6. 審査するのは自分という態度

A:犬は哺乳類である。

B:本当か? 証拠を出してください。出さないなら嘘と見なします。


 議論において、ある主張をするものはその根拠を出さなければならない。これは当然である。


 一方、相手の主張に反論する側も、その根拠を出すべきである。相手の主張に根拠がないという指摘はその1つだが、裏を返せば1つでしかない。場合にもよるが、積極的に相手と逆の主張をしたいのであれば、やはり根拠は必要である。


 しかしながら、詭弁屋はとにかく根拠を出さない。出したとしてもこれまで説明したようなクソみたいな根拠なのだが、大方はそのクソみたいな根拠すら出さないのである。


 一方で、彼らは相手に根拠を求め続ける。この手法は相手に根拠を出させることで応答コストを増大させうんざりさせるのと同時に、主張の審議を審査するのは自分であるというマウントを取るのに使われる。


 「議論」の勝敗は雰囲気で決まる。故に、詭弁屋は「勝っているっぽい空気」作りに腐心する。議論は通常対等に行われるべきだが、対等では勝っている感じは出せない。なので彼らはこの対等性を破壊しようとするのである。


 では、相手が主張の根拠を出したらどうするだろうか。簡単な話で、一切目を通さずに難癖をつけて排除し、根拠がないと言い続けるのである。根拠に難癖をつける方法なら第3章にたっぷりとある。


 ちなみに、最初に「相手の主張に反論する側も、その根拠を出すべきである」と書いたが、この手法は自分が反論「される」側でも使うことができる。このような感じだ。


B:犬は爬虫類である。

A:いや犬は哺乳類だ。卵も産まないし。

B:その主張には根拠がない。早く根拠を出せ。


 詭弁屋は言葉を不誠実に操ることで、あたかも最初に議論を始めたのがAで、自分はそれに反論しているかのような空気を作り出す。もちろん、根拠がないのはBの方である。

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