第22話 協力
クライに体を乗っ取られてから数分後、僕はまた噴水のある公園に戻ってきていた。ここならまたクライと話しをしても人通りが少ないからだ。
「結局、君は僕の体を使って何がしたかったんだい?」
『はぁ? お前、まだ俺様の教えが分かってないのか?』
僕が無言で頷くと、クライは溜息を吐いて分かりやすく不満を見せる。
『力というのはただあるだけでは無力なんだよ。正しい場所で正しい振るい方をしてこそ力とは効力を発する。そのやり方がお前はヘタクソだ』
「…………いい加減にしろよ」
『あぁん?』
僕の気も知らないで断言するクライに僕は内心イラついていた。
好き勝手に言いたい放題、その上体まで奪って……ここまで言われたらこっちだってとことん言ってやる。
「お前は僕の記憶を覗いてるんだろ。なら分かれよっ! 僕はこの国一番の高位脳力者でしかも次期国王に一番近い男だ。それなのにっ!」
僕は唇を噛み締めて強く想いを込めて言う。これが僕の本心だと、今までやってきた世界への足掻きだとクライに伝わるように。
「低脳力者は……カナタは……どんどん傷ついていく! たとえどんな形で低脳力者たちを王族権限で助けても、どんなに《救世連盟》の活動を拡げても、僕の父が統治するこの国は弱い者とそれを守る者たちを否定する。だから…………今じゃないんだよ。たとえカナタや低脳力者たちが傷ついても、それを見ない振りして待ってることが結果的に正解なんだよ…………」
僕が諦めるように言い終えると自然と僕の瞼が熱くなった。
こんなことを認めたことが辛いのか、それとも事実を改めて自分に突きつけたからだろうか。いや、それとも――
『自分が認めたくも、言いたくもないことを言うんじゃねぇ』
僕の心を先読みしたかのようにクライが僕に叱責する。すると今度はいつもの人を小馬鹿にするようなあざけた喋り方で半ば僕を挑発するように話しだした。
『長々と語っていたがつまりはこう言うことだろ。「僕は悪くな~~い。周りの環境や人の目が気になるからカナタと付き合えな~~い。だから、僕がカナタを助けられないのは国や世界のせ~~い」ってか? 馬鹿ばかしい、それこそお前の怠慢をひけらかしてるようなものではないか? ちょっとばかし才能や家系に恵まれたからってそれ以外でできないことがあるとすぐに何かのせいにする。それこそ本当に幼子の如しではないか?』
「違うっ! 僕は決してそんな風には――!」
『違くないっ』
僕の反論をクライは一言で一蹴した。
そこには先ほどまでの
『いいか、クソガキ。お前が失敗してきた原因はそこだ。自分の手ではなく、結果的に他の奴に大切な役回りを任せ、そして自分は高みの見物をするようなその温いやり方だ。だからいざって時の身の振り方が分からねぇし、重要な所を部下の失敗でオジャンになるんだ。今日もカナタが襲われている時だって結局お前は心の中で誰かに助けを求めていた。それはさっきの女建設員の時もだ。都合がいいんだよ、お前はっ!!」
クライの言葉に思い当たるところがない…………とは、到底言い切れなかった。
僕の作った『脳力応用思案書』を使った計画が
『これでもまだ反論があるって顔してるな……。ならお前はカナタをこの国、ひいてはこの世界から救う方法を知っているのか? 分かるのか?』
「そ……それは、分からない……けど――!」
『けどなんてガキみたいな言葉使うんじゃねぇっ! この際だ、はっきり言ってやろう! 俺様がお前から聞きたいのはたった一言だけだ!』
はっきり言うつもりだったのは僕のはずが、またもや僕の言葉を押し退けたクライが僕に詰め寄るように一つの問いを投げかけた。
『お前は本当にカナタが好きなのかっ!?』
「……………っ!!」
あまりにシンプル。そして僕の行動原理を直接突いたような質問に僕は思わず言葉を失う。
『それだけは聞きたい。どうなんだ?』
「……………………僕とカナタじゃ身分が違う。きっとそれのせいでこれからもカナタを傷つけるに決まってる…………」
『身分とか傷つけるとかそんな話じゃないっ! お前はカナタをどれくらい想っているんだ?』
僕は思わず目を伏せた。
あまりにもクライの言葉が真っ直ぐで、真剣で。
それは一度、カナタとの夢を諦めた僕にはあまりにも輝きすぎていた。
「でも……どれほど想っていたって、僕じゃ彼女の隣には……いれない……いる資格がないんだ……最初から。だから、僕は諦めたんだ…………もう、後悔したくないから……。だから、僕はカナタと一緒には…………」
『後悔とか資格とか、そんな話でもないっ!』
クライは断言した。
その一瞬、まるで悟りを開いたように僕の視界を通して世界そのものが広がった気がした。
『たとえ、お前が行動を起こすのに資格が無かろうが、身分が無かろうが、その先の未来はやってみるまでは誰も分からんだろうがっ!! たとえその結果、カナタが傷ついたとして、お前が後悔しても傷付けることが出来るくらいにお前はカナタの近くに寄り添えるじゃないか! お前が近くにいれば今日のようにカナタが悪漢に襲われることもないし、泣き顔よりも好きな女の笑顔を誰よりも真近で見れるじゃないか!』
「でも、僕一人の力で、一体何が…………?」
力無く言った僕がさらにうな垂れると、先ほどから一変してクライは僕を諭すように言葉をかけた。
「一人で駄目なら二人で肩を組んで支えあえばいい。二人でも歩けないなら三人目が背中から押してやればいい。簡単な話だろう?」
「っ……………………!!」
――その言葉はあの日、カナタと別れた日にカナタが言っていたことと同じじゃないか
「ふふっ…………はははははっっ!!」
『うわっ!? こわっ! 急にどうしたクソガキ? やはり、俺様の理論が完璧すぎて思考が崩壊したのか?』
「違うよ。そうじゃない」
――そうだ、あの日、そうやって約束したじゃないか。あの時の僕は呆れたけど、案外、世界って奴はカナタやクライみたいに純粋で単純なのかもしれない。
僕はクライがいるグラナドラに真っ直ぐに向き合ってから、少し目を閉じて穏やかに言う。
「……分かったよ。僕の負けだ」
『ん? と、言うと……?』
「カナタと僕。別行動とはいえ、二人で駄目だったんだ。三人目の協力を得るのも悪くないと思ったんだよ」
『にししっ……。で、何なんだ……?』
――こいつ、もう分かってる癖に…………。本当にむかつくな。
「…………君に僕の力を貸す。その代わりに君も僕の――僕らの夢のために協力をしてくれ。……ちゃんと言ったぞ、これで満足だろ?」
『にししっ。じゃあ改めてこれからよろしく頼むぜ、クソガキ』
「…………そのクソガキってのはそろそろ止めてくれないか? いい加減腹が立ってきたよ」
『あぁん? クソガキはクソガキなんだから仕方がねぇだろ? 呼ばれたくなけりゃもっと立派になって俺様を見返して見るんだな』
クライのこう言うところが僕は嫌いだ。
だがそれは同時に、こいつの破天荒な行動や言葉に僕は何故か淡い期待を持っているからかもしれない。僕にはない、こいつの未知なる可能性が。
『だがいきなり俺様の全ての力を貸すわけにはいかない。お前にはある試練を乗り越えてもらう」
「……? なんだよそれ? 初めて聞いたぞ」
突然のクライの言い分に僕はクライを問い詰める。
だがクライはそんなものどこ吹く風といった調子で聞き流し、次の瞬間とんでもないことを口走った。
『とりあえず、お前の学園を乗っ取れ』
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