第21話 俺様パート:力の使い方
「さて、それじゃあ派手にいくとするか」
『おい……ほんとに何をするつもりなんだよ…………』
さっきぶりに表に出た俺様は、公園に着くまでに宿主であるクソガキが見逃したある現場まで来ていた。
そこにはとある建物の建設現場前で四人の男と、男たちに囲まれて謝罪するように頭を地に擦りつける一人の女がいた。
そいつはこの前のカナタとクソガキとのデートで、クソガキがたまたま助けた女性建設員だった。
「おいお前ら、こんなところで何してやがる?」
俺様が声をかけると男たちは一斉にこちらに訝しげな目を向ける。
だが俺様の宿主であるクソガキの姿と判るとその態度は急変し、物凄い速さでゴマをすってくる。
「レ、レイジア様っ……!? 気付くのが遅れて申し訳ありません……!」
「挨拶はいい。俺様の質問に答えろ」
「は、はいっ! 今日私どもがここに訪れたのは、ここに座す低脳から税を徴収するためでございますっ!」
男の一人が女の髪を掴んで地面から無理やり顔を上げさせるとそのまま話を続けていく。
「この女は低脳でありながら国から多額の支援金を貪っていたためその分で増える税を取り立てていたのです」
「……や、やめて……ください……」
男の説明が一通り終わるとその話の合間を縫うように女が髪を掴まれたまま懇願する。
「そ……その支援金は私の母子家庭のための支援給付金で税は発生しないはずです……!。もしそれにまで税を課せられてしまっては、私の家族は全て飢え死んでしまいます……! だから、どうか、どうか……!!」
女がそこまで言うと、女の髪を掴んでいた男が再び女の頭を地面に叩きつけ、それを聞いていた他の三人の男たちが口々に女に対して暴言を吐く。
「そんなの知るかボケッ!」
「俺たち国に使える兵士が払えと言ったら払うんだよっ!」
「そんなことも分からねぇから、お前ら低脳は駄目なんだよっ!」
言葉の暴力と力のよる暴力。
その二つの理不尽をか弱い女に叩き込み、男たちは下卑た笑みを浮かべていた。
『…………これがこの国で、この世界の簡略図だ』
俺様の中でクソガキが諦めたと苦しみに満ちた声をあげた。
『たとえどんな方法で生き抜こうとしても、力ある者にはそれはとてもつまらない。だから弱者はこうして邪魔をされて傷ついていく。そしてこうなったのはあの時、僕が彼女を中途半端に助けてしまったからだ……』
確かにそうかも知れない。
あの時クソガキが現場監督から女を庇わずにいれば、わざわざ国の兵士が税の徴収などと言うどうでもいい口実を作らずに済んだかも知れない。
だからこそこの兵士たちはここに現われたし、俺様は先ほどから涙と血に濡れた女の瞳に睨まれつづけているんだ。お前のせいでこうなったんだと言わんばかりに。
「たとえそうだとして、どうなんだ?」
俺様がそう発すると、心の中にいるクソガキとその場に居た兵士たちも驚きのあまり黙り込む。
「レ、レイジア……様……?」
『お、お前…………この感情は……!?』
俺様の心の中にいるクソガキはよく伝わるだろう。
それもそのはずだ。今目の前にいるいい歳した男たちですら俺様の形相に歯をガチガチと震わせているのだから。
「いいかお前ら、よく見ておけよ。これが俺様の怒りで――」
俺様は右手を男四人に向けて言い放つと、男たちはそれで何かに勘付いたのか慌ててその場から逃げ出そうとするが、遅すぎる。
「――これが、本当の力の使い方だ」
俺様はクソガキの『
俺様が放ったエネルギー波に吹き飛ばされた男たちはそれぞれ壁にや地面にバウンドし倒れていく。
かくゆう女の方は、男たちが切り捨てるように地面に落としたために俺様の攻撃を避け未だに地面に頭を伏せたまま
『お前、何やってるんだっ!?』
俺様が落ち着いて客観視していると、心の中からクソガキが狂ったような叫び声をあげていた。
『相手は国の兵士だぞ!? もしこんなことが父や兄上の耳に入れば、僕の国王第一継承権の剥奪すら有り得るのが分からないのかっ!!』
「そんなもの要らん」
『っ……!! い、い、イラン……?』
何を言われたから分からず困惑を示すクソガキに俺様は重ねて言ってやった。
「目の前の民一人救えない王など王ではない。王とは、たとえ自分の身を犠牲にしても己と己の大事なモノを守っていく者のことを言う。なのにお前ときたら、王族の癖にまるで暗殺者みたいに姑息な手ばかりを使いやがって……。だから決めたぞ」
俺様は地面で蹲る女の肩に手を置くと、そのまま二人に向かって堂々と宣言した。
「もしお前がこれから変わっていくのならば、俺様は俺様の全身全霊を持ってお前らを導いてやる。そのための力と知力をお前に授けよう」
俺様の言葉にクソガキは否定するかのように心の中に逃げ込み、目の前の女は救われたように俺様を見つめ、それから耐え切れなくなったように涙を流した。
その瞬間、俺様の心の中からカチッとスイッチが切り替わった音が鳴り響き、俺様の意識は流されるように消えていく。
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