下準備その3 主要な戦場を決める

 支持者も集めた、相手も決めた。しかしまだやることが残っている。

 それは、主戦場を決めることである。言い換えれば、主にどのような分野で詭弁を振るうのかを決めるということである。


 例えば、ネット右翼の支持者を集めて詭弁を振るうとしても、歴史修正主義をメインとする者もいれば、現代日本を乗っ取る在日という虚構を流布する者もいるだろう。あるいは現在の韓国が暗黒であると言い立てる者がおり、それの中国バージョンもいる。逆に、「親日国」について発信する者もいる。自民党の成果をアピールする者もいれば、野党の反日売国ぶりを書く者もいる。というようにだ。


 もちろん、彼らは緩やかにつながり、それぞれが別のことを言うのは稀ではない。だが、このような専門性の決定は多かれ少なかれなされていることが多い。


 なぜこのようなことがなされるのか。理由は主に2つある。


 1つは、下準備1で述べたような、支持者集めに都合がいいからである。「○○といえばこの人」という立場になれば、猫も杓子も自身をフォローし、発言を鵜呑みにするようになる。


 自身の特徴や背景から、分野を限ったほうが主張の説得力を担保しやすく、それが支持者集めに便利であるという側面もある。先ほどのネトウヨの例で言えば、ある者は元警察官という立場を利用して外国人犯罪の危険性を説く。極端な場合には、叩きたい外国人と同じ属性であることを利用し、同国人による同国人叩きという構造に持ち込むということが行われている。


 もちろん、警察官だからといって現実の治安状況を正しく理解しているとは限らないし、たとえその国の出身だからといってその国について正しく把握しているとは限らない。むしろその認識が誤っているからこそ詭弁屋として振る舞えるのだが、詭弁屋を支持する人々にとっては中身はどうでもいいことである。元警察官という属性が、その主張を信じる自分を肯定してくれればいいのだから。


 戦場を決めることのもう1つのメリットは下準備としての「エビデンス(らしきもの)集め」に極めて有利だからである。


 当然の事実として、人は全知全能になりえない。だから、詳しく論じることのできる範囲には自ずと限界が生じる。そして「議論」に勝つためには、説得力があると見える振る舞い――例えば論拠を提出することをしなければならないのだが、その論拠を集めるのはことのほか手間がかかる。


 そこで、戦場を決めることが生きてくる。1つの分野に集中して徹底的にエビデンスを集め、即座に提出できる状態を整えることで、説得力があるように見える振る舞いをとることができる。多くの分野に視点が拡散してしまうと、このエビデンスらしきもの集めは不徹底に終わり、説得力のアピールに失敗してしまうだろう。


 もちろん、このエビデンスはあくまで「エビデンス(らしきもの)」であって、実際に根拠として機能しなくても構わない。詳しくは第3章で述べるが、彼らは支持者へのアピールに使えさえすればそれでいいので、論文著者の名前すら確認しないことがよくある。かつて否定されたものだろうが関係ない。


 とにかく大量に「それっぽいもの」を集めるのが重要なのである。そして、それをするには戦場を限定したほうが都合がいいのである。なにせ「それっぽいもの」はあまりにも大量にあって、彼らにも集めきれないのだから。

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