5. 質・量の程度の無視

A:この液体は人体に害がない。

B:それは嘘だ。飲んだ人間が死亡した事例がある。


 これだけ見ると、違和感はない。だが、Bが言っている死亡事例が、その液体を8L一気に飲んだ場合のものであると知ったらどうだろうか。通常、どんな液体でも8L一気に飲んだら死の危険がある。体内の塩分濃度が狂うからだ。


 この詭弁はのちに述べる統計数字にまつわる詭弁と類似するが、数字に限った話ではないのでここで取り上げた。以下のように量だけではなく質的な程度を無視するパターンも存在する。


B:納入されたマスクに少し問題があったからといってなんだ。完璧なものはあり得ない。


 実際に見た事例である。問題は、Bが言うところの「問題」が「マスクにカビが生えていた」というものであるという点である。確かに、完璧なものはあり得ない。が、衛生用品にカビが生えているというのはどう考えても看過できない問題である。カビが生えるような環境であったということは、ほかのマスクも見えないだけでカビに汚染されているかもしれない。


 ここでは、Bは「少しゴムのつけ方が甘かった」とか「パッケージに入っているマスクが1枚多かった」ような問題と、「マスクにカビが生えている」という問題の質的な問題を混同している。前者の問題なら「そういうこともあるよね」で済むだろうが、後者はそうはいかない。マスクという物品の重要な点が毀損されていることを無視しているのである。


 ここで注目してほしいのが、いずれの例でもBがそれぞれの事例や問題について、詳しい情報を一切示していないということである。液体の安全性といえば、普通我々は常識的な量を飲んだときの影響だと思う。少しの問題といえば、せいぜい枚数違いとかその程度の間違いを意味すると思う。その普通の推論を悪用し、あえて曖昧な情報を与えることで誤解を促進するのもまた、詭弁の手法である。

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