1. 極端な主張の主流化

A:猫派は死ね。

B:犬派はみな、このような狂人ばかりだ。


 悪魔化と呼ばれる技法で最も多いのは集団を貶める振る舞いである。悪魔化のターゲットになる集団というのは元々ネガティブなものとして理解されている。そのイメージに乗る形で悪魔化を流布することで、相手をさらに貶めつつ自分は「もっともなことを言う人」というポーズを取ることができる。


 そのような集団に対する悪魔化で簡単なのは、極端な主張を取り上げてあたかも集団全員がその主張を共有しているかのように言いつのることである。


 例を見てみよう。Aが極端なことを言っている、それは事実である。問題は、Bがその極端な主張を犬派という集団に一般化しようとしているところである。もちろん、Aのような猫至上主義者は少数だろうが、Bはそのことを無視している。


 現代はSNSに膨大なアカウントがあり、それらを探せば1人くらい極端なことを言う人が見つかるものである。だが、1人いるからそれがその集団のスタンダードだとは、当然言えない。無論、詭弁屋はそのようなことお構いなしである。


 酷いときになると、貶めたい集団に「なりすます」かたちでアカウントを運用し、そのアカウントで極論を発信し、それを一般化するというマッチポンプが行われることすらある。これは詭弁屋が1人でやっているのではなく、その集団を貶めたい人間が大量にいて、彼らが共同するかたちで行われるのである。


 その集団に近ければ、その主張が集団内でどれほど主流か漠然と把握できる。厄介なのは、そのような把握はあくまで漠然としたものであり、客観的な証拠など当然存在しないという点だ。証拠が存在しないことをいいことに、詭弁屋は自らの示したわずかな事例が一般であるかのように振る舞い始める。


 こうなると、彼らはもう止まらない。特定集団への敵対心で一致した彼らは、極端な事例を見つけては盛り上がる。そうするうちに、最初はおふざけだったかもしれないが、本当にそのような極端が一般的であるかのように思えてしまう。


 実際、彼ら自身はわざわざ自ら進んで極端な事例ばかり見ているから、このような印象になるのは当たり前ではある。

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