第27話 信用を得る演説

 白服の生徒の一人が僕の勝利を宣言したのを聞いて、旧校舎から本校舎の校庭まで吹き飛ばされ未だに空を仰いでいるアドラを足でつつく。


「アドラ兄さん、いい加減起きてくださいよ。それでも僕の兄ですか」

「うっ…………ううっ……っ!?」


 目を覚ましたアドラは僕を見上げると、アドラは僕に脅えたようにお尻を擦りながら後ろにさがる。その無様な姿が僕の実の兄と思うと悲しくなってくる。 


「おっ、お前っ!? 一体、どうやって勝ったんだっ?」


 僕の気持ちも露知らず、アドラがそんな質問をするから、僕は兄に対しての尊敬もなくつまらなそうに答えた。


「だから言ったじゃないですか。兄さんたちが僕の脳力を誤解していて――」

「それだけで説明が付くかっ!? たとえ脳力の解釈を多少間違ってもその根本はだ! ならば、その蓄えられたエネルギーがお前の体の中に納まりきるわけがないだろう!?」

「それですよ。それこそが二つ目の誤解です」


 口を「お」の形で開いたままのアドラに僕は確認するように質問を返す。


「僕の脳力の根本は確かに『僕という器』に対して行う吸収と放出です。そしてその力は僕の体に蓄積され続ける。ここまでの認識は分かりますよね?」

「あ……あぁ……」

「だから、単純なことですよ。その『僕という器』を大きくして従来のSSランクの脳力使用時間を増やしていたんですよ」


 僕がそう告げると、アドラはまるで信じられないと言ったように目を見開いて仰天する。


「そ、そ、そんなことができるはずがないっ!! 脳力を表す数値『IQ』は生まれた時に決定しそれが上がることも下がることもないっ! それが常識だっ!」

「ですが、それが間違っていたのです」


 そう断言した僕にアドラは返す言葉もなくさらに口を開く。そんな彼にお構いなしに僕は広い校舎でもしっかり通る声で自分の研究結果を伝えていく。


「僕が十歳のころ、ユリエ姉さんの脳力特訓に付き合っていたのは知っていますね? そしてその時に姉さんの脳力の向上が見受けられ、現在ではSランク脳力者として生活しているのも」

「…………それがどうした。それはユリエが、ただの役立たずではない証明ができただけだろう?」

「いいえ、僕はその特訓の向上具合を日々記録していました。その結果、ユリエ姉さんが訓練を繰り返すたびに少しずつですが、脳力の使用時間が増えていることに気付いたのです」

「ありえない! もしそれが本当なら、十ある国の最強国ヴィルグレン共和国が定説した『IQ決定説』はどうなるのだっ!?」

「そんなもの決まってます。それはヴィルグレンが間違っていたのです」

「はっ……? はあぁぁぁぁぁっ!?」


 アドラの言葉を一蹴すると、常識知らずの僕の言葉にアドラは警笛よりも甲高い声を出す。


 この世界の大陸でスキル至上主義を掲げた最初の国にして最強のヴィルグレン共和国。その国から得られる最新の技術や情報が世界を動かしていると言ってもいい。まさに世界の縮図。


 だからアドラが僕の言葉にアホみたいな声を出すのも、僕の言葉が世界の常識を覆しかねない発言だからだ。


 そして僕は今のこの状況を少しばかり利用することにした。


「そして僕が言ったこの説を完璧にした者たちこそ、兄さんが馬鹿にした赤服の低脳力生徒たちひいては彼がの主導者である《救世連盟》だ。僕はただ、彼らが考えた革命的な発見を実行に移したまでだよ」

「う……嘘だろ……っ!? この発見を……赤服や低脳力者たちがしたっていうのかっ!?」


 その事実にアドラが泡を食っていると、旧校舎から出てきた赤服の生徒たちを見やり、僕は少し演者っぽく語る。


「その通りだ。だが、兄さんたちが負けた本当の理由はそこじゃない。力や身分の弱い者たちを見下すことしかせず耳も貸そうとしない。そして自分の生まれ持った力だけで満足した君たちのその驕りこそが兄さんたちの敗因だっ!!」


 そこまで言って僕はアドラが僕から目を逸らして戦意を喪失するのを見届ける。そして、旧校舎の方向に振り返って僕は赤服生徒たちに高らかに宣言する。


「もう一度約束しましょうっ! 僕、レイジア・A・ガレアスはここに自分の持ち得る力を行使し、この歴史的発見をした《救世連盟》の彼らに協力するための裏生徒会をこの学園に設立しますっ! ですが先ほどの戦い同様、世界は不条理な無条件で僕らに押し付けるでしょう。そしてそれに打ち勝つには僕だけの力ではなく、先ほどのように皆さんの努力が紡ぎだした新たな発見やチームワークが必要です。こんな僕ですがどうか、皆さんの力を御貸しくださいっ!!」


 そう言って僕は彼らに向かって直角に腰を曲げて深々とお辞儀をした。

 

 それからほんの数秒の間、校庭には風が通り抜ける音だけが聞こえ、それが僕の背中をすり抜けた瞬間、今度は盛大な音の波が僕の体に降り注いだ。


「「「「「「うおおおおおおおぉぉぉぉぉぉっっっ!!」」」」」」


 赤服生徒の喝采が上がり、数でも脳力でも劣っている赤服生徒が隣で固まっている白服生徒を旧校舎から押し出すくらいとどろいた。

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