、Aの主張を捻じ曲げている。そして、全面的な遺族感情の否定という、賛成することが極めて難しい極論に落とし込むことで、Aの主張が信用できないものであるかのように扱っている。
相手の主張を粗雑に要約する手法はいくらでもある。ここで重要なのはその手法よりも、むしろなぜそのような粗雑な要約が行われるかである。実体のない虚構の敵を作り、それを打ち倒す物語で支持者を歓喜させるというのは、古今東西どこにでも見られる騙しの手口である。
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